心斎橋・アメリカ村で異彩を放つレコード店 「rare groove」

WRITER
白波瀬達也

世界でも屈指のレコード店密度を誇る大阪・心斎橋のアメリカ村。2007年にオープンしたrare grooveはそのなかでも異彩を放つ店だ。いわゆるジャンル化したレア・グルーヴではなく、「レアなグルーヴ」を追求した結果、国内のみならず、海外の客・DJからも注目されている。

ガラス張りで入りやすい雰囲気の店舗。

■空き店舗だらけのビルで始めたレコード店

rare grooveの店主、佐藤憲男(1979年生まれ)さんは鳥取県出身。飲食業を経営する一家の次男として育った。

「大学生の時、音楽系の仕事をしたいと思いつつも卒業後、普通に就職したんです。でも半年で辞めて。その頃、梅田を歩いていたら、中古専門の『町レコ屋』で店員を募集しているのを見つけて3年半働かせてもらいました。そこでは店番みたいな感じで、買い付けのノウハウは学べなかったのですけど良い経験になりました。その後、職を転々としながら2007年に今の店を始めました。」

当時はフリーソウルのブームも終わり、レコード店がオンラインショップに移行し始めていた。実店舗にとっては「冬の時代」だった。 憲男さんはその頃の様子を苦笑いしながら次のように語った。

「あの頃はアメリカ村も全然元気なくてね。今ではこのビルもたくさんのレコ屋が入っていますけど、店を始めた時は、このフロアではウチだけでした。周りは空き店舗だらけ。だから割と安く借りれたんです。でも音楽好きの仲間たちからはアホ呼ばわりですよ。『このご時世に、よくレコ屋を始めるな』ってね。実際にやってみましたが、やっぱりキツかったです(笑)」

開店当初は買い付けに行くことはなく、私物のレコードを商品として扱っていたが、人気盤以外の売れ行きは芳しくなかった。憲男さんはかつてのrare grooveを「しょぼい町レコ屋だった」と自嘲する。出鼻をくじかれた後、経営を安定させるために何が必要か真摯に向き合った結果、海外への買い付けを決意。これが転機となり売り上げが徐々に好転した。では、魅力的なレコード店がひしめく心斎橋のなかで、いかに独自のカラーを打ち出していったのか。それを紐解くヒントは憲男さん自身の音楽遍歴にあった。

整然と並べられたレコードは非常に見やすい。視聴もOK。

■非ダンスミュージックのダンスミュージック化

憲男さんの音楽のルーツは10代の頃に聞き出したロック。そこから派生して他のジャンルに触手を伸ばし、ダンスミュージックにも関心を持つようになったが、クラブへ足を運ぶことはなかったという。この辺りがクラブ上がりの店主と毛色の違うところだ。

「もともとロックが好きなのですが、なかでもファンキーなもの、エレクトリックなもの、エモいものが好きだったんです。ジミヘン、ザ・フー、レッド・ツェッペリンなどの1960年代のロックが好きで、その後はプログレやニューウェイブ、そしてディスコへ至りました。これはゴブリンの影響ですね。プログレバンドとして有名なゴブリンのキーボーディスト、クラウディオ・シモネッティがカッソというディスコバンドをやっていたんです。こんな感じで色んなジャンルが好きになっていったのです。」

rare grooveが開店した2007年頃は「コズミック」(1970年代後半から1980年代前半にかけてイタリアにあったディスコ)の再評価が高まっており、日本でもダニエル・バルデリやDJハーヴィーのようにハウスやディスコにロックを混ぜるようなプレイスタイルが人気を博していた。そんな折に来日した海外の人気DJたちがrare grooveを訪れるようになったのだ。

「イジャット・ボーイズやプリンス・トーマスが来てくれて、この店のセレクトをすごく面白がってくれたんです。そこから、ジャンルに囚われずに自分が好きな音楽をDJでかけて良いんだって思えるようになりました。面白いと感じた音楽を素直に扱えるようになったんです。今でこそお客さんたちはrare grooveのセレクトに共感してくれるんですけど、当時は『変なものを置いているわ』って感じだったと思います(笑)」

ヨーロッパ買い付けの変わり種が充実している。

■レアなグルーヴの追求

アメリカ村の中古レコード店はアメリカ買い付けのブラックミュージックの専門店が比較的多い。rare grooveもジャズ、ソウル、ディスコなどを扱うが、他店との大きな違いはオランダやドイツで買い付けたプログレやニューエイジなどが充実していることだ。ここにrare grooveの独自の審美眼がはっきりと表れている。評価軸がカチッと定まったものを扱うのは手堅いが、それだけでは面白みに欠ける。この店はジャンル化したレア・グルーヴではなく、まさに本来の意味での「レアなグルーヴ」を数多く扱っているのだ。憲男さんは店名の由来を次のように語る。

「恥ずかしながら実はレア・グルーヴのムーブメントを知らずに店名をつけたんですよ。ジャンル化したレア・グルーヴを想定して店に足を運んだお客さんは、うちの商品を見て違和感があったと思います。でも最近になってようやく納得してもらえるようになったんじゃないかと感じています。」

1980年代後半にイギリスから始まったレア・グルーヴのムーヴメントは、DJの視点からジャンルレスに過去の音源を発掘・再評価する野心的な試みだったが、今日では一種のジャンルとして確立してしまった感がある。逆に憲男さんの試みはジャンル解体。ホームページにも記されているように「非ダンスミュージックのダンスミュージック化」がrare grooveの謳い文句だ。期せずしてレア・グルーヴ・ムーヴメントの本来的な面白さを継承していると言えるのではないだろうか。

憲男さんは、ただレコードを並べるだけでは不十分で、その価値をきちんと提示していくことが店主に求められると力説する。レコード店に足を運ぶ好事家とはいえ、詳しくないジャンルの音源はスルーしがち。そこで憲男さんはレコードにコメントを添えることを重視している。

「知らないレコードでも、たとえば『DJハーヴィー・プレイ』と書くと少しは興味持てるじゃないですか。もちろん、こういう紹介の仕方を好まない人もいると思いますけど、僕としては優れたDJに対するリスペクトも込めているんですよね。」

逆に客から「この盤はラリー・レヴァンがかけていた、デヴィッド・マンキューソがかけていた」などと教えられることも少なくない。憲男さんは自分の感性で買い付けをしているが、取り扱うレコードに新たな色付けをしてくれるのは客であることを強調する。そして、このことが実店舗ならではの面白さだという。

柔和な店主の佐藤憲男さん。フュージョン感溢れるヒゲが素敵だ。

■客の7割は外国人

先述したとおり、rare grooveの独特なセレクトは日本のみならず海外のDJからも注目されている。加えて大阪は近年、空前のインバウンドブーム。客層にも大きな変化が生じてきている。

「10年前に比べて、めちゃくちゃ外国人のお客さんが増えています。今では店に来るお客さんの7割が外国人です。5年ぐらい前からヨーロッパとオーストラリアからのお客さんがすごく増えました。この2年ぐらいはアジアからも来るようになりました。」

こうした状況を受けてrare grooveの棚作りにも変化が生じた。「和物コーナー」の充実だ。日本人が海外にレコードを掘りに行く時、往々にして「ご当地音源」を求めるが、外国人も似たような傾向があるという。

厳選された和物音源は特に海外からの客に人気だ。

「山下達郎とか吉田美奈子とか、みんな狙っているのは似通っています。少し申し訳なさそうな顔をして彼女を待たせて掘ったりしていて、その姿は自分たちと一緒ですよ(笑)。大型店舗を隅々見る時間がないですから、彼らが求める日本のジャズ、シティポップなどを厳選してストックしています。他に良いレコ屋がないかと聞かれることも多くなったので、有志で『大阪レコードマップ』を作って、それを渡すようにしています。」

rare grooveのレジの前には買い付けに行った世界中のレコード店やレーベルのステッカーがびっしりと貼られているが、これに客が反応して話に花が咲くこともあるという。そして帰り際には客の母語で送り出すようにしているそうだ。セレクトの面白さに加え、こうしたホスピタリティも相まって、rare grooveは海外のレコード好きの「巡礼コース」にもなっている。

国内外のレコード店やレーベルのステッカーがびっちり貼られたボード。

■ネットワーク拠点としてのレコード店

憲男さんは国内のみならず年に2回ほど海外にレコードの買い付けを続けてきた。DISCOGSやeBayなどインターネットを通じて仕入れることもできるが、買い付けへのこだわりは強い。

「実際に海外に行くと、インディペンデントなレコ屋の雰囲気とかを直に学ぶことができます。どのレコ屋にも若い子がいて、気軽に買っている姿は良いなあと思いますね。また行った先で友達ができることも多いです。彼らが自分の店に来るようになって、それが口コミとなってネットワークが広がることもあるんです。」

欧米では昨今のレコードブームの影響で市場価格が高騰しているという。結果、高値で買い付けたものが、売れ残ってしまう場合もあるという。それでも生き残りのためには海外のマーケットも見る必要があると憲男さんは断言する。

「結局自分はレコードを掘るのが好きなんです。この行為自体がまさにアナログでしょ。偶然の発見もあるし、空気感も一緒に持って帰ってきたいと思っています。この商売をしていると嫁さんにいくら買っても怒られない。良いのを買ったら褒められるわけで。もちろん儲からなかったらダメですけど(笑)」

精力的なのは買い付けだけにとどまらない。憲男さんは近所のレコード店Revelation Timeの店主Azさんとゲリラ的にDJのストリーミングイベントを実施したり、DJのDaisuke KakimotoとクラブイベントMetroを定期開催したりすることで、これまでに培ったネットワークを活かしつつ、自分たちが面白いと思う音楽を紹介している。国内 / 国外、メジャー / マイナーに関係なくアットホームな繋がりを大事にする姿勢はrare grooveが魅力的なレコード店であり続ける秘訣といえるだろう。

佐藤憲男さんとDaisuke Kakimotoさんのイラストが見事なフライヤー。

■取材後記:rare grooveの発掘品

NENE / Minuano(1987 / Continental)

ブラジル人パーカッション奏者のリーダー作品。複雑で美しいメロディと超絶技巧なバンドアンサンブルはエルメート・パスコアルの諸作品を彷彿させる屈指の名盤。

rare groove
〒542-0086 大阪市中央区西心斎橋1-9-28 リーストラクチャー西心斎橋202
(地下鉄御堂筋線「心斎橋」徒歩2分)
TEL 06-6657-4454
OPEN 10:00〜19:00(水曜休)
HP  https://raregroove.shop-pro.jp

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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