レコード店とディスクガイド13軒目 Groovenut Records(大阪・西心斎橋)

WRITER
吉本秀純


ヒップホップやR&Bの楽曲のサンプリング・ソースとして使用されたレア・グルーヴ全般を定期的な米国買い付けで仕入れ、DJやビートメイカーたちを中心に支持されてきたGroovenut Records。個性派なレア・グルーヴ系のお店が軒を連ねるアメリカ村エリアの中で、元VINYL7大阪店のバイヤーとしてキャリアを積んだ後に、独立してよりレア・グルーヴ寄りの品揃えで2010年にオープン。移り変わりの激しい新譜のトレンドにも精通しながら、ソウル~ファンク、ロック、ジャズ、ワールド系などの多彩なジャンルから選り抜かれた確かなセレクションは、ビギナーからコアな聴き手まで満足させる“ディグ”の楽しみに満ちている。グルーヴ探求の初歩から奥の細道までを幅広く提案し続ける同店について、店主の山上泰さんにお話をうかがった。

――まずは、お店を始めるに至るまでのいきさつから聞かせてもらえますか?
最初は普通にDJに興味を持ってレコードを買い始めて、京都のJet Setとかに通ってミックスCDを聴いて気に入った曲が収録されている再発盤などをよくわからずに買っていたんですけど、途中からオリジナル盤がどうのとなっていって。Jet Setのすぐ近くにVINYL7というお店があって、そこへ買いに行った時にちょうど大学の先輩が働いていて、そこから“アレもイイよ”“コレもイイよ”と教えてもらえる関係になって、(VINYL7は)土日祝しか営業していなかったんですけどほぼ毎週のように通って買うようになりました。で、お店に関係する人たちと仲良くさせてもらいながらDJイベントにも遊びに行くようになったんですけど、ちょうどそのVINYL7が京都から大阪にも店舗を出そうかという時期で、僕も就職活動をする時期だったのでどうせ働くなら自分のやりたいことをしたいなと思って、その先輩に“実はレコード店で働きたい”と相談したんです。そしたら、大阪に店を出すためにスタッフが欲しいという話もあるからオーナーに訊いたるわとなって、その流れで手伝わせてもらうようになったんですよね。


レコード以外にもde la soulのTシャツを始め、HIP HOPを感じさせる。左には、VINYL7にも飾られていたBREAK DANCEのポスターが。

――では、VINYL7の大阪店スタッフからキャリアをスタートさせて。
で、入って2~3年くらいでその先輩が店を辞めることになって、誰かが代わりに買い付けに行かなあかんとなった時に“じゃ、オマエやるか?”ということでオーナーの田原さん(注:凄腕のバイヤーにして、京都発のUlticut
Ups!!やA.Y.B. Forceのメンバーとしても活躍)に海外買い付けに連れて行ってもらって、いろいろと教えてもらった後に2回目からは1人で行ってこいみたいな感じで買い付けを担当するようになったんです。それからは僕が買い付けに行って松本さん(現在は京都のVINYL7店長)が店頭に立ってという形でお店も回るようになっていたんですけど、やっぱりVINYL7はゴリゴリのヒップホップが強い店で。僕ももともとはそっちだったんですけど、もっと元ネタのソウルやレア・グルーヴの方への関心が強くなってしまって、お店のカラーと合わなくなってきてしまったんですよね。で、自分でやりたいとなって独立して今の店を始めたのが2010年です。


ポータブルアナログプレイヤーの販売もあり。

――なるほど。
Groovenutはレア・グルーヴ全般を広く扱っていても、根底にヒップホップ~R&Bの元ネタやトラック・メイキングに使えそうな作品という観点が一貫してあって、そこがお店の大きな特徴になっていますね。同じアメリカ村にはVOX MUSICさんとかAfro Juiceさんとか海外買い付けに行かれるレア・グルーヴ系のお店がいくつかあって、みんな欲しいところは似ているんですけど、微妙に色の差を出していくとなるとやっぱりそういう部分になるかなと。

――そのお店ごとの微妙な色の差が、品揃えに反映されていて面白いです。
はい、その似ているようで微妙に違うところを感じてもらえると嬉しいなと思います。

――そんなレア・グルーヴ激戦区の中で、Groovenutならではの特化した部分はどのあたりですか?
そうですねぇ…、ウチとしては、プロデューサー目線のちょっと変わったレコードを他よりはよく仕入れているかなと思います。あまり知られていないけどサンプリングに向きそうな曲が入っているレコードであったりとか、ロシアや中東圏のレコードとか、レゲエでもディスコっぽいものや、カリプソでもファンクっぽい曲が入っている盤とか。いわゆるレア・グルーヴなんですけど、もうちょっと突っ込んだものや、あまり見かけないレコードも置くようにしていますね。


7inchコーナーには、新譜も多数。

――ジャズでも、関西ではあまり置いている店がない英国ジャズや、DJシャドウあたりがネタにしていたようなジャズ・ロックやプログレ寄りのフュージョンも結構あって驚きました。
個人的にもそういうのもすごく好きで。ただ年配のモダン・ジャズとか好きそうなオジサンが見に来ても首をかしげて帰っていってしまう時もありますけど(笑)。そういうヒップホップ的なディグをメインにしながら、お店としてはド名盤からマイナーな盤まで幅広く置きたいなと思っています。

――定期的に行かれている海外買い付けは、主にどのあたりのエリアへ?
買い付けはほぼアメリカで、僕は東海岸がメインですね。ニューヨークとフィラデルフィアはほぼ100%行っていて、ディーラーの知り合いやコレクターの友達も多いんですけど、やっぱり音楽の街なのでご当地モノのローカル盤でいいのがよく出るんです。VINYL7時代はインディペンデントのラップが高く売れた時期だったんですけど、フィラデルフィアはそういう作品がよく見つかったし、今でもあのエリアはレコードが豊富にあるなという印象ですね。中西部によく行く方で東海岸は高いと言う人もいますけど、やっぱりいいものがよく出るなと。

――ということは、ヒップホップ~R&Bも東海岸系がお好きでした?
最初はそうでしたね。ファンクでもパーラメントとかよりジェイムス・ブラウンの方が好きやったり。今はP-ファンクとかの方がカッコいいなと思う時もありますけど(笑)、聴き始めの頃とかは東のラップの方が好きでした。でも、(ドクター・)ドレとかは普通に聴いていましたし、今はケンドリック・ラマーとかタイラー(・ザ・クリエイター)とかが強いですし。


アメリカ村の南西にあり、堀江も間近のビルの中にあるGroovenut Records。店内は広々としていて、レコードも見やすい。何より、店主・山上さんは非常に気さくなので、レコメンドを聞いてみるのもおすすめ。

――やはり最近のものもしっかりチェックされているんですね。
はい、中古にもトレンドがあって、そのトレンドは新譜の影響が強いんですよね。やっぱりそこは常に連動していて、中古のトレンドが新譜に行くこともありますし、新譜のトレンドが中古に反映することもあるんですよ。少し前のデイム・ファンクやタキシードがそのいい例で、彼らの人気が出てきた頃には、もうすでにエイティーズの音源が徐々に中古でも人気が出てきていたんですよね。だから、昔ほどではないですけど新譜もざっくりとチェックしてますし、大ネタでも若いアーティストが使うと、そっちで売ると若い子が食いついてくれたりということもあるので、新しい見せ方や提案の仕方という意味でも欠かせないです。

――買いにくるお客さんは、やはりトラックメイカーの方も多いんですか?
そうですね。ビート作っている子とかが“なんかいいネタないっすかね?”みたいな感じで来ることは多いですけど、最近はレコード・ブームがどうのと言われる一方でレコードでDJをする人が少なくなってきている中で、普通に聴く人のことも考えてアルバムを通して聴いていいものとか、今までの自分にはあまりなかった視点でレコードを聴いて仕入れるようにしているところもあります。

――DJ目的ではない人が買いに来るようになったという話は、他のお店でもよく聞きます。
ここ3~4年くらいで二十歳くらいやろうなという若いお客さんとか、女の子が1人で来ることもたまにあるんですよ。で、“試聴したいんですけどプレイヤーの使い方がわからなくて…”と言ってきて“レコードは持ってるの?”と聞いたら“いや、持ってないんですけど欲しいなと思ってて…”みたいな、プレイヤーすら持ってない人もいて(笑)。だったら、そういう人も取り込むには、レコード・プレイヤー自体も扱っておいた方がいいのかなとか考えることもあります。

――では最後に、今後にお店として力を入れていきたいことなどを聞かせてください。
やっぱり自分の理想としては、アメリカのレコード屋さんで多いんですけど、例えばロックに強いお店でも普通にソウルやモダン・ジャズのコーナーとかも少しだけあって、マーヴィン・ゲイやマイルス・デイヴィスの有名な作品はちゃんとリマスターの再発盤とかでストックしてたりして。音楽が好きな人ってジャンルを気にしない人が多いし、いい音楽を聴きたいという感じなので、いわゆるマスターピース的な作品は常に再発盤とかでもいいのでストックしておけるようにしたいなと思っています。もうちょっと敷居を下げたいというか。僕も最初はそうだったんですけど、いきなり中古盤からスタートする人は少ないと思うし、ソフトだけじゃなくてレコード・プレイヤーなどのハードも攻めていきたいなと思っています。敷居を下げつつ、マニアックな部分もしっかりやっていければ。

【アーティスト本人から直接仕入れた3枚】

J Scienide『The Actual Heat』

これはワシントンD.C.のラッパーで、Kev Brownという人が一番有名なロー・バジェット・クルーに在籍している人のアルバムです。最近は向こうでも日本盤のようにレコードに帯を付けるのが流行っていて「2,500円」と書いてあるんですけど、向こうでの売り値は25ドルで、たぶん1ドル=100円で計算したんでしょうね(笑)。さすがに買い付けてシッピングや税金もかかっているので、注釈を書いて売っています。

Schmugs Context&ScratchMagic『Quit Talkin’』

デンマークのコペンハーゲンのラッパーで、昔、この人の友達でプロデューサーのNicoD2が大阪に住んでいてビートを作ったりラップしたりしてたので仲が良かったんです。で、この人が来日した時に店に連れてきてくれて、レコードを聴かせてもらったらカッコ良かったので、持ってきてた60枚くらい全部買ったんですよね。そしたら全部売れて追加で送ってもらって、300枚しかプレスしていないのにウチで80枚くらい売りました。

Da Great Deity Dah『Chronicles Of The Electromagnetic Field General』

この人はいきなり店に来たんですよ。しかも、ポータブル・スピーカーで自分の曲をかけながら“ホワッツ・アーップ!”みたいな感じで入ってきて(笑)、ラッパーでレコードもあるから聴いてくれと売り込みに来たんです。このアルバムは、カーネギーメロン大学芸術学校という向こうの名門の音楽部に所属する生徒とセッションしたもので、ヒップホップにオーケストラの生演奏が入っているという面白い作品ですね。

【個人的愛聴盤な3枚】

Roy Ayers Ubiquity『Vibrations』

とにかく全曲がいいですし、メロウで家聴きにもピッタリな名作ですね。サンプリング・ソースとして使われた曲がたくさん入っていて、そうではない曲も良くて、レア・グルーヴにハマった初期に好きになって、今聴いてもやっぱりエエなと思えるアルバムです。針を落としてそのままずっと聴けるし、聴き始めの人にもオススメしたい1枚ですね。

The Dramatics『Whatcha See Is Whatcha Get』

上のロイ・エアーズがジャズ~レア・グルーヴで全曲いいアルバムの代表なら、こっちはソウルでのそういう作品ですね。サンプリングに使われたことで有名な2曲以外も全部良くて、ドラマティックスはどのアルバムを聴いてもネタが入っているし曲もいいんですけど、コレがやっぱり一番好きかなと。最近はキレイな盤が見つけにくくなってきました。

Archie Whitewater『s/t』

これはサイケ・ロックっぽい音の名盤で、ソウル~レア・グルーヴが好きな人にもロックが好きな人にもイケるジャンルを超えた名作だと思います。Cadetからのリリースでアルバムはこの1枚だけしか残していない人たちなので、レアで値段はちょっと高くなりますけれど、ロータリー・コネクションとか好きな人は絶対に出す価値のある内容ですね。

Groovenut Records

Groovenut Records
住所:大阪市中央区西心斎橋2-17-13 新すみやビル201
電話:06-4963-3635 (営業時間内のみ受付可能)
営業時間:13:00 - 21:00
定休日:水曜*祝日の場合はオープン ※買付け期間中も休み
HP:https://groovenutrecords.net

Writer 吉本秀純

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