音楽をツマミにゆんたくできる沖縄のレコード店「円盤屋」

WRITER
白波瀬 達也

周知のとおり日本の最南端に位置する沖縄には独自の音楽文化がある。琉球民謡が脈々と継承される一方、新しい音楽シーンも活発だ。レコード店も個性的な店が多い。なかでも異彩を放つのが2016年に開業した宜野湾市の中古レコード店「円盤屋」だ。

■レゲエに傾倒した青春時代

店主の湯浅周一さん(1980年生まれ)は沖縄県浦添市の出身。幼少期に母親が好んでいたチェッカーズやアメリカン・オールディーズを聴きながら育った。自身で音楽を意識的に聴くようになったのは小学校の高学年。当時はチャゲ&飛鳥、B’z、Xなどを聴いていた。中学生の頃はBOØWYにはまった。この世代によくある傾向だ。湯浅さんの音楽観が大きく変わったのは高校生の時。宮古島出身の友人に感化されパンク、サイコビリー、ハードコアなどに触れるようになった。湯浅さんが高校を卒業した1990年代後半はモンゴル800やORANGE RANGE、HYなどのインディーズバンドが全国区で人気を博す直前の時代。このようなバンドブームの影響を受けつつも、高校卒業後には別の友人の影響でレゲエにはまるようになった。

「高校の時にずっと仲良かった子が『ISLAND HARLEM』というレゲエサウンドを組んでいたんです。それで僕もつられてレゲエを聴いてみようかなと。20歳手前ぐらいですね。自分はもともとオールディーズ好きだったこともあって、最初に興味を持ったのはSTUDIO ONEとかのロックステディでした。」

ロックステディを皮切りに湯浅さんはルーツレゲエ、ダブなども深掘りするように。自身もレゲエのサウンドクルーの一員となり、那覇のクラブ「熱血社交場」を拠点とするイベント「HIGH GRADE」では主にジャマイカン・オールディーズをかけるセレクターとしてキャリアを重ねてきた。

転機となったジャズとの出会い

沖縄にも空前のレゲエブームが到来するなか湯浅さんはセレクターとして活躍していたが、20代後半で転機が訪れた。それがジャズとの出会いだ。きっかけは頻繁に出入りしていた「熱血社交場」。湯浅さんは引き締まった表情で次のように語る。

「それまで自分はジャズがクラブで聴けると思っていなかったんです。実際に聴いてみると『超かっこいい』と思って。自分はスカ好きだったので、ジャズは入りやすかったんです。ただ、ジャマイカ音楽と比べるとジャズはすごくソリッド。刺すような音にゾクゾクきて。」

湯浅さんはジャズの魅力を「一瞬一瞬を待つ感じ」と表現する。最高のフレーズが奏でられる瞬間にジャズの魅力があると考えているのだ。ジャズとので出会いは湯浅さんの音楽の聴き方にも大きな変化をもたらした。

「昔、レゲエを好きになった時は関連する本を読み漁っていたんですけど。ジャズにはまるようになってからは同じようにはしていません。きちんと自分で消化して聴かないと意味がないと思うんです。『宝箱』は開けてみないとわからないですから。」

つまり知識を入れて音楽を聴くのではなく、身体で丸ごと音楽を感じ取ることの重要性を再認識したのだ。

季節労働などを経てレコード店を開業

ジャズにはまりだした湯浅さんは那覇市の桜坂にあったレコード店「MERKMAL」(旧GET HAPPY RECORDS)によく出入りしていた。同店はジャズのレコードが良心的な価格で販売されていため相当な量を買ったという。このように湯浅さんは10代後半から30代前半はレゲエやジャズに傾倒し、DJとしても精力的に活動していたが季節労働で沖縄を離れることもしばしばあった。このような暮らしを続けるなか、35歳でレコード店の開業を決めた。当時の心境を湯浅さんは次のように語る。

30代になってどうしようかなと思っていたのですが、流れ流れてレコード屋になったんです。最初はレコード屋をするつもりはなくて。そんなに売れるもんじゃないと思っていたので。でもレコードぐらいしか知識がないので、とりあえずここから始めていずれ他のこともやろうかと。最初は那覇の繁華街とかも探していたんですけど、ここが合っているんじゃないですか。ゆったりしているし。この土地にゆかりがあったわけではないですけど。

こうして円盤屋は2016年4月に宜野湾市にオープンした。現在の店舗は渋みのある赤の内壁と重厚感のあるダークブラウンの木棚の組み合わせが映える空間となっている。また高い天井に設置された白のシーリングファンは南国情緒を漂わせる。筆者が「これほどかっこいい雰囲気のレコード店は珍しい」と興奮まじりに伝えると湯浅さんははにかみながら経緯を説明してくれた。

「だいぶ変わったんです。最初は手作り感満載でした。クーラーもなく業務用扇風機が2つあるだけで。開業から半年ぐらいしてから近所で『木村内装』という会社を経営する大工さんが店にやって来て『これで大丈夫なん? やっていけいるの?』と言われて。二日目にはお酒のボトルを持ってきて「改装しようよ」と(笑)。彼が手がけた施工事例をいろいろ見せてもらって『やってみようか』となりました。最初はもっとマニアックで暗い感じの店を目指してましたけど、この提案で商売を考えましたね。周りに流される人なんですよ(笑)。」

こうして雑然とした雰囲気だった店舗は木村内装によるリノベーションで大きく様変わりした。

「内装をやってもらって、みんな褒めてくれて。元を知っている人は『マジか!?』ってなります。『ちゃんと店らしくなったね』って(笑)。僕個人は昔のノリでも良いんだけど。原形がほとんどなくなったので居候みたいな感じです(笑)。内装が変わってからはお客さんが増えました。見た目から入りやすい雰囲気を作らないとチャンスは広がらないですね。でも改装前から来てくれていた人たちが一番好き。ずっとお客さんとして残ってくれているのは結局こういう人だったりするんで。僕はそこが嬉しいんだよね。」

内装は洗練されているが店主はチャーミングな性格。この絶妙なバランスが円盤屋の魅力だ。円盤屋は地域に新たな繋がりももたらしている。先述した木村内装の社長は同店のリノベーションがきっかけでレコード愛好家になった。また近所のドーナツ店「HYGGE」の店主も常連客となった。こうした面々が普天間のBAR JULIENで音楽イベントを開催するようになるなど、円盤屋の存在がじわじわと地元の音楽文化を盛り上げている。

■ 良い音に巡り会える時を待つ 

インタビューの中で湯浅さんは度々「音楽はツマミだ」と語っていた。その真意は何なのか。

「ずっと『音楽が一番』って考えていましたけど、ある時からツマミみたいな感じで良いんだと思うようになって。基本的に音楽が流れていてもそれほど熱心には聴いていないですよ。でも良い音楽が流れてくると『あっ』て反応するじゃないですか。こういう感覚が大事なんじゃないかって。昔は良い音楽を無理に取り込もうとしている自分がいたのですがイヤになったんでしょうね。好きだからこそ苦しかったんじゃないですか。だから今では間接的な聴き方が超面白いんです。」

「音楽はツマミ」。この言葉を音楽の軽視と解釈べきではない。むしろ音楽に傾倒し続けてきたからこそ会得した捉え方だろう。このようなフィーリングに共感する人々が円盤屋に集まっている。湯浅さん曰く、頻繁に来店する客はお喋り好きが多い。彼らは会話を楽しみながらレコードを味わい、買って帰っていく。こういう状況を度々目にしていく中で湯浅さんは「音楽が良いタイミングで流れてきたら何でも面白く聴こえる」と悟った。

「この店が喫茶店のような雰囲気になったのは流れですね。意図してやっているわけではないですから自然なんです。上は70歳ぐらいの人が来ますよ。下は高校生。お客さんの世代はバラバラです。この前、吹奏楽をしている高校生にフリーソウル系のレコードを聴かしたら『カッコいいですね』って反応してくれて。超嬉しかったです。わざわざこっちに足を運ぶ若い子は一人行動できる『大人』ですね。」

取材時に一緒に居合わせた常連客は「モノだけ買いに来る人はちょっと居づらいかもしれないですね」と語った。この発言に被せるように湯浅さんも円盤屋の日常を次のように説明する。

「常連のお客さんはレコードを見ているようで見ていないんです。すぐにカウンターに座るんです。僕が何を提案してくるのか待っている感じなんですよ。」

この風景は「行きつけの居酒屋」とどこか似ている。常連客は定番メニューではなく「今日のオススメ」を店主から勧められるのが嬉しいものだ。湯浅さんも自身の提案が客に喜んでもらえた時の喜びはひとしおだという。最高の音楽をツマミに店主と「ゆんたく」 (沖縄の方言でお喋りを意味する)する時間は贅沢だ。都会のレコード店だと慌ただしく店内の棚をチェックし、数秒間だけ針を落とすような視聴の仕方が珍しくない。このように短時間で効率良く好みの盤を見つけることがレコード掘りの一方の極とするならば、もう一方の極は「ゆんたく型」だ。市街地から離れた円盤屋にはゆったりとした時間が流れており、おのずと来る客もリラックスした感覚でレコードに向き合うことができる。

 ■ 「ゆんたく」が引き起こすセレンディピティ

円盤屋では様々なジャンルを扱うが、特に湯浅さんがオススメするのはジャズだ。

「大体の人は音楽を聴くときにボーカルを捉えようとしますよね。でもジャズの場合は楽器を捉えるようになる。だからジャズが聴けたらいろいろな音楽が聴けると思うんです。お客さんにもそんな風に言っています。」

筆者も他の客と同じようにカウンターに座ってゆんたくに興じていたところ、湯浅さんがオススメ盤を提案してくれた。彼が棚から取り出して針を落としたのは1964年にリリースされたDIZZIE GILLESPIEのLP「JAMBO CARIBE」。筆者は普段1950年代〜1960年代のジャズを熱心に聴くことはないが、カリブ音楽の要素が濃厚なこの盤は店の空気感と見事にシンクロしており感動を覚えた。

「音楽はいろんなジャンルに分かれているけど、そんな変わらないと思うんですよ。聴くタイミングが重要なんじゃないですかね。嫌いな音楽も実際に触れてみると聴き方が変わってくるんじゃないですかね。面白いなと思ったりすることもありますし、やっぱり面白くないとなることもありますし。どっちにしてもチャレンジすることが大事ですよね。」

確かに近年のインターネット上で展開されるレコメンド・アルゴリズムの精度は驚異的だ。ただし、その多くは予定調和の域を出ないものだろう。大半の人々はこうしたシステムで満足できるかもしれないが、好事家は偶然の出会い=セレンディピティを求めるものだ。湯浅さんは筆者にレコードの面白さを次のように説明してくれた。

「レコードって10年寝かして聴いたら『めちゃくちゃ1軍やん!』ってなることがありますよね。以前は5軍にもなっていなかったのに(笑)。自分の中で音楽に対する価値って変わるんですよね。こういうのが面白いですよね。」

この記事を読むレコード愛好者は激しく同意するのではないだろうか。少し足を伸ばして宜野湾までやって来れば、予期せぬレコードとの出会いがあるだろう。ぜひカウンターに陣取り、湯浅さんとのゆんたくを楽しんでほしい。最高の音楽をツマミながら。

取材後記

今回の取材を通じ、改めて店主や客とコミュニケーションを図ることの面白さを感じた。インタビュー中に良質なスピーカーから流れていたのがSOUL JAZZ RECORDSのコンピレーションLP「STUDIO ONE LOVERS」。店主の「音楽が良いタイミングで流れてきたら何でも面白く聴こえる」というのは本当だった。大衆的なレコード店を目指す円盤屋では「せんべろ」スタイルを取り入れる予定だとか。今後ますます面白くなりそうだ。

V.A. / STUDIO ONE LOVERS(2005 / SOUL JAZZ RECORDS)

円盤屋

〒901-2221 沖縄県宜野湾市伊佐1丁目7−20 102号
TEL 070-5418-6825
OPEN 12:00-20:00(不定休)
https://enbanyarecords.business.site

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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