大分でエチオピア音源を扱うレコード店「RA’S DEN RECORDS」

WRITER
白波瀬達也

 九州のレコード店の中心地といえば、福岡市の博多をイメージする者が多いだろう。この街にはジャズやロックを扱う老舗からクラブミュージックを扱う新しい店がひしめく。また、政令市の熊本市にも比較的多くのレコード店が集まる。一方、福岡県と熊本県に隣接する大分県の県庁所在地、大分市にはレコードを扱う実店舗がRA’S DENの一店舗しか存在しない。地方都市でレコード店を経営することは並大抵のことではない。その孤軍奮闘の軌跡を辿った。

店舗はレトロな雑居ビルの2階にある


佐伯生まれ、ヒップホップ育ち

 店長の御手洗優(みたらい・まさる)さん(1980年生まれ)が生まれ育った大分県の南東部に位置する佐伯市は、多種多様な魚を育むリアス式海岸があり、磯釣りの聖地として知られる。「食のまち」を掲げる佐伯市ではあるが、先端の音楽に触れる上では決して有利とはいえない。

 この地で御手洗さんがヒップホップの「洗礼」を受けたのは中学3年生の時。スケートボードを通じてヒップホップと出会ったのだ。その影響でBボーイ系のファッションも好きになり、エアジョーダンを扱う佐伯市のスポーツショップの店員と親しくなった。その店員の自宅にはターンテーブルやミキサーなどがあり、感化された御手洗さんはDJの世界に接近するようになった。

 高校に進学すると行動範囲も広がり、遠路はるばる大分市や熊本市にまで遊びに行くようになった。当時の大分市には今はなきフラットという優れたセレクトで知られるレコード店があり、MUROをはじめとする著名なDJたちも足を運んでいたという。この店を通じて御手洗さんのレコードへの関わりが本格化した。また、熊本市の辛島公園を拠点にするスケーターたちとの交流を求めて熊本市にも足繁く通うようになった。熊本市ではRHYTHM RECORDS、NASTY STREET RECORDS、WOODPECKERなどのレコード店のほか、最先端のヒップホップのミックステープを扱うJAPFITSという服屋との付き合いも深まった。熊本がすっかり気に入った御手洗さんは、高校卒業後すぐにレコード屋が集まる「上通」に引越し、一人暮らしを始めた。ただし、その生活は長く続かなかった。

「高校卒業後、いきなりレコード屋もクラブもいっぱいある都会に移り住んで。この環境が楽しすぎたんですね。お金を使いすぎた結果、借金がかさんでしまい、最終的には親に『帰ってこい!』と言われて(笑)。」

 そこで御手洗さんが選んだのはUターンではなくJターン。佐伯市の実家ではなく、大分市まで戻り、古着屋で仕事をしながら頻繁にDJをしていた。ただし「ここでこのまま歳をとっていくのはイヤだ」という思いも常にあった。DJとして有名になりたいという願望があったからだ。そして20歳のとき、単身で東京暮らしを始めた。

柔和な雰囲気の店長、御手洗優さん


東京暮らしの違和感

 御手洗さんは10代から磨いてきたDJのスキルを試すべく上京。はじめは意気揚々だったが、どこか馴染めない感覚がつきまとった。

「クラブミュージックの業界だと、下っ端は有名なDJのレコード持ちやったり、パーティーチケット売ったりとか、そういう宿命があるじゃないですか。僕の場合、ツテがあんまりないし、なかなかうまくいかなくて。東京では確かに新しい出会いがいろいろあったんですけど、2回目に会った時にシカトされることがあったり、九州にいた頃のようにすんなりいかないんです。それで半年で帰りたくなって(笑)」

 このような思いに拍車をかけたのが東京の某有名クラブで開催されたグランドマスター・フラッシュのイベントだ。すし詰め状態の会場で屈強な男たちに肩をぶつけられたり、睨まれたりする悪環境のなか、御手洗さんは気分が悪くなり嘔吐してしまったのだ。「やっぱり派手なところは苦手なんだ」と再認識する出来事だった。こうした経験を重ねるなかで、御手洗さんは徐々に夜のイベントに通う頻度を減らし、三軒茶屋の自宅にこもってビートを作る時間を増やしていった。

「当時はちょっと対人恐怖症みたいになっていたかもしれませんね。東京に来て2年経って「もう大分に帰ろう」と決心したんです。負けた感じで嫌だったんですけど、大分でもビートは作れるし、一発逆転もあるかもと思って。」

 こうして再び大分市に戻った御手洗さんは楽器店で働くなどしながら生計を立てるようになった。ただし仕事面では落ち着かない日々が続いた。自分の好きだと思える仕事は薄給のため好きなレコードや機材が満足に買えない。そこで高い収入を求めて転職するものの、ストレスが多く長く勤まらなかったのだ。

「どん底」からのレコード店開業へ

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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