マイアミ・レコード掘りの旅 (1)バックグラウンド編

WRITER
白波瀬 達也

 リヴァイナルの読者のなかにはアメリカ合衆国にレコードを掘りに行った経験を持つ人が少なくないはずだ。ただ、その多くはニューヨークとロスアンゼルスではないだろうか。筆者は2019年3月にマイアミに滞在する機会を得た。以下では人種・エスニシティの分布が他都市と大きく異なるマイアミの特性を音楽文化と絡めて論じる。

マイアミの地政学的特徴

 マイアミはアメリカ合衆国の最南部に位置するフロリダ州最大の都市で人口はおよそ270万人。金融、ハイテク産業などが発達した先端都市だ。日本とマイアミを結ぶ直行便がないこともあり、あまり馴染みがないかもしれないが、一年を通して温暖な気候に恵まれているため国内外から多くの旅行客が訪れる観光都市でもある。
 小市民の筆者にとって高級リゾート地としてのマイアミはトゥー・マッチな感じがしてさほど惹かれない。しかし、レコードを掘る場所としては他都市にはない抜群の魅力がある。それを決定づけているのが独特の人種・エスニシティの構成だ。ラティーノ(ヒスパニック)が全体の70%強も占めており、次に多いのが黒人で20%弱。白人は10%程度に過ぎない。マジョリティとマイノリティが反転している都市なのだ。
 ロスアンゼルスもラティーノの人口比率が高いことで知られるが、マイアミとは性格を異にする。ロスアンゼルスのラティーノの中心がメキシコ系(チカーノと呼ばれることが多い)であるのに対し、マイアミのそれはキューバ、ハイチなどのカリブ系、ニカラグア、ホンジュラスなどの中米系、コロンビア、ペルーなどの南米系など多様性に富んでいる。「中南米のゲイトウェイ」と呼ばれるマイアミの地政学的特徴は当然、音楽文化にも色濃い影響を及ぼしている。

キューバ革命と移民法改正

 レコード店の紹介を始める前にマイアミがいかにしてラティーノの集住都市になったのか、その歴史を振り返りたい。最重要の出来事として触れなければならないのがキューバ革命だ。1959年にフィデル・カストロの指導のもと独裁政権を倒し、社会主義革命を達成したことは広く知られている。美談として語られがちなキューバ革命だが、その裏面では新しい体制に馴染めない人々を多く生み出したことも事実だ。とくに軍事政権の関係者や富裕層などは社会主義化による弊害が大きく、大量の難民を生んだ。彼らはアメリカ合衆国に亡命し、マイアミに集住するようになったのだ。
 また、1965年の移民法の改正の影響も大きい。それまで出身国別で移民の割り当てられていた移民の数が見直され、家族の呼び寄せが可能となった。これに伴いキューバを中心とするラティーノが急増した。現代アメリカの研究者である示村陽一の著書『異文化社会アメリカ 改訂版』(2006)によると、かつて典型的な白人街であったマイアミはキューバ難民の流入によって劇的に変化し、アメリカ最大のキューバ人コミュニティになった。1960年のマイアミ・デイド郡に占めるキューバ系移民の割合は5%に過ぎなかったが、1970年には24%に急上昇。2000年には57%にまで達した。
 2015年にアメリカ合衆国とキューバが54年ぶりに国交を回復したことは日本でも大きく報じられたが、こうした状況は、キューバ系移民の増加をさらに後押ししている。このように「マイアミのラテン化」とも呼ばれる現象は半世紀以上にわたって進んでいるのだ。

「マイアミのラテン化」を象徴するCALLE OCHO MUSIC FESTIVAL

 筆者はマイアミに滞在時にCALLE OCHO MUSIC FESTIVALに参加した。これは1978年にキューバ系移民の誇りを高めるために始まったもので、後に他の中南米諸国の出身者たちも包含する全米最大規模の汎ラテンアメリカ音楽イベントとなった。キューバ系移民の集住地「リトル・ハバナ」のメインストリートを会場に多くのライブステージが組まれ、無料で楽しむことができる。1988年には当時人気絶頂だったGLORIA ESTEFAN & MIAMI SOUND MACHINEが出演するなど、トップミュージシャンをフィーチャーする一方、次代のスター発掘の場としても機能している。

 道中には所狭しと中南米系の料理や雑貨の露店が軒を連ねる。数十万人規模の来場者はラティーノだらけ。来場者は自国の国旗を身につけ、満面の笑みでストリートを闊歩する。周りではレゲトン、サルサ、メレンゲなど様々なラテン音楽が大音量で鳴り響いて大盛り上がりだ。

 来場者は若者だけでなく家族連れや高齢者も多く、まさにコミュニティのためのメガイベントといった風情。貧相な体つきをしたアジア人の筆者はかなり浮いていたに違いない。いずれにせよCALLE OCHO MUSIC FESTIVALはマイアミが中南米の様々な国からの移民で構成された都市であることを圧倒的なインパクトで実感させるイベントだった。

 

実際に訪問したレコード店をご紹介する『マイアミ・レコード掘りの旅 ⑵ディグ編』はこちら

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)

白波瀬 達也(社会学者 / フィールドワーカー)
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。主著『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)。大学時代は音楽研究部部長。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
http://kunimikojicla6.tumblr.com

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