レア・グルーヴのディスク・ガイド決定版『レア・グルーヴ A to Z』の3rd Editionが発売。執筆&監修のキーマン3名に独占インタビュー!

WRITER
小川充

レア・グルーヴのディスク・ガイドの決定版と言えば、リットーミュージックから出ている『レア・グルーヴ A to Z』となるだろう。2009年に初版が出て、その後2013年に「完全版」として改訂版が出た。そして、それから5年ぶりに、2度目の改訂版となる「3rd Edition」が12月20日に発売となる。これまで同様に、原稿の執筆や監修はレア・グルーヴ・レコードのコレクター集団であるRARE 33 inc.が務め、そのほかゲスト執筆陣に中古レコード店UNIVERSOUNDSの主宰者である尾川雄介氏などが加わっているが、今回はRARE 33 inc.を代表してB.V.J.氏、橋本真志氏、そして尾川氏に参加いただき、座談会形式で話を伺った。今回の「3rd Edition」のことから、初版からこれまでを振り返った中でのレア・グルーヴ観など、いろいろと話に花が咲いた。

(写真左から尾川雄介、橋本真志、B.V.J.)

――2度目の改訂を経て、このたび「3rd Edition」となる『レア・グルーヴ A to Z』ですが、今回の改訂はどのような経緯で行うことになったのですか?
橋本:正直言うと、リットーミュージックの担当の服部さんの方から「そろそろ出しませんか?」と声をかけてもらって(笑)。前の第2版も欠品で手に入らなくなっていて、増版するか、新しく改訂するかということになり、せっかくだったら改訂がいいかなと。

B.V.J.:我々としては前回で終わりのつもりで、それで第2版は「完全版」と銘打っていたんですけどね(笑)。

――追加で200枚ほどレコード・レヴューが増えていますが、それらはどのように選びましたか?
橋本:ふたつの方向性があって、ひとつは基本アイテムではあるけれど、今まで載せてこなかったものからピックアップしました。レコード屋では割と見かけるけど、見落としがちなものとかですね。いままではそうした定番は敢えて外して、もう少しレアなところを狙っていた部分もあるので、今回はもう少しベーシックなところからもフォローしようかと。たとえばロイ・エアーズやドナルド・バードなどのアルバムは、これまでは部分的にピックアップしてきましたけど、今回はアーティストの枠を設けて、その中でレア・グルーヴに括られるものをひと通り紹介しています。それからもうひとつの方向性は、第2版の出た時点ではまだ知られていなかったようなレコード、いわゆるニュー・ディスカヴァリーですね。

B.V.J.:でも執筆の主軸メンバーが6人いるので、それぞれの思いもバラバラで、結構話がかみ合わないところも出てくるんですよ(笑)。まあ、その違いが面白いところでもあるんですけど。最初始めたとき、僕とかは「とにかく誰も持ってないようなレアなレコードを載せたい」という気持ちが強くて、でも他のメンバーの中には「もっと定番モノを増やしたほうがいいんじゃない?」と意見する人もいたりと。僕自身はソウルでもファンクでも、レアなレコードだったら何でもよかったんですけど、そうしたときにレア・グルーヴって都合のいいひとつのキーワードでもあったんですね。

――本を作るにあたり、RARE 33 inc.の6人で集まって会議を開いたりしたのですか?
橋本:結構やりましたね。だいたい選盤について話します。あれを載せる、これは外すとか。ただ、まとまらないことが多かったですね。

B.V.J.:あれは人間関係を悪くするよね(笑)。みな自己主張が強くて、自分の推薦するレコードが一番と思っているから。
橋本:でも、今までは最終的に話を合わせたり、気をつかって遠慮してたところもあるけど、今回はそれぞれが言いたいことを言い、主張を通しましたね。そうやってぶつけたほうが、結果的にいい本になるわけだし。


橋本真志

――初版を出したときに話が戻るのですが、そもそもレア・グルーヴはどう定義づけをしましたか?
橋本:基本的には黒人音楽に影響を受け、ダンサブルな要素を持つサウンドになりますね。一部で例外があるものの、生演奏や生音であること、それからメインストリームの音楽からは外れたものということですか。 ジャズでもモダン・ジャズでなく、ジャズ・ファンクであるとか。ソウルでも王道のモダン・ソウルより、ジャズやAORなどの要素を持つクロスオーヴァーなものとか。

尾川:現在はレア・グルーヴという言葉の意味がわかりづらくなってきていると思うんです。昔の1990年代初頭とかであれば、何の疑いもなくジャズ・ファンクやソウル・ジャズというイメージで、ジェイムズ・ブラウンをクラブでかけて盛り上がってという、そうした価値観をみなの間で自然に共有できていた。でも、だんだんとコレクターやマニアの世界のものになってきて、今はダンス・ミュージックからはかけ離れてしまっている状況じゃないですかね。RARE 33 inc.のメンバーも今DJを定期的にやっている人はいないけれど、でも逆に彼らはリスニング・ミュージックとしてレア・グルーヴに接していて、それは当初レア・グルーヴが出てきた頃にはなかった新たな価値観じゃないかなと思う。そうした90年代以降の新たな価値観を経て評価されたものが、今のレア・グルーヴじゃないかと思います。

橋本:1990年代のイースト・コーストのヒップホップも、シカゴのディープ・ハウスも、デトロイト・テクノも、生まれてかれこれ20年から30年は経っていて、昔の意味合いでいけばレア・グルーヴという解釈もできますけど、でもそこへ行っちゃうともう別ものかなと思いますね。和モノにしてもそうだけど、僕らが取り上げる意味はあまりないかな、と。

B.V.J.:僕は1980年代後半くらいからレア・グルーヴ的な音にハマり出して、捉え方としては尾川さんが言われたようなソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクなどが入り口です。で、今もそうしたイメージの中で止まっている感じですかね。だからレア・グルーヴ・イコール何でもアリみたいになると、ちょっと違うかなと。タイとか香港とかのレコードをアジアン・レア・グルーヴとかいう具合に、何でもかんでもレア・グルーヴにまとめるのには違和感があるんです。そこはやっぱり黒いファンクだったり、ジャズ・ファンクだったり、譲れないイメージがありますね。


尾川雄介

――日本の場合はフリー・ソウルと結びついた部分もあって、いわゆる黒い音でないもの、ソフトでメロウなものもレア・グルーヴ的に扱われたりすることがありましたね。
尾川:ほとんど同時期にレア・グルーヴとフリー・ソウルが出てきて、すごい渦ができましたよね。海外に買い付けにいくと、そうしたフリー・ソウルの本を持ってレコードを探している人がいて、そんなところからフリー・ソウルが海外でも影響力を持つようになり、それがまたレア・グルーヴへフィードバックされる、そんな流れも生まれましたね。

――あとヒップホップのネタ元としてレア・グルーヴを掘る人もいて、そうした流れも交わっていきましたよね。DJ MUROさんなどはまさにそうした人ですし。
尾川:位置的にはヒップホップとレア・グルーヴは近かったですよね。

B.V.J.:僕はヒップホップは聴かなかったけど、ヒップホップが出てきたときに『Ultimate Breaks & Beats』のコンピがズラっとあって、僕の周りでもアレの元曲が入ったオリジナル盤を探すという人はものすごく多かったですよ。

橋本:あの頃はみな、ドラム・ブレイクがあるというだけですごく興奮していて、曲作りをしない人までが「何でドラム・ブレイクだけでこんなに盛り上がれるのか」という時代でしたからね。それを考えると、やっぱりヒップホップの影響はとても大きかったのかと。

――そうした時代を経て、『レア・グルーヴ A to Z』も第3版まで重ねる中で、レア・グルーヴに対する意識も変わってきた部分があるんじゃないかなと思います。レア・グルーヴと呼ばれるレコードの中でも流行り廃りがあるかと思うのですが、いかがでしょう? たとえばここ10年くらいだと、以前に比べてモダン・ソウルとかブギー、ディスコ系が受けているのかなと感じるのですが?
橋本:今回初めて載せたドン・ブラックマンとかは、そうした流れを反映したものかもしれないですね。ただ、基本的には打ち込みの音だったり、シンセが入ったようなものはレア・グルーヴとしては避けています。

B.V.J.:僕自身はレア・グルーヴは1980年代の音ではなくて、あくまで1960年代、1970年代のレコードというイメージがあります。とは言いつつも、1980年代のものも買ってたりしますけどね(笑)。この年になって幅が広がったというか、最近は1980年代のものもちょっと面白く感じられるようになってきたかな(笑)。ただ、あくまで「レア・グルーヴの本分とは?」という話になると、僕の中で3冊の基準は変わっていないです。1980年代後半から1990年代初頭に感じたレア・グルーヴの音、その根本は変わっていないですね。

次ページ:『レア・グルーヴ A to Z 3rd Edition』について、更にインタビュー!

By 小川充
Photos by Daisuke Urano
撮影協力 ディスクユニオン渋谷ジャズ/レアグルーヴ館、Cafe&Dinerスタジオ

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