マンチェスター・レコード掘りの旅

WRITER
白波瀬 達也

 イギリス中北部に位置するマンチェスター。産業革命の発祥地であり、世界最高峰のサッカークラブが2つもあるため、かなり大規模な都市だと思いがちだが、人口は約50万人とさほど多くない(広域マンチェスターの人口は約280万人)。パリッとしたスーツに身を包むビジネスエリートが闊歩するグローバル都市のロンドンと比べると、マンチェスターは良い意味でローカリティが感じ取れる都市だ。
 ロック好きの間ではBuzzcoks、Joy Division、The Smiths、Happy Mondays、The Stone Roses、Oasisなど、UKロックのレジェンドを多数輩出した聖地としてお馴染みだ。一方、Simply Red、Swing Out Sister、Kalimaなど、ソウルやジャズのエッセンスをポップ・ミュージックとして昇華させたバンドの出身地でもある。
 多様な音楽を生み出してきたこの街には、当然のごとくレコード店も多い。なかでも多数の店舗がひしめくのがマンチェスターの中心部に位置する「ノーザン・クオーター(Northern Quarter)」だ。

再開発が進むノーザン・クオーターだが、ストリートな雰囲気は未だ濃厚だ

 このエリアはもともと綿工業に関連する工場や倉庫の集積地だった。しかし、第一次世界大戦を契機に綿工業が衰退。とりわけ1970年代から80年代にかけての不況では大きなダメージを受けた。このエリアを活性化させるきっかけとなったのが1990年代の文化産業の台頭。アーティストやインディペンデント系のショップがノーザン・クオーターを拠点にするようになった。エリア内に残る歴史的な建造物や安い不動産価格が進取の精神に溢れる店主たちの心を掴んだのだ。

オルタナティブ精神に溢れたZINEを多数扱う本屋MagMA

 さらに2000年代には地方政府による都市再生に向けた政策的な後押しを受け、開発が一層進んだ。以来、洒落たレストランやバー、アートギャラリーなどが林立。マンチェスターで最もヒップでクリエイティブなエリアとなった。以下では筆者が実際に足を運んで面白いと思ったレコード店を3つ紹介する。

Piccadilly Records


 1978年に設立され、1997年にノーザン・クオーターに移転したレコード店。中古の販売はなく、新作および再発の音源を扱っている。Picadilly Recordsの取り扱うジャンルはロック、テクノ、ソウル、ジャズなど実に幅広いが、オルタナティブで魅力のある音楽を厳選している。ゆったりとした店内は見やすく、各々のレコードに添えられたレビューも丁寧だ。
 Picadilly Recordsの尋常ならざる音楽愛を示しているのが、End of Year Book Reviewという冊子だ。その年にリリースされた優秀な音源をチャート化するだけでなく、作品内容についてもわかりやすく解説を加えている。Giles PetersonがPicadilly Recordsをベストなレコード店の一つに数えているのも納得だ。なお、この冊子はオンラインでも読めるのでホームページから是非アクセスしてほしい。

Piccadilly Records
Location: 53 Oldham St, Manchester M1 1JR
https://www.piccadillyrecords.com

Vinyl Exchange


 1988年からノーザン・クオーターで営業する老舗のレコード店。1階でCDを、地階でレコードを販売している。商品の中心は中古だが、厳選された新譜や旧譜の再発盤を扱っている。ダンスミュージックからブラックミュージックまで、多くのジャンルを扱うが、なかでもUKのインディー・ロックの充実ぶりには目を見張るものがある。
 Vinyl Exchangeを特徴づけるもう一つの特徴は中古盤の良心的な値付けだ。ちなみに筆者はこの店でThe Smithsの1stアルバムの状態の良いオリジナル盤を20ポンドで購入できた。これは市場の平均価格からすると相当安い値段だ。「状態の良いレコードをどこよりも安くお客さんに」。これがVinyl Exchangeの信条。当然、客の入りも良く、店内は活気に満ちている。UKおよびマンチェスター関連の中古レコードを掘るなら、数あるレコード店のなかでも間違いなくVinyl Exchangeがベストだ。

Vinyl Exchange
Location: 18 Oldham St, Manchester M1 1JN
https://www.vinylexchange.co.uk

Eastern Bloc


 Eastern Blocは1985年にJohn Berryとマンチェスター・テクノのパイオニアとして知られる808 Stateのメンバー、Martin Priceによって設立されたレコード店だ。もともとノーザン・クオーターの別の場所で店舗があったが、2011年にカフェを併設した現在の場所に移転した。テラス席を擁するカフェは居心地が良く、ノーザン・クオーターの街の雰囲気に見事に溶け込む。またこのカフェスペースがDJイベントとしても使われることもあり、ノーザン・クオーターのナイトライフの充実にも貢献している。
 Eastern Blocがカフェを設けた新店舗に移転した理由は、共同オーナーのJohn Berryの聴覚障害に起因する。DJでありレコード・バイヤーでもある彼にとって聴覚障害は、これまでの仕事の継続を困難にさせる出来事だったが、レコード店にカフェを併設することで危機を乗り越えた。
 Eastern Blocが取り扱うジャンルはテクノ、ハウス、ダブステップ、ドラムンベース、ヒップホップ、ソウル、ジャズなど。中古の販売はしておらず、新作および再発の音源を扱っている。DJが好む音源に特化している点がPicadilly Recordsとの大きな相違点といえそうだ。Eastern Blocはレコードのセレクションだけでなく接客も素晴らしい。筆者がスタッフにオススメを求めると、解説を交えながら多くのレコードを紹介してくれた。試聴環境も整っているので、是非足を運んでほしい。

Eastern Bloc
Location: 5a Stevenson Square, Manchester M1 1DN
https://www.easternblocrecords.com

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

世界中のレコードを、その手の中に
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