レア・グルーヴのディスク・ガイド決定版『レア・グルーヴ A to Z』の3rd Editionが発売。執筆&監修のキーマン3名に独占インタビュー!

WRITER
小川充

――これまでもアフリカやブラジル、ラテンだったりと、アメリカ以外の国の作品も掲載していますが、そうしたグローバルな広がりは最近ありますか? 近年はタイのサイケ・ロックだったり、アフリカのチープなディスコだったり、辺境モノと呼ばれるレコードもいろいろ発掘が盛んですけど。
尾川:いや、世間が思うほど広がってはいませんね。一部のマニア間で話題になることはあっても、全体を考えると日本ではアフロですらそこまで広まっていないのが実情です。タイのレア・グルーヴとか、レコード屋や売り手はいろいろ手を変え、品を変えて打ち出して、一部で熱狂的なファンもいるのかもしれないけれど、今後それがレア・グルーヴの中の大きな柱になっていくとはあまり考えられないですね。

橋本:僕らの中では本を作る上で、そこはある程度切り捨てますね。というのはキリがないので。むしろアメリカ的な音をより深く追求していく感じです。レア・グルーヴは音楽ジャンルではないけれど、敢えてそれをジャンル的に表わすとこれだとか、「レア・グルーヴ・クラシックとは?」みたいなレコードを載せるように意識しています。

B.V.J.:人から「この本ってUSブラック寄りだよね」と言われることがあって、確かにヨーロッパの作品の扱いも少ない。でもそれは当たり前で、アメリカの黒人音楽を扱う本を目指しているわけだから。レア・グルーヴと言いつつも、僕はメンバーの中でも特に趣味に走る傾向があって(笑)。

――今回新たに載せたニュー・ディスカヴァリーの中で、これはという目玉はありますか?
B.V.J.:尾川さんの載せたスポンテニアス・オーヴァースローじゃないですかね。さっき話に出た、レア・グルーヴの王道からは外れるエレクトロ・ソウル的な音ですけど。
尾川:ニュージャージーの黒人2人組のユニットで、ドラムマシンとかを使って宅録で作ったレコードなんです。1984年のレコードですけど、ここ5年くらいで評価が進んだものですね。

B.V.J.:あとガラージ・クラシックの12インチもあって、知ってる人は知ってるかもしれないけどスパークルのアルバムですね。チェイン・リアクションのメンバーが手掛けたディスコものですけど、普通のディスコとはちょっと違っていて、うねりのある演奏というか。

――変わりダネではゴスペル系も目につきますね。
尾川:日本では本格的なゴスペルは苦手と敬遠する人が少なくなかったですけど、モダン・ゴスペルは音楽の流行やトレンドを取り入れて、ファンクやディスコと結びついたものがいろいろあります。しかもマイナーなレコードで、プレス枚数が少ないなどレア・グルーヴの要件を満たすものが多いんです。市場として、掘る側として無視できなくなっている感じです。

B.V.J.:僕も未だに知らないレコードが一杯出てきますけど、そのほとんどがゴスペルです。だいたいが自主制作盤みたいなもので、日本にはあまり入ってきていないけれど、7インチも含めて膨大な量のレコードがリリースされていて、その中からレア・グルーヴとして光るレコードを見つけるのは、本当に大変な作業ですよ。アメリカには教会がたくさんあって、それが音楽と結びついてレコードを作る文化となっているのは、とても面白いですよね。

――アメリカはカレッジ・バンド、軍隊バンドのものとか、いろいろ変わったレコードがありますよね。
B.V.J.:いろいろありますね。カレッジや軍隊モノとかはほとんど出尽くして、囚人モノとかもだいたいこんなところかなと(笑)。

橋本:バンド・コンテスト系もありますね。

尾川:ヨーロッパのようなライブラリーものはないけれど、その代わりにダンスのレッスン用のレコードとかがあって、オリオンやホクターなどのレーベルがそれですね。楽器の教則モノとかも、それに近い感じです。

B.V.J.:変わりダネでは会社の税金対策のために作られたレコードやレーベル、いわゆるタックス・スカムと呼ばれるものがあります。その当時のアメリカならではの税金の抜け道があるのか、どんな経緯でそうなっているのか謎ですが、面白いですよ。

――今いろいろなレコード・ショップの話を訊くと、和モノがブームということをよく言われるのですが、そうした和モノとレア・グルーヴの接点などありますか?
橋本:今の若い人たちにとっては、和モノがまさしくレア・グルーヴなのかもしれないですね。本にも和モノだったり、和ジャズだったりは最低限入れています。でも前の話にも通じますが、それはレア・グルーヴの本道ではないし、そもそも和モノの本は本で出てますから、僕らがここでそれに深く突っ込む必要はないかなと。

B.V.J.:和モノにしろ、辺境モノにしろ、僕たちはその道のエクスパートじゃないから、それを唐突に本に入れて、それらに詳しい人から「何でこれが入ってるのに、あれは入ってないの?」と言われるようなことはしたくなかった、というのがあります。

――そのほか今回の第3版で特筆すべきことはありますか?
橋本:巻頭のヴィジュアル・ページですかね。本の中には珍しいレコード、入手困難で滅多にお目にかかれないものがいろいろ出てきますが、それらのジャケットが実際に置いてあって、手に取って見ることができるような、リアルな感じのジャケ写を使ってページを作りました。裏ジャケやレーベルも載せていますが、レコード盤を聴く以外にジャケットを眺めて楽しむということもレコードの楽しみ方のひとつなので、そうした部分も読者の方が体験できればと思います。7インチを載せていないのもそうした理由がひとつにあって、ジャケを含めたLPを一緒に楽しむことを提供できればなと。

尾川:7インチに関しては奥が深過ぎて、本場のアメリカでそうした7インチ専門に掘っている人たちには、到底日本の僕らが追い付けない世界だったりします。そこで中途半端に載せてもあまり意味がないかなと。

――今後レア・グルーヴの楽しみ方はどうなっていくと思いますか?
橋本:今のジャケットの話にも繋がりますが、DJだけではなく、リスニング・ミュージックとしての側面がより高まっていくのではないでしょうか。ある意味でモダン・ジャズのコレクターの聴き方に近いかもしれないです。

尾川:レア・グルーヴがクラブ・ミュージックやDJミュージックでなくなって、既にかなりの年月が経つと思いますが、今後はもっとリスニング・ミュージックとして成熟していくと思います。それと、レア・グルーヴの面白さは自分の知らないレコード、それは周囲が知っていても自分だけ知らないものでもいいけれど、そうしたものを見つけていく楽しみ方でもあると思います。そうした発見する楽しみ方がどんどん続いていけばいいと思いますね。

B.V.J.:今の若い人の中だと、たとえばレコードをジャケ買いするような人は少なくなってきているんじゃないかと思います。昔に比べて情報量が増え、ネットやDiscogsで検索したり、YouTubeで聴けたりするけど、逆にそうした情報がないものを探して、冒険しようという人が少なくなってきた気がします。レア・グルーヴって自分で知らないものを探して、追求していく楽しみ方でもあると思うので、僕の希望としてはそうした楽しみ方に気づいてくれる人が増えればいいなと。

次ページ:思い入れ深いレコードの紹介

By 小川充
Photos by Daisuke Urano
撮影協力 ディスクユニオン渋谷ジャズ/レアグルーヴ館、Cafe&Dinerスタジオ

世界中のレコードを、その手の中に
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