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The Isley Brothers“Inside You” ~バックグラウンド・ザ・ヴァイナル 07

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SOUL PIANIST/SOUL PRODUCERであり、SOUL DJでもあるわたくしSWING-Oによる「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」第4回は「La La Means I Love You~ララは愛の言葉」で有名なThe Delfonicsの謎の1981年作『Return』についてのあれやこれを想像を交えながら語ってみようと思います。
プロデューサーThom Bellとの邂逅から生まれた名曲「La La Means I Love You」(1968年)はミリオンセラー大ヒット、その後数年はヒットを飛ばし続けたものの、彼らは1970年代フィラデルフィアソウルの大ブームと裏腹に下降線をたどっていきます。初期の大ヒットは全てThom BellとグループのリーダーWilliam Hartによる共作でしたが、みるみるWilliam Hart自身による書き下ろし率が高くなっていくんですが、それは残念ながら失速と比例していました。曲はいいんですけどね、なんでしょうね、同じバラードでもなんかヒット性の差があるんですよ、Thom Bell参加の有無で。
そもそも
「ヒットする」=「レコードが売れる」=「白人が買う」
という基本図式があるので、Thom Bellのセンスというのは白人受けをするものに仕上げるセンスを持った黒人ってことなんですよね。William Hartは黒すぎるのかもしれません。結果、Thom BellはStylisticsプロデュースを始め、大ヒットを連発し、多忙を極めていていくので、それが不参加の原因の一つではあるんでしょうけど、彼の絶妙なメロディセンス、アレンジセンスと比べると、もう一つ垢ぬけないものがあるのは事実ですね。俺はそこが好きなんですけど、それは少数派なんでしょう(笑)
そしてついにThom Bellの元を離れて『Alive & Kicking』を1974年に出しますが、これは見事に全く売れませんでした。でもいい曲多数なんですよ。このバラードなんてすごく好きですけどね。
同じ頃に出た、Thom Bell プロデュースの大ヒット曲と聴き比べてみますか
やはりこちらの方がエッセンスをぎゅっと凝縮した感じがありますよね? ま、個人的には切ない系エッセンスの塊すぎて若干too muchではあるんですが、ヒット性で言うなら明らかにこちらだと思います。
そしてついにグループは分裂し、同じThe Delfonicsを名乗るグループが二つあるような状態が続いたりするような泥沼状況が始まり、かつリリースも止まってしまいます。そんな中、1981年にひょっこりと、William Hartの自主レーベルからのリリースという形で出されたのがこのアルバム『Return』なのです。
その中からyoutubeで唯一見つかったのがこれですが、アルバム全体、こんな感じでこれまで通りのオーケストラ大活躍な楽曲ばかりです。
Philly Groove Records Presents: The Way Things Were
カテゴリ: R&B/ソウル
B-1 「Men of Action」
B-3 「Your Name」
などはディスコの影響も受けた、メロウな楽曲ですごくいいです。 (残念ながらyoutubeでは見つけられませんでしたのでApple Musicでどうぞ、レコードと比べると音悪いですが…)
…にしてもですよ、1981年ですよ。もうディスコ時代ですら終焉に向かうところで、何なら打ち込み曲もガンガン出てき始める時期に何ですかこのレトロ感…と思っていたら、このアルバムは実は1976年に録られていたという話を聞きました。それなら納得!? いや何なら1974年作の「Alive & Kicking」よりも古臭いように感じられなくもない質感じゃないですか? その違和感を整理するために、シングル単発で1978年に、しかもメジャーのAristaから一枚だけリリースされてたのがあるので聴いてみましょう。
これなら1978年はかろうじて納得できますよね? Salsoul的な感じもあるし、まさにフィリーディスコな曲ですから。
そんなこんなを踏まえつつ、勝手に『Return』リリースの経緯を想像してみました。
1974年のアルバムリリースを最後に泥沼化したグループ事情、そして1980年頃には、これまでリリースしてきたPhilly Groove Recordsも終了しちゃいました。それをいいことに、リーダーWilliam Hartの手元にあった、もしくは入手した、過去の未発表曲を集めて自主レーベルからの新作としてリリースしたのがこのアルバムじゃなかろうか?と。しかも、しばらくリリースから遠ざかっていたので『Return』復帰!という名目にすることで新作を装ったと。1976年録音、という情報もありますが、それもおそらく本人の口から言われただけであって、本当じゃない可能性もある気がするんです。何せPhilly Groove在籍時の音源であることは事実かと想像されますね。その時点で契約上本来あまりよろしくないはずです。
以上、想像妄想にすぎませんけど、音質や楽曲をベースに考えると、あながち事実は遠くない気もするんですがどうでしょう?
事実がどうあれ、1981年にこの時代錯誤な音像、つまり「売れそうにない」レア感満載の、でも今の耳で聴くと面白いい楽曲が多数収録された、不思議なアルバム『Return』。発表の経緯、作られた本当の時期、などのあれやこれを想像しながら聴いてみるのは如何でしょう? そんな「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」でした。
最後にThe Delfonicsを名乗る権利がやっと一段落した上で2014年にリリースされた、若手プロデューサーAdrian Youngeとのコラボ作をお届けします。これまた時代性が分かりにくい音像の楽曲ですよね、いい意味で。今回紹介した楽曲たちをまとめて50年後に聴く人がいたら、一体どのように解釈するんでしょうね(笑)
SWING-O
SOUL PIANIST / SOUL PRODUCER / SOUL DJ。1969年加古川生まれ。黒い現場にこの男あり。SOUL、HIP HOP、CLUB JAZZ、BLUESを縦横無尽に横断するそのスタイルで、日本に確かな痕跡を残し続けるピアニスト、プロデューサー。これまでに関わったアルバムは150枚以上。今年30周年を迎えるファンクバンドFLYING KIDSのメンバーになったことも発表されたばかり。例えば2016~18年に絡んでいるアーティストは堂本剛、Rhymester、AKLO、Doberman Infinity、Crystal Kay、加藤ミリヤ、元ちとせ、近藤房之助などなど。積極的にイベントも開催、恵比寿BATICAにて今年で10年目になるMY FAVORITE SOULを開催中と多方面でSOULな音楽発信を続けている。
http://swing-o.info/