Stevie Wonder “Journey Through the Secret Life of Plants” 〜バックグラウンド・ザ・ヴァイナル 06

WRITER
SWING-O

“Journey Through the Secret Life of Plants”Stevie Wonder 1979

 SOUL PIANIST/SOUL PRODUCERであり、SOUL DJでもあるわたくしSWING-Oによる、バックグラウンド・ザ・ヴァイナル第6回はStevie大先生の謎のサントラ盤を紹介しましょう。1979年という、すでにBlaxploitation系の黒人主役の黒人音楽映画はブームがすっかり終わってしまったタイミングに、盲目の、つまり映画を見れないStevieがなぜこんなサントラを世に残したのか? この作品が残した影響はあるのか? ないのか? そんな視点で聴くとこの謎のサントラ盤が面白く聴こえてくるのです。

 一般的に知られているのは、大作であり大ヒット作である『Songs In The Key Of Life』1976年から、当時としては異例の3年も間を空けてリリースされた、ドキュメンタリー映画のサウンドトラック二枚組で、これまでの作風と大きく変わっていたこともありセールスも伸びず、評判も良くなかったとされてますね。そもそも映画も未公開に終わってしまったようで、Stevieとしては散々ですよね。でもアルバムからシングルカットされたC-1「Send One Your Love (邦題:愛を贈れば)」だけはポップチャートでも4位の大ヒットとなってますし、これはStevieの数多ある名曲の中でも指折りの名曲だと俺的には思ってます。まずはこの曲を聴いてみましょうか。

 こんなPVがあったんですね? Stevieがサングラスをしていない動画があるのはこの頃だけですよね? 『Talking Book』のジャケットはしてませんでしたが、動画ではいつもしてるイメージです(しかしこの中でStevieに寄り添ってる美しい女性は誰だ??)。

 こんな名曲がありつつも、このアルバムは個人的にはやはりつるっと聴くのは辛い作品集ではありました。どんな映画かがせめて分かれば理解出来るかもしれないのに……と思っていたら、さすが現代ですね、YouTubeにありました。

 どんな映画かを要約すると、地球創生まで遡りつつ、生命が誕生し、植物と動物に分かれていくわけですが、元が同じ生命なのだから、植物にも感情があるのではないか? 彼らにも言葉があるのではないか?という視点で描かれていくドキュメンタリー映画です。実際サボテンや食虫植物などにコンピューターをつないで、彼らが人間と同じように感情の起伏があることを示していく映像も多数挟まれています。Stevieはその映像に忠実に音楽をつけて、曲によっては歌をつけているのです。実に豪華なDiscovery Channelと言った感じでしょうか。例えば食虫植物に関しての曲の歌詞はこんな感じです。

 A面の最後には日本語曲の「愛の園」があるんですが、それは、この映画の40分あたりに出てくる、日本人学者橋本氏がサボテンと会話ができるのを証明する実験!!のシーンで使われてます。このシーンだけのために、Stevieは独自の方法で琴を演奏しつつ、映画のテーマに沿った歌詞をつけたんですね。彼なりの「日本」なんでしょうけど、和音階になってないところが面白いです。Martin DennyやLes Baxterなどのエキゾチックミュージックにも近い、想像音楽ですね。ちなみにこの曲は幼少期の西田ひかるが参加していることでも有名ですね。ちゃんとクレジットされています。

 このアルバムにはインスト曲を筆頭に不思議な音像のものが多いんですが、それは『Computer Music Melodian』と呼ばれる初期サンプラーを使用したアルバムだからなんでしょうね。Stevieは新しい楽器を積極的に取り入れて、自らの弾き方を編み出してきた人でもあります。このサンプラーをオーケストレーションの代わりに使った。映画自体も「植物に感情はあるのか?」というテーマを当時最新のコンピューターを使って解析してる訳ですから、テーマ的にもその方が辻褄が合うとStevieは思ったんでしょうね(写真がHarry Mendelによって制作されたサンプラーComputer Music Melodian)。

 Stevieはそれまでにも「黒人差別」から「平和」に至るまで、ポリティカルなテーマの楽曲は多数書いてましたが、この映画のテーマにはよほど感銘を受けたんでしょうね。かなり「スピリチュアル」な内容のドキュメンタリーではありますが、「植物も人間も同じ地球上の生き物じゃないか!」という大きな視点でものを見ることで「植物を前にしたら肌色や人種関係なく、人間皆平等じゃないか!」というメッセージになる!と思ったんじゃないかと。そんなメッセージ性は1979年当時は若干胡散臭がられたようですが、現代は響く人も多いんじゃないでしょうか? 実際Solangeはこのアルバムをフェイバリットアルバムの一つに挙げているようですし、新譜の「When I Get Home」2019などはこのスピリチュアルな空気感ごと影響されているように思います。映画の1時間3分あたりからしばし始まる、黒人女性による前衛的なダンスシーンなどは、SolangeのPVにも同じ空気感を感じますね。

 でもよくよく考えると、Stevieは盲目です。映画を映像で見ることができない人です。実際最初オファーを受けた時に「僕にそんな映画の曲は書けるんだろうか?」と思ったらしいのは日本盤の解説にも出ています。それに対してこの映画の監督が「できるとも!君はスティーヴィーなんだよ」とハッパをかけ、当初一曲だけの予定がテーマ曲も、劇中曲も、と増えていってこのような形になったと記されています。だったら上映できるように頑張ってあげてよ!って話ですけどね(笑)。

 もう一つ気になる話も日本盤の解説には書かれてました。『Songs In The Key Of Life』の次のアルバムとして『The Writer』というアルバムを製作中だったらしいんですね。この絶好調期のStevieの未発表曲、さぞかし数多くあるでしょうからね、どんなアルバムだったんだろう??って気になっちゃいますね。

 生バンドで、なんなら全楽器を自ら演奏して楽曲を作ってきたStevieが新たに手にしたコンピューターというテクノロジー。これはいずれの1980年代のStevieへの橋渡し的アルバムなんだなぁ……と。スピリチュアルで壮大なテーマのサウンドトラックを手がけることで、彼は結果ヒットメーカーとして80年代も生き延びていくことになる。不可思議な音像の作品たちも、このDiscovery Channel的な映像には結構合いますしね。そんな視点でこの作品を聴き直すとこのアルバムの面白さを再確認できるんじゃないでしょうか? そんな「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」でした。

PS:一つ付け加えときますが、ストリーミングでももちろん聴けますが、レコードで聴くとこの独特な音像の奥行きがより出てきて気持ちいいです。どうしてもストリーミング~CDはリマスタリングされてないので、よりチープな感じがありますね

Stevie Wonder『Journey Through the Secret Life of Plants』のレコードは以下よりご確認下さい
http://www.soundfinder.jp/search?keyword=The+Secret+Life+Of+Plants

SWING-O

SWING-O
SOUL PIANIST / SOUL PRODUCER / SOUL DJ。1969年加古川生まれ。黒い現場にこの男あり。SOUL、HIP HOP、CLUB JAZZ、BLUESを縦横無尽に横断するそのスタイルで、日本に確かな痕跡を残し続けるピアニスト、プロデューサー。これまでに関わったアルバムは150枚以上。今年30周年を迎えるファンクバンドFLYING KIDSのメンバーになったことも発表されたばかり。例えば2016~18年に絡んでいるアーティストは堂本剛、Rhymester、AKLO、Doberman Infinity、Crystal Kay、加藤ミリヤ、元ちとせ、近藤房之助などなど。積極的にイベントも開催、恵比寿BATICAにて今年で10年目になるMY FAVORITE SOULを開催中と多方面でSOULな音楽発信を続けている。
http://swing-o.info/

世界中のレコードを、その手の中に
  • Google Playでアプリをダウンロード
  • App Storeからアプリをダウンロード

関連記事


新着記事

すべての記事をdig!