Kan Sano インタビュー ~ PERSONAL BUYER

WRITER
濱安紹子

「中古レコード屋で安い掘り出し物を見つけるのが好き」
そう話すのは、キーボーディスト/トラックメイカー/プロデューサーのKan Sanoさん。
16歳よりピアニストとしての活動をスタート。米バークリー音楽大学在学中に世界三大ジャズ・フェスのひとつ「モントレー・ジャズ・フェスティバル」に出演した経験を持つ実力派でありながら、様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションや、錚々たるミュージシャンや企業への楽曲提供を行なうマルチアーティストでもあります。慣れ親しんだジャズの枠を飛び出し、独自の音楽性を確立したKan Sanoさんがレコードと出会ったのは留学先のボストンでのこと。レコードにまつわるストーリーを伺う中で、興味深いバークリー時代のお話や音楽的な原体験についても触れてくれました。

——パーソナルバイヤーの印象を教えてください。
購入してくださったお客さんは、手元に届くまで何のレコードが手に入るのか分からないっていう仕組みなんですね。僕の選んだ作品の中のどれかが当たるっていう。これまでにないサービスなので単純に面白いなと思いました。

——おっしゃる通り、そういうガチャガチャ(カプセルトイの俗称)的な側面もありますね(笑)。普段レコードはよく聴かれますか?
PCやiPhoneで聴くこともありますが、レコードで音楽を聴くのが一番好きです。他のフォーマットとちょっとモードが違うんですよね。しっかり曲を味わいたい時や自宅でリラックスしながら聴く時はレコード。気になっているアーティストの作品をチェックする時はネットで、さらにもっとしっかり聴きたいって思ったらレコードを買って聴くことが多いですね。

——レコードとの出会いはいつ、どのようなものだったんですか?
自分で買うようになったのは20歳過ぎた頃。CD世代なので以前はずっとCDで音楽を聴いていたんですが、大学時代にクラブカルチャーと出会い、周りにDJやラップをやっている人と会う機会が増えてレコードに興味を持ち始めました。DJがレコードで古い音楽を掛けているのを見て、すごく新鮮だったし面白そうだなって。その時僕は留学先のボストンに住んでいたんですが、そこで最初のレコードを買いました。地元の小さなレコードショップへ行って、1ドルくらいのジャズとかフリーソウルのレコードを買い漁っていましたね。

——ボストンではジャズを勉強してらしたんですよね。
ジャズとか、アカデミックな音楽を勉強したくてバークリーへ入学しましたが、実際に入ってみたら自分のやりたい音楽がストレートなジャズではないことに気づきました。留学していたのは2000年代初期の頃。その頃に流行っていたネオソウルだったりクラブジャズだったり、より現代的な音楽に惹かれてそっちの方へシフトしていくことになりました。その頃にレコードと出会っているんですが、ちょうどレコードというアナログなものが再評価されだした時代でもありましたね。

——周りにもレコードを聴いている人が多かったんですか?
周りにいたのはミュージシャンやDJばかりだったので、レコードを持っている人が多かったですね。だけど、DJ視点で掘ってる人と、根っからのジャズマンでコレクションしている人。レコードを買う人の中にもそういう微妙なギャップはありました。何にせよ、アメリカの中古レコード屋はとにかく安くて掘り出し物が多いんですよ。日本のリサイクルショップで、昔のフォークとか演歌とか古いレコードが100円とか200円で売ってたりしますよね。それに近いノリで、アメリカだと古いジャズとかソウルとかのレコードが買えるので、「うわー、こんなのもこんな値段で買えるんだ!」ってよく感動してましたね。当時買ったレコードの何枚かは今でもよく聴いています。

——Kan Sanoさんにとって、レコードの魅力はどういうところですか?
いっぱいありますけど、まず音がすごく良いじゃないですか。その音の良さをどうやって伝えたらいいのかって難しいところですが(笑)。僕にとってCDやデジタルで聴く音は綺麗に整頓されている印象。聴きやすさはあると思うんですが、レコードの雑味や温もりみたいなものが僕は好きで。同じ音楽で聴いたとしても、レコードとデジタルでは、入ってくる情報量とか経験できるものが違う気がします。レコードを聴く行為自体も魅力を語る上で重要な部分。ケースから盤を取り出して針を落とすって結構面倒くさい作業ではあるけど、その手間と時間がすごく大事なんです。音楽を聴くモードに入れるし、集中して音を感じることができる。それにレコード全盛期の古い音楽って、作品を作っているアーティスト自身もずっとレコードを聴き続けてるし、レコードで聴かれることを想定して制作しているわけで。そうなると、それをCDで聴いても、当時アーティスト本人が思っていた音とは厳密に言うと異なるはず。制作者の思い描いていた音を堪能するのであれば、レコードで聴くのが一番正しいんじゃないでしょうか。

——古い作品こそレコードで聴くべきだと。
そもそも僕は、中古屋に行って安い掘り出し物を見つけるのが好きなので、あまり高価なものとか新譜は積極的に買ってないんですよ(笑)。特に70年代の音が好きなので、作品を買う時に年代は必ずチェックしますね。その上で特にジャズのアルバムの場合はレーベル、演奏者やプロデューサーの名前をチェックして、自分の好きそうなものかどうかを判断します。特色の強いレーベルに関しては、そこから出ている作品だったら間違いないっていう安心感があるので試聴せずに買ったりすることも多いですが、その上でハズしちゃったらそれはもうしょうがないって感じです。あまり高いものを買わないので、そこまで残念がらずに済むという面もありますね(笑)。

——サブスクやネットで聴く分には失敗はないけど、レコードにはそれがありますよね。
アルバム1枚の中にだって、好きな曲とそうじゃない曲が入ってたりするもの。それで然りなんだと思います。デジタルが主流になって曲の聴き方って変わりましたよね。今は1曲買いをする人が多いし、好きな曲だけを選んで聴くって人も当然いると思いますが、レコードだとそれができないじゃないですか。スキップして好きな曲を聴くにも手間が掛かるし。だけど、僕はその不自由さも面白いところだと思うんですよ。アルバムを通して聴くことで感じられるストーリー性も大切。効率だけを求めていくとどんどんデジタルの方へ行ってしまうんですが、それによって失われるものもたくさんある気がします。



——確かに、CDもそうですがデジタルやアナログだと、アルバムを通して聴く機会が少ない気がしますね。 ではここで、ご持参いただいたお気に入りのレコード3枚をご紹介ください。

■Ahmad Jamal『Rhapsody』

ボストンで1ドルで買ったやつなんですが、これ、調べても全然ネットで出てこないんですよ。YouTubeにも上がってないし、本当に出してたのかっていうくらい(笑)。Ahmad Jamalは昔から好きで色々聴いてるはずなのに、見たことすらないジャケットのレア作品が、しかも100円程度で買えるってどういうことなんでしょうね。日本じゃ有り得ないことだと思いますが、ボストンの中古屋にはそういうレアな作品が破格で置いてあるんですよ。そういう掘り出し物に出会えるのも、レコード屋へ足を運んで買う醍醐味ですよね。これもまさにそういう出会いで買った作品でした。

■Wes Montgomery『Road Song』

Wes Montgomeryもすごく好きなアーティストなので色々な作品を持っていますが、これは彼の良さを味わうのに最適なアルバムだと思います。オーケストラと一緒に演奏している豪華な作品なんですけど、ギターを中心にアレンジされていて、ボサノヴァとかBGMとしても聴きやすい曲も入っているので、どちらかと言うとイージーリスニング寄りのジャズ作品。レコードで聴くと味わい深いですね。これを含めCTIってレーベルから出ているWes Montgomeryのシリーズ作は、全部ジャケが似てるんで一目見てすぐに彼の作品だと分かるんですよね。同じアレンジャーを迎えて何枚も出しているんですけど、特にこれが好きです。

■Roberta Flack『Chapter Two』

Roberta Flackって有名な作品は知ってるけど、実はそんなに通ってきてなかったんですね。実はこれ、最近たまたま安く売ってたのを見つけたので試しに買ったものなんですけど、聴いてみたらすごく良くて。同じアルバムでもYouTubeから入るのと、レコードから入るのでは印象が結構違うんですよね。この作品に関してはYouTubeで入ってたらもしかしたらそんなにハマらなかったのかも。音楽って出会い方もすごく大事。レコードから出会う音楽はより印象に残る気がします。

ちなみに、昔からのミュージシャン友達に、Keith Jarrettの『Facing You』って僕の好きなアルバムをCD-Rに焼いて渡したことがあるんですけど、彼的には最初あまりしっくりこなかったみたいなんですよね。でも、ある日「あれ、LPで聴いたらすげー良かった」って連絡が来て、何だかすごく納得したっていう経験が。さっきお話した通り、やっぱりレコードって音の情報量が全然違うんです。CD-Rで聴いたときには感じられなかった印象を彼は受け取ったんでしょうね。その話を聴いて「ああ、すごく分かるな」って妙に共感したのを覚えてます。

——興味深いエピソードですね。ちなみに、いずれもジャズか、それに近い印象のレコードをご紹介頂きましたが、ご自身の音楽的なルーツというと?
子供の頃は普通に当時流行っていたJ-POPを聴いてましたよ。最初にお小遣いで買ったCDはミスチルの「イノセントワールド」だったりしますし。だけど、その後The Beatlesに聴くようになってすごく影響を受けたので音楽的なルーツといえばそうなのかも。父親にプレゼントしてもらって初めて聴いたのが『Abbey Road』。そこからすごいハマって全アルバムを聴き漁りました。小学5年生くらいの頃ですね。僕が音楽に興味を持ち始めた時期だったので、今思うと、「じゃあ、まずこれを聴け」って感じで父が渡してくれたものだったのかなと。

——素敵なお父さん! それに、ちょっと意外なルーツだったりもします。そんなKan Sanoさんは今回、パーソナルバイヤーとしてどんなレコードをピックアップしてくださったんでしょうか?正直、何を選ぶかすごく迷ったんですよね。当然全て自分が好きな作品を選んだわけですが、あまりハズしを入れないように気を付けました。

——ハズしというと?
こういうのも1枚くらい入れとこうみたいな、ちょっと奇をてらったというかアヴァンギャルドな作品を入れた場合、もしかしたらその1枚が当たっちゃって、「なんだこれ!」ってなっちゃうお客さんが出てくる可能性もあるわけじゃないですか。割とどれが届いても失敗というかハズレがないようにしたいと思って、真面目に選びました(笑)。

——購入者のことまで考えて、そこまで気を遣って選んでくださったんですね(笑)。
あまりベタになり過ぎず、でも聴きやすいものが良いだろうな、とか色々考えて悩みましたね(笑)。基本はジャズとか古いソウルとかを中心に、普段から僕がレコードで聴いているものが多いです。と言いつつ、自分が本当に好きな作品だからベタでも構わない、入れちゃおうと思った王道系の作品やベスト盤も少し含まれています。歌ものも多いですね。楽しみにしていてください。

——本日は貴重なお話、ありがとうございました!

申込者へのプレゼント用メッセージカードを書いてもらいました。

origami SAI 2020 Osaka
■ 日程 2020. 4. 5 (sun.)
■ 時間 14:45 OPEN / 15:30 START
■ 会場 味園UNIVERSE
■ 料金
□ 前売 ¥5,500 → 1/13(月祝)まで早割 ¥4,500
□ 19歳以下 ¥4,000 (身分証のご提示をお願いします)
■ 出演 Ovall / Kan Sano / Michael Kaneko / mabanua / Nenashi
■ チケット
□ LINE TICKET 最速早割先行 12/15(日)まで
■ INFO. YUMEBANCHI (Tel. 06-6341-35250)

origami SAI 2020 Tokyo
■ 日程 2020. 5. 31 (sun.)
■ 時間 14:00 OPEN / 15:00 START
■ 会場 渋谷 O-EAST
■ 料金 Adv. ¥6,600
■ 出演 Ovall / Kan Sano / Michael Kaneko / mabanua / Nenashi / 関口シンゴ and more
■ チケット
□ LINE TICKET
□ チケットぴあ Tel. 0570-02-9999 (Pコード:169-141)
□ ローソンチケット Tel. 0570-084-003 (Lコード:71555)
□ イープラス
□ 岩盤 Tel. 03-5422-3536 ※ 店頭販売のみ (渋谷PARCO B1F 11:00〜21:00)
■ 問合せ SMASH Tel. 03-3444-6751

※本記事は2019年12月に、PERSONAL BUYERのサイトにて公開されたものです。

▼PERSONAL BUYERの詳細はこちらをご覧ください
【NEWS】新ゲストバイヤーに Kan Sanoの参加が決定!!

Kan Sano

Kan Sano
キーボーディスト/プロデューサー。
これまでリリースしたアルバムは国内のみならずアジアやヨーロッパでもリリースされ話題となり、国内外の大型フェスに多数出演。新世代のトラックメイカーとしてビートミュージックシーンを牽引する存在である一方、ピアノ一本での即興演奏ライブも展開。
プロデューサー、キーボーディストとして Chara、UA、SING LIKE TALKING、平井堅、土岐麻子、大橋トリオ、藤原さくら、RHYMESTER、KIRINJI、m-flo、iri、向井太一、SANABAGUN、Seiho、青葉市子、Mrs. GREEN APPLE、Shing02、、Madlibなど国籍もジャンルも越えてライブやレコーディングに参加。
さらにTOYOTA、CASIO、LINE、J-WAVEなどにCMやジングルなどを手掛ける。
2016年にリリースした3rdアルバム『k is s』が「CDショップ大賞」北陸ブロック賞を受賞。
2019年、300万回の再生を超える2曲のシングルを含む最新アルバム『Ghost Notes』をリリース。

http://kansano.com/

インタビュー:濱安紹子
写真:則常智宏

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