浜松が誇るブラックミュージック専門店「SOUL CLAP」

WRITER
白波瀬 達也

静岡県浜松市はYAMAHA、KAWAI、ROLANDなど世界を代表する楽器メーカーの本社が集まる「音楽の都」として知られる。この街で長らく良質なブラックミュージックを紹介してきた店がSOUL CLAPだ。アメリカのブラックカルチャーへの憧憬が溢れる店内には良質なレコードが揃っており全国の好事家から支持されている。この取材では開業から20年間の歩みを店主に尋ねた。

■ MTVで見たRUN DMCの衝撃

店主の柴田正幸さん(1969年生まれ)は静岡県浜松市と愛知県の豊橋市の中間に位置する浜名郡(現在の湖西市)の出身。洋楽を聴くようになったのは中学生の頃。小遣いやお年玉を貯めてTHE BEATLESのLPなどを1枚ずつ買っていたという。

「1980年代前半は周りでMTVがすごく流行っていて、それで洋楽を聴いていたんです。当時、MTVではほとんどブラックミュージックがかからなくて。PRINCEとかは流れていましたけど。」

このような音楽体験を大きく変えたのは柴田さんの高校時代だ。

「高校2〜3年の頃にRUN DMCのWALK THIS WAY(1986年にリリースされたロックバンドAEROSMITHとのコラボ曲)をMTVで見て、それがすごく格好良くて。そこからPUBLIC ENEMYやLL COOL Jを聴くようになって。」

柴田さんはMTVを入り口にヒップホップにのめり込むようになり、元ネタ(サンプリングソース)にも関心を持つようになった。柴田さんは自身の音楽遍歴を次のように語る。

「ULTIMATE BREAKS & BEATS(1986年から1991年にかけてリリースされた名物コンピシリーズ)が出て、あれを何もわからず買って聴いてネタにはまっていくみたいな。結構そういう人って多いんじゃないかな、うちらの年代って。それでヒップホップと並行してジャズやソウルを買うようになっていったんです。」


■浜松のCITY CAFÉ、豊橋のラビットフットレコード

柴田さんがさらに音楽の沼にハマりこむようになったのは浜松で最初にできたクラブ「CITY CAFE」(1990年代中頃に閉店)との出会いだった。

「CITY CAFEに初めて行ったのが1989年で19歳の時。当時のディスコは自分が嫌いなユーロビートが全盛で。だから音楽は好きだけど遊びに行くところがないって感じだったんです。その頃にCITY CAFEを知って毎週行くようになって。まだDJブームの前かな。一晩でヒップホップ、ハウス、レゲエ、ロックを5〜6人で回すみたいな感じで。そこで知った音楽って結構多いかも。今だったらSNSとかで好きな音楽や近い趣味の人に出会えますけど。」

柴田さんはCITY CAFEで黎明期のクラブカルチャーの洗礼を受け、自身もDJをするようになった。一方、レコードを買いに行くのは浜松よりも豊橋の方が多かった。

「豊橋にラビットフットレコードというレコ屋があってよく通っていたんです。26歳ぐらいの時、いつものように買いに行ったら求人が出ていて、すぐ面接を受けて。そこで働くようになったんです。それまではフリーターみたいな感じで仕事をしていたんですけど。レコ屋で働きたいという思いは20代前半からずっとあって。」

ラビットフットレコードは音楽評論家として活躍する小川真一氏が1980年に開業したレコード店で2003年まで豊橋で良質な音楽を販売していた。柴田さんが勤めるようになった頃、店主は店頭に出ることはあまりなく、同世代の仲間たちが中心となって営業していた。

「ラビットフットレコードはツーフロアあって、9割ぐらいは中古のレコードとCD。残り1割が新譜でした。レーザーディスクもクラシックもあるようなオールジャンルのレコ屋で。歳が近い4人が一緒に働いていたんです。個人店なのに今思うとすごいですよね。自分たちがスタッフに入ってからはヒップホップやパンクなんかも仕入れてました。みんな仲良しで仕事終わったらよく飲みに行ったりしていましたね。」

ラビットフットレコードに勤めていた頃の柴田さんは音楽仲間に恵まれた日々を過ごしていたが、アメリカ買付盤を中心にした自分の店を持ちたいという夢もあった。その思いが高じて1999年に独立。浜松にSOUL CLAPが誕生した。

アメリカ買付けの時に状態の悪い盤を買い、状態の良い私物を店頭に出すことがあると語る柴田正幸さん

■ アメリカ買付盤への憧れ

柴田さんは独立・開業の理由を次のように説明する。

「あの頃は今以上に買付盤って魅力があったんですよね。ラビットフットレコードは中古の買取をメインにしていて少しだけ新譜をオーダーする感じだったんですけど、僕自身は買付盤に憧れがあって。国内のレコード祭りとかでいろんな業者の人と会うじゃないですか。そうすると買付屋さんが輝いて見えるんですよ。めちゃめちゃ売れるし。当時は12インチのブームで自分もそういうのが好きだったので自分で買いに行きたいと思って。」

こうして柴田さんは開業直前にアメリカ西海岸に買付けの旅に出た。

「独立する前に『米国音楽』っていう雑誌でサンフランシスコに体育館みたいなレコ屋があることを知って。そこが有名なAMOEBA MUSICなんですけど、「ここだ!ここに行きたい!!」って思って(笑)。それで初めての買付けでサンフランシスコに行ったんですよ。」

無事にアメリカでの買付けを終えた柴田さんは、1999年4月に友人が経営するヒップホップ系のレコード店「NATURAL RECORDS」の一部を間借する形でSOUL CLAPを開業。当時はDJブームの最盛期ということもあり、滑り出しは好調だった。

「店を始めた頃は一番売れたかもしれない。1日で30万円売れる日もありました。ネットがなかったので東京からわざわざ買いに来てくれたりする人もめちゃくちゃいて。今だと考えられない情熱(笑)。東京だと人気のある盤がすぐ売れるけど『浜松にはまだある』みたいな感じで。昔は店舗営業だけで食えたんですよね。東京・名古屋・大阪なんかで開催するレコショー(レコード・ショー / レコード・フェア)の売り上げも大きかったです。1回の出店で100万円以上売れることもありましたから。」

■ 変わりゆくレコードの価値

SOUL CLAPの運営が軌道に乗り始めるとアメリカへの買付け回数は増加し、間借りしていた店舗は手狭になっていった。2006年にはより広い店舗を求めて現在のビルに移転した。一方、この頃からDJブームの熱に翳りが見え始めていた。レコードではなくCDやデータを用いたDJが増え始めたのも同時期だ。クラブミュージックにおける音楽ソフトを取り巻く環境の大きな変化は当然SOUL CLAPにも影響した。

「今はピークに比べたら売り上げは下がっていますね。昔はヒップホップやR&Bがよく売れたんです。TROOPのSPREAD MY WINGSが7,800円で出してもすぐ売れて。今だと1,500円でもなかなか売れないけど(笑)。フリーソウルや渋谷系のブームを経験した僕より上の世代の同業者はもっと儲けていたと思います。」

柴田さんはインターネットのブロードバンド化の影響も大きいと指摘する。それまでの中古盤の取引は「紙の通販リスト」が主流。他店と比較していかに安く買うか」といった感覚は一般的ではなかったという。一方、今ではインターネットで市場価格を瞬時に把握することが可能だし、レコード店と直接やりとりしなくともDISCOGS、eBay、ヤフオクなどのサービスを使って購入することもたやすい。柴田さんはレコードの価値の変化を次のように説明する。

「以前は買付けする人間の存在感がめちゃめちゃ大きかったと思います。紙の通販リストを見て、欲しければ買うしかなかった。比べることが難しかったんです。今は『ゴミの中から探すのが正義』っていうか。リサイクルショップなどからレコードを買うことが増えてますよね。以前に比べるとしっかりと値付けされた買付盤を買う感じが当たり前ではなくなりました。」

■ 充実したウェブサイト

このようにレコードを取り巻く環境が激変するなか、柴田さんは2010年頃からウェブサイトを通じた販売にも力を入れるようになり、今では売り上げの約7割を占めるようになった。それもそのはず、SOUL CLAPのウェブサイトは柴田さんの豊富な知識に裏打ちされた商品説明が丁寧なのだ。加えて確かな目利きでピックアップされた視聴サンプルも充実している。

「1日10枚以上アップするようにしているんです。売り上げのメインが通販になっているのでそこはサボったらまずいなと(笑)。なるべく毎日見てもらいたいと思って。滅多に注文くれないお客さんも良い商品をウェブにアップした瞬間に買ってくれることがあるんです。ちゃんと見てくれている人がいるってことですね。」

この語りが示すように頻繁に更新されるウェブサイトは毎日見ても飽きない。SOUL CLAPが扱うレコードは既にクラシックとされているものが少なくないが、シンプルに良い盤、良い楽曲を丁寧に紹介することにも注力している。

「昔は雑誌で紹介されていたりミックステープに入っていたりするようなレコードしか売れない時期があったんですけど、外国の友達にすごく不思議がられて。他にも良い曲があるのになぜ?って。だから買付けの時はちゃんと自分でポータブルプレイヤー持って行って、ちゃんと良い曲を探すようにしています。今は『〜のミックスに収録』とかは売り文句にならない。一時期が異常だったんですよね。」

■ 心地良さに溢れた店舗

新しい時代に対応するようにウェブサイトでの販売を充実させるSOUL CLAPだが、実店舗へのこだわりも強い。ゆったりとした店舗には大きなソファがあり、じっくり腰掛けながら試聴することができる。店内にはソウル、ファンク、ジャズを中心にレア盤、定番とバランスよくレコードが陳列されている。筆者のオススメは少しだけコンディションの悪い盤が廉価で買えるジャンク棚だ。

この棚の商品はウェブサイトに掲載されていないため、店舗に足を運ぶことで初めて内容を知ることができる。これまで興味を持ちながらも手を出していなかったレコードが1,000円前後で買えるのが魅力だ。事実、ジャンク棚だけを見に来る人も多いという。店舗を訪れる客の特徴を柴田さんは茶目っ気のある表情で次のように説明する。

「店に来るお客さんは地元の人と遠くから来る人と半々。出張で来られる人も多いですね。『嫁の実家が浜松系』も結構います。地元のお客さんの半分はDJやってるかな。あとはレコードを買わずにビールを飲みに来る人もいますね(笑)。大阪、東京、福岡みたいに空港のある街は外国人のお客さんが多いみたいですけど浜松はほぼゼロです。ただ最近は若い子が増えました。しかも女の子が多いです。買う量は多くないし、安いものを買っていくんですけど興味を持ってくれるだけで嬉しいですよね。だから安いレコードはちゃんと置かなきゃって思っています。いきなり来た子に高いレコードを売りつけるわけにはいかないので1,000円以下で入り口になるような音楽を紹介したいですね。」

SOUL CLAPは20年の月日を経て浜松の街にどっしりと腰を据えている。かつてのようにレコード店がクラブシーンを牽引する時代ではなくなったかもしれない。しかしそれとは異なる役割がレコード店にあるように思う。今回の取材で印象的だったのは常連客が店内のソファにゆったり座ってビールを飲みながら柴田さんと談笑する姿。このような心地良い空間と店主の人柄はブームに左右されることなくレコード好きの心を捉え続けるだろう。

浜松の音好きが集まるbar「overdub」の店主と柴田さん

■ 取材後記

筆者は2012年頃から客として断続的にSOUL CLAPに足を運んでいたが、20周年のタイミングでじっくりお話を聞けたことが何より嬉しい。取材時に柴田さんがオススメしてくださり筆者の愛聴盤となったのがACE SPECTRUMの2nd LP。アップ、ミディアム、ソウルのバランスが良い70sソウルの傑作。アルバムタイトルのネーミングも秀逸だ。白眉は8分を超える長尺ディスコ「KEEP HOLDING ON」。

ACE SPECTRUM / LOW RENT RENDEZVOUS(1975 / ATLANTIC)

SOUL CLAP
〒430-0935 静岡県浜松市中区伝馬町312-22 金井屋第二ビル3C
TEL 053-451-3457
OPEN 14:00 - 20:00(定休日:水曜日)
https://www.soulclaprecord.com/

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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