マニラ・レコードディグの旅 ⑴ マカティ編

WRITER
白波瀬 達也

近年アジアの音楽シーンに注目が集まっているが、フィリピンもそのうちの一つだ。今世紀に入ってからのフィリピンの経済成長は著しく、人口も年々増加。2015年に1億人を突破し、数年後には日本の人口を超えると推計されている。何より圧倒的なのが平均年齢の低さ。日本が40代半ばであるのに対し、フィリピンは20代半ば。とにかく若いエネルギーに満ち溢れている。この国の音楽文化の中心になるのが1200万人の人口を擁するマニラ首都圏だ。この都市のレコード店はどんな特徴を持っているのだろうか。実際に筆者が訪問して体験したことを2回に分けてレポートする。まずはマニラ首都圏の中心部にあるマカティ市にフォーカスする。最初に基本的な情報を示しておこう。マニラ首都圏のレコード店はマカティ市、マンダルーヨン市、ケソン市などに点在している。マニラ首都圏の中心部であるマカティ市にホテルが多くあるので、そこに宿をとると何かと便利だ。海が近いマニラ市にもホテルが多くあるがレコード店巡りには適さない立地だ。

マニラ首都圏は高層ビルが立ち並ぶ大都会だが鉄道網が未発達。したがって移動手段の中心は車となる。英語が公用語なのでタクシーやバスの利用もさほど難しくないが、オススメはGrabという配車サービスだ。基本的な機能はUberと同じ。スマホでアプリをダウンロードし、現在地と目的地を登録して車を手配するだけ。料金は距離に応じて決まっているので仮に渋滞しても金額が上がる心配はない。あらかじめクレジットカードを登録しておくと自動的に決済できるので運転手との直接金銭の受け渡しする必要もない。近距離であれば100ペソ〜300ペソ(200円〜600円)程度と安いので積極的に活用すると良いだろう。

なお大半のレコード店はクレジットカードが利用できない。そのためレコード店巡りをするならば、相応の現金を持っておくことが望ましい。筆者なりにマニラ首都圏でレコード店巡りをすることの面白さを述べるならば、⑴オリジナルの US盤がかなり安く買える ⑵日本では入手しにくいフィリピンのレコードが手に入る  ⑶ フィリピンが海外の音楽をどのように摂取しているのかが分かる、の3点に要約できる。

今回取り上げるマカティ市はマニラ首都圏の経済の中心地。特にCBD(中心業務地区)は高層ビルが立ち並ぶ大都会だ。今回、読者にオススメしたいマカティ市のレコード店はTHISISPOP、SPINDLE HOLE COMMUNITY STORE、VINYLHEAD RECORDSの3つだ。

■ THISISPOP

THISISPOPは1990年代からフィリピンのインディペンデントな音楽シーンの中心にいる重要人物、TOTI DALMACION氏が2016年に開業したレコード店だ。同店はLEGASIPI TOWERという名の前衛的なデザインのコンドミニアムの地階にある。

ダンスミュージック、インディロック、ニューウェイブなど、取り扱うジャンルの幅は広いが、店主の確かな審美眼に基づき厳選されている。また新譜のレコードと中古のレコードがバランス良くセレクトされており、新旧の良質な音楽に触れることができる。

驚かされたのは日本の音楽への関心の高さだ。大貫妙子のSUNSHOWERや清水靖晃のDEMENTOSなどが面陳されているのだ。日本のレコードは再発盤だけでなく中古盤も充実しており、同店が欧米の音楽と日本の音楽を並列的に捉えている様子がうかがえた。

THISISPOPは基本的にフィリピンの中古レコードを扱っていないが、TOTI DALMACIONが運営するインディ・レーベル「Terno Recordings」の音源が購入できる。彼が筆者に強く勧めてくれたのがUDD(UP DHARMA DOWN)。2004年にマニラで結成された人気バンドで現在までコンスタントに良作をリリースしている。シティポップやAORが好きな人にはたまらない内容だ。Ovallの最新アルバムでUDDのヴォーカリストのArmiがフィーチャーされているので、そちらもチェックしてほしい。

素晴らしいマニフェストが記されているTerno RecordingsのHP
http://ternorecordings.com/band/udd/

東京で撮影したUDDのMV
https://www.youtube.com/watch?v=qHtXil0ofcY

THISISPOP
148 Legazpi Street, Legazpi Village, Makati, 1229 Kalakhang Maynila
https://www.facebook.com/Thisispop-1152684681420604/
https://www.instagram.com/thisispoprecords/

SPINDLE HOLE COMMUNITY STORE

SPINDLE HOLE COMMUNITY STOREはCREAK SIDE MALLという名のレトロなビルの中に位置する。店の扉を開けると最初に目に飛び込むのがカウンターに並べられたノスタルジックな日本の店舗模型。店内には多くのこけしも飾られている。店主は結構な日本好きのようだ。

2018年に設立されたSPINDLE HOLE COMMUNITY STOREの一番大きな特徴は共同店舗という運営スタイル。マニラを中心とする9つのレコード店が一つの店舗に集合している。個々のレコード店のカラーが異なるので新旧様々なジャンルの音楽が一挙に楽しめるのが魅力だ。

SPINDLE HOLE COMMUNITY STOREは欧米と日本のレコードに加えフィリピン音源も扱っている。店主に「フィリピンのレコードを探している」と伝えたら、棚からレコードをピックアップし、簡単に解説を交えながら試聴させてくれた。SPINDLE HOLE COMMUNITY STOREで筆者はフィリピンのディスコ・ファンクバンドBLACKBUSTERやOPM(ORIGINAL PILIPINO MUSIC)界の大物BASIL VALDEZのLPなどを購入できた。ちなみにフィリピン産のレコードは流通量が多くないため値段は決して安くない。500ペソ(約1000円)以下で見つけようとしてもなかなか出てこないのでじっくり試聴して購入すると良いだろう。同店ではOPMのカセットも扱っている。LPに比べるとかなり安価なのでこちらもチェックしてほしい。

余談になるが筆者はバレアリック文脈で注目を集めているイタリアのAORシンガー、MIKE FRANCISのカセットを発見・購入した。「なぜフィリピンでMIKE FRANCIS?」と不思議に思って調べてみたところ、80年代から大人気だったことが分かった。些細なことだが自分の想像を超える音楽シーンがフィリピンに存在していたことを実感できた。

MIKE FRANCISのセブ島でのライブ映像
https://www.youtube.com/playlist?list=PL950fxzvlDVMsqqKSe5Gs36vGbMCrZncc

SPINDLE HOLE COMMUNITY STORE
Creekside Mall, Amorsolo Street, Legazpi Village, Makati, Metro Manila
https://www.facebook.com/spindlerecords/
https://www.instagram.com/spindlecommunitystore/?hl=ja

VINYLHEAD RECORDS

先に紹介した2つのレコード店はマカティ市の中心部に位置するが、VINYLHEAD RECORDSは同市の周辺部にある。普通の観光では訪れないような場所に行くことができるのも海外でのレコード店巡りの醍醐味のひとつだ。

VINYLHEAD RECORDSはフィリピンの音源の扱いはなく、大半はアメリカのオリジナル盤だ。1960年代から1980年代にかけてのオールジャンルの中古盤が安価で手に入る。新入荷コーナー以外の大部分は「3枚で500ペソ」(約1000円)というセール棚になっている。筆者はセール棚からJOHNNY BRISTOLのFEELING THE MAGIC、MICHAEL HENDERSONのGOIN’PLACES、TANIA MARIAのMADE IN NEW YORKを選んだ。日本で買うなら3倍〜5倍の値段になることは間違いないだろう。店主はとてもフレンドリーで「3枚で500ペソ」のレコードでも気軽に試聴させてくれた。レアなアイテムは多くないが、とにかくリーズナブルな価格が魅力。これまで買い逃してきた名盤を入手するのには最適のレコード店だ。

VINYLHEAD RECORDS
4408 Calatagan St, Makati, Metro Manila
https://www.facebook.com/pages/category/Movie---Music-Store/Vinylhead-Records-827416724054256/

 

マニラ・レコードディグの旅 ⑵ マンダルーヨン&ケソン編はこちら

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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