名古屋でポップ・ミュージックの魅力を伝えるレコード店「Andy」

WRITER
白波瀬 達也

愛知県名古屋市の大須は伝統文化や芸能が歴史的に堆積したエリアだ。一方、古着屋やエスニック料理店などがひしめくなど、様々なカルチャーが混交した魅惑的な街でもある。界隈にはレコード店も多く存在するが、2018年にとりわけ個性的な「Andy」が開業した。店主の井上浩二さんは1998年から2008年にかけて名古屋の栄にあったarch recordsを経営していた人物として知られる。およそ10年の期間を経て井上さんが再始動させたのがレコード店、Andyにはどのような魅力があるのだろうか。

■ 洗練されたポップ・ミュージックを切り口にしたセレクト

Andyは地下鉄「大須観音駅」から徒歩3分のビルの2階にある。このビルのそばにある「大須表参道」と記された大きな赤門や昔ながら定食屋は下町情緒を濃厚に漂わせるが、Andyの扉を開けると一転、垢抜けた雰囲気が広がる。

Andyの特徴は厳選されたインディポップやロックの新譜を中心にセレクトしていること。近所には「file under」というインディーズ系の新譜を扱うレコード店があるが、Andyの方がよりポップな印象を受ける。というのも井上さんは60年代〜70年代のポップ・ミュージックやサントラを敬愛しており、その系譜が感じ取れる現行アーティストの作品を中心に取り揃えているからだ。

清潔感のある木製の棚には、井上さんの目に適った新譜のレコードとCDが美しく面陳されている。商品数の多さを重視する店は、レコードをめいっぱい棚に詰めようとする。対してAndyはそれとは異なる見せ方をする。手に取りやすく全ての棚に目を通しやすいのだ。余裕が感じられる店内は洗練されたアパレルショップさながらの雰囲気だ。

井上さんは店づくりのコンセプトを次のように語る。

「清潔感があってカップルや子連れの家族でも来やすい感じにしたいなあと。服のセレクトショップに行くようにレコード店に来ていただければと。」

店内にはゆったり腰かけられるソファがあり、白い壁に観葉植物が映える。小洒落たデザインのソフトドリンクも販売している。手を真っ黒にしながら中古盤をディグするのも楽しいが、このように落ち着いた空間で未知の音楽に触れる時間はとても贅沢だ。

日本のレコード店の多くは男性客が中心だが、井上さんは女性でも来やすい店であることを心がけているという。

「あまり詳しくない人にも来ていただいて、ちょっと良さそうだなって試聴して買ってもらうのが理想ですね。」

このように語る井上さんには気負いがない。店内の雰囲気が示すようにAndyは「日常を豊かに彩る音楽を提案するレコード店」と言えそうだ。

■ サブスクリプション・サービスが広がるなかでのレコード店

近年、オンラインのみで展開するレコード店が増えるなか、実店舗の存在意義は客と店主のコミュニケーションにあると言えるだろう。Andyもまたそうしたやり取りを重視しているレコード店だ。井上さんは店主として作品の背景にあるものや、同時代に繋がっているものを客に伝えたいという思いがある。しかし、近年のサブスクリプション・サービスの広がりは、レコードやCDの買い方に大きな変化を及ぼしている。

「最近の傾向なんですけど、サブスクで新譜を聴いた上でレコードやCDを買っていく。あらかじめ聴いていて『もの』として欲しいから買われる方が多いですね。この辺は以前と大きく変わった点です。ジャケットに惹かれて知らないアーティストの作品を買う方が少なくなりました。」

サブスクリプション・サービスは極めて簡便に内容を知ることができるため「無駄遣い」のリスクを最小限に抑えられる。かくいう筆者もサブスク利用者の一人だ。しかし、こうしたサービスの広がりは、井上さんが指摘するようにレコード店のあり方を揺さぶるものにもなっている。要は音楽ソフトが簡単に売れる時代ではなくなったのだ。井上さんがarch recordsを立ち上げた1998年から20年以上が経過して、音楽を聴く人々の消費行動は大きく変わった。こうした状況のなかでAndyは店舗を通じて良質な音楽を届ける工夫を重ねている。

Andyが扱う商品は新譜が中心だが、中古レコードも販売している。新譜の多くはサブスクリプション・サービスでも聴けてしまうため、厳しい選別にあいやすい。新譜に敏感な若い世代はCDやレコードのプレイヤーを持っていないことも少なくない。対して中古レコードは相変わらず熱心なファンがいる。こうした層との関わりが新たな顧客確保にもつながる。実際に近隣には「グレイテスト・ヒッツ」や「バナナレコード」といった名古屋を代表する中古レコード店があり、その流れでAndyにも足を運ぶ客もいるという。このように井上さんは中古レコードから新譜に興味を持ってもらうことも心がけている。

■ プラスαの魅力

音楽ソフトの売り上げが全体的に下がっていくなか、別の価値を付加していくことが今日のレコード店にとって重要な戦略のひとつになっている。Andyの場合は雑貨の展開がそれに相当する。店内には女性を主なターゲットにしたアクセサリーや、素敵なデザインのオリジナルグッズが大きな存在感を発している。ちなみにAndyの印象的なロゴデザインは『大人になれば』(小西康陽が推薦文を寄せている書籍)の著者としても知られる伊藤敦志さんの手によるもの。こうした雑貨と厳選された音楽の相性良く同居するのもAndyの妙味だ。

雑貨の展開は今後さらなる充実を目指しているそうだ。arch records時代は雑誌『オリーブ』(1982年から2003年にかけてマガジンハウスから刊行されていたファッション誌)に掲載されたこともあり、女性が多く来店していたという。このように女性が足を運びやすいレコード店は日本では希少だろう。

またAndyでは月に1回ほどの頻度でライブイベントを実施している。arch records時代には出せる音に制限があってできていなかったことがAndyでは実現しているのだ。このようにAndyはレコード店でありながら様々な性格を併せ持った空間となっている。ぜひ店に足を運んで魅惑的なポップ・ミュージックに出会ってほしい。

■ 取材後記

普段、ブラックミュージックを中心に聴いている筆者にとってAndyが扱う商品は未知のものが多数。たくさん視聴させていただくなかで筆者の耳に最もフィットしたのがアメリカのシンガーソングライター、GIA MARGARETの1stアルバムThere’s Always Glimmer。2018年にリリースされた本作は、深みのあるメロディ、シンプルでいて細やかな味付けのサウンド、包み込む歌声が魅力。GIA MARGARET自身が自らの音楽を「sleep rock」と称するのも納得の一枚。アートワークも秀逸。

RECORD SHOP ANDY
〒 460-0011 名古屋市中区大須2-25-36 牧野ビル2F
TEL 052-253-7866
OPEN 金土日 12:00 - 19:30(定休日:月火水 ただし祝日は営業)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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