親子三代続く京都の老舗レコード店「クレモナ」

WRITER
白波瀬達也

■三代目クレモナの誕生

「店の名前はクレモナにしようと最初から決めていました。この名前を残したいと思っていたので。父に相談したら、『いいぞ』って二つ返事でした。」

高い賃料だと店が知られる前に潰れかねないと危惧した正雄さんは、2016年4月、市街地から離れた今出川で開店した。「はじめは赤字覚悟で働き、1年ぐらいで収益バランスが取れたらいい」という感覚で商売を始めた。経営がうまくいかなければ1年で店をたたむことも覚悟していたが、いざ開店してみると、以前のお客さんや同業者たちが次々と顔を出してくれるようになった。

かつてクレモナの常連客だった酒屋の経営者は、取引先の飲食店にビラを配って回った。また、冒頭に紹介した京都の名物イベント「京都レコード祭り」の仕掛け人としても知られる「100000tアローントコ」の店主の加地猛さんは、自身の店でクレモナのビラを配って積極的にバックアップした。加地さんは当時を次のように述懐した。

「僕は毎日のようにクレモナに通う常連客だったんですよ。この店を立ち上げるタイミングと、クレモナ京極店の閉店のタイミングがちょうど重なっていたんです。少しでも在庫が多い方が良いと思って、最後に残った商品を引き取らせてもらったんです。」

このようなローカルネットワークによって「クレモナ再開」の報は瞬く間に広まった。

「なんとかやっていけているのは、これまで繋がってきたお客さんや同業者の仲間たちのおかげだし、何より京都で長年やってきたクレモナの名前がなかったら、1年ともたなかったんとちゃうかな」と正雄さんは柔和な顔で謙遜する。今では若いDJからジャズやクラシックを愛好する年配者まで幅広い層が店を訪れている。

■クレモナに染み付いたエートス

初代、二代目と異なり、三代目クレモナの商品の中心はジャズの中古レコード。正雄さんがもともと親しんでいたジャズは1960年代後半以降のマイルス・デイヴィスやドナルド・バードやボビ・ハンフリーの制作チームとして知られるスカイ・ハイ・プロダクションの諸作品。いわばクラブシーンによって再評価されるようになった音源だ。一方、正雄さんの父、敏博さんはそれより前の時代のモダンジャズの造詣が深かった。正雄さんは店を開店するにあたって、敏博さんからいろいろとジャズについて教わった。そして、今では両者の好みが商品に反映されるかのように様々な年代のジャズが揃う。また、ジャズだけでなく、ロック、ブルース、クラシックなども扱っている。最近は客のニーズから歌謡曲を含む和モノ音源なども扱うようになった。中古のCD棚にはサラリーマン時代に正雄さんがはまったアンビエントやクラブミュージックの名盤・レア盤がずらりと並ぶ。一見、どこにでもある町のレコード店のようでいて、ラインナップは濃い。そして何より安い。

「京都にはジャズの原盤を専門に扱う老舗のレコード店が複数あります。こういう店があることはとても大事やと思っていますが、どうしても単価が高くなってしまいがち。僕の方針はどちらかというと高校生が小遣いで買えるぐらいの値段でレコードを買ってもらうことやね。高価な原盤を1枚買う値段で、国内盤のレコードが20枚ぐらい買えたりするじゃないですか。こんな風にレコードがお客さんにとって手軽であってほしいと思っています。その意味でクレモナは入門者向けかもしれないですね。若い世代にもアナログレコードが身近な趣味として残ったら良いなあと常々思っています。限られたお金で失敗もできへんやろし、試聴も大歓迎です。」

店主の寺井正雄さん。

昨今、アナログレコードがちょっとしたブームになっていると言われているが、実際の市場規模は一家に一台レコードプレイヤーがあった時代とは比較にならないぐらい小さい。したがって、アナログレコードを扱う店では、付加価値の高いレア盤を高値で売るビジネスモデルが一般化している(レコードの骨董品化)。一方で、クレモナのように気軽にアナログレコードに親しめる環境づくりも欠かせない。このような敷居の低さは、長年、町のレコード店として京都の音楽文化を支えてきたクレモナに染み付いたエートスなのかもしれない。

■取材後記:クレモナの発掘品

V.A. / 第4回フォークキャンプコンサート(1969 / URC)
関西フォークの一大拠点となったインディレーベル「URC」からリリースされたライブ盤。会場は京都円山公園野外音楽堂。岡林信康、中川五郎、高田渡などのレジェンドから阪大ニグロといったマイナーなアーティストの音源までを収録。半世紀前の日本社会の若者の気分を伝える貴重な一枚。

クレモナ
〒602-0034京都市上京区築山南半町234 大甚ビル3F
(地下鉄烏丸線「今出川」徒歩3分)
TEL 075-748-0957
OPEN 11:00〜20:00(水曜休、祝日は除く)
HP  http://www.cremona-records.com

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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