KEN ISHII インタビュー 鳴り止まないビート

WRITER
Mika Anami

最初にケンイシイさんにお会いしたのは2015年。アメリカ・サンフランシスコにある歴史あるカストロシアターで、彼が世界的アニメーター森本晃司さんとのコラボ作品の「EXTRA」を披露した時だった。今回3年ぶりに渋谷にて再会したのだが、気さくで機転のきく印象はそのまま。彼の謙虚ともいえる性格は、日本のテクノ・ミュージックの先駆者として世界を駆け巡って培われたものなのだろう。様々な著名アーティスト達とコラボやライブを行い、そして近々ソロアルバムのリリースを予定しているという多忙なケンイシイさん。そんな彼に、今日のアーティスト「ケンイシイ」を作り上げた軌跡と、彼に影響を与えたアルバム3枚について尋ねてみた。

――お久しぶりです!2015年にSFでお会いして以来ですが、お忙しそうですね。 まずは、ケンさんが音楽制作の道に進まれたきっかけをお聞かせください。デリック・メイをはじめ、デトロイト・テクノの音楽シーンやYMOに大きな影響を受けられたそうですね?
KI) 両親は全く音楽を聴かないタイプの人間で、ボクが小学生になって音楽が聴きたいと言うまで、家にはステレオはおろかラジカセすらない状態でした。そんな中、当時日本で大ヒットしていたYMOの音楽が好きになり、普通のポップスやロックをすっ飛ばしてエレクトロニック・ミュージックにどっぷりハマったんです。それ以降クラフトワークや日本のテクノポップをはじめ、70年代後半〜80年代の音楽を後追いで聴きまくりました。十代も終わりの1990年前後になって初めて、同時代の音楽としてハウス・ミュージックが出て来てクラブシーンやDJカルチャーに興味が出てきました。その流れの中で新しいトレンドとしてヨーロッパで話題になっていたデトロイト・テクノを聴いた瞬間、「自分がやりたい音楽はこれだ!」と思い、機材を少しずつ集めながら音楽を作るようになったんです。


Photo by Kumi Yamauchi (Courtesy of J-POP SUMMIT)

――どんな機材を買いました?
KI) まずは、KORGのM-1っていうワークステーションを買いました。キーボードだけでなくリズムトラックも一緒に内蔵されていて、マルチティンバーのセットアップができるもので。テクノ音楽を作りたいといっても、周囲にやっている人などいなかったし、デトロイトの彼らは、RolandのTR-808とか909などで楽曲制作をしていたのですが、そういうのを使っている、ということさえわからなかったんです。当時俺が好きだったことや学びたいことは日本の雑誌では紹介されてなかったので、いつもイギリスなどのDJマガジンを買って読んでいました。高校生になったくらいから自分でも作りたいって思い始めて、楽器屋へ行って「曲作りたいんだけど」と言うと、「これ、今一番売れているシンセです。これ一台でリズム、キーボード、何でもできて凄いですよ!」って勧められてスタートしました。で、勉強してすごく使ってたんですけど、やっぱりそれ一台じゃ足りない音とかが出てきたので、少しづつ自分なりにあれこれ足して。。MIDI繋げたり、KORGからKAWAIのシークエンサー足したり。中古で買ったりもしました。

ずっと聞いてきた中では、デリック・メイの、ダンスビートでありながらエレクトロニックな響きがある彼特有のスタイルが気に入っていました。当時機材も限られているのに本当に豊かな音作りだな、と。YMOとかクラフトワークは大好きだし、 何百万円のシンセを使ってどうだ!って感じで憧れはありましたが、十代の小僧がとても真似できる音ではなかったんです。。デリックは本当にこんなシンプルな機材で格好いいことできるんだっていうところで好きになりました。 もし時代が少し前のパンク世代だったら、あー俺もやるぞ!ってその姿勢に共感する気持ちと似てると思います。自分の場合はエレクトリックなものをやりたくて、で、これだったら自分にもできるかもって思いましたね。

――1993年にベルギーのR&Sレコーズからデビューなさった際、「どこからともなく現れた」と好評だったわけですが、このリリースに至るまでのケンさんの主な活動をお聞かせください。
KI) その頃は普通の大学生で、プロとしては何も活動もしてませんでした。だから全くの無名です。学園祭でDJをしたり、小さなクラブで友達だけのパーティーで披露したり。あとは自宅で曲を作り続けていました。そうしている内にわりと良い曲ができるようになってきたなという実感があったので、当時一番好きだったテクノ・レーベル、ベルギーのR&Sレコーズにカセットテープに収録したデモを送ったんです。そうしたらすぐにレーベル側から反応があり、2-3回デモのやり取りをしたところで契約書が送られて来てデビューとなったんです。

――1996年以降、「Flare」という名前でも活動を始められましたが、プロジェクトを区別化する必要性は何だったのでしょうか?
KI) デビュー以降、幸運にも自分には思いも寄らないくらい速いスピードで物事が進んで知名度も上がったので、当時の KEN ISHII としての音楽スタイルにそぐわないものや、より実験的な音楽は、別の名前で出した方がリスナーが混乱しないだろうという判断があったからです。


Video: Awakening [70 Drums / Exceptional] (2002)

――「Flare」、「アーティストKEN ISHII」、「DJ KEN ISHII」」各々によって、制作やパフォーマンスに違いがあると思うのですが、どういった違いがありますか?
KI) アーティスト KEN ISHII では音楽プロデューサーとして自分のメインプロジェクトであるケンイシイを全うしつつ、DJの KEN ISHII ではパフォーマーとしてお客さんにエンターテイメントを提供、Flare ではいわゆるテクノのフォーマットにこだわらない実験的かつフリースタイルな曲作りをする、という感じです。

――近々「フレア」がアルバムをリリースする可能性はありますか?
KI) 今年久しぶりにKEN ISHII 名義でアルバムをリリースをしようと思っているので、ここ1-2年はないと思います。でも突如アイデアが湧いたのでリリース、という流れもあるかもしれません。

――世界のメジャーとして活躍される一方、アンダーグラウンドな部分も大切にされてて、コアなものと、斬新なものを上手に楽しまれている気がします。この業界に長く活躍するには、メジャーでコマーシャルな部分と、アーティストとしてのこだわりや方向性を守ることも大事だと思うのですが、どうやってバランスを取られていますか?
KI) どんなに面白いことをやっていても人に知ってもらわなければ成り立たないのがアーティストなので、多少はメディアに名前が載るようには努力をしています。ただ、コマーシャルな事とアンダーグラウンドな事を分けてやっているという意識もそれほどなくて、自分がやりたくて興味があることだけをずっとやって来ただけなんです。たまたま時代やシーンがそれを大きく受け入れてくれたり、必ずしもそうでなかったり、という波があるだけで。

――最近では、レーベル会社 TronicよりDrunken Kongとのコラボ作品をリリースされ、彼らと世界の舞台でパフォーマンスされたり、日本の老舗クラブ Maniac Love の25周年記念プロジェクトにも参加したりと忙しくされているケンさんですが、そんなご多忙な中、DJ活動や作曲活動やコラボ企画への参加など、そのインスピレーションはどこから得ているのですか?何か特別なコツでも?
KI) とてもシンプルなんですが、音楽を作っている時は未だに十代の頃の気持ちになれるというか。。面白い音、カッコいい曲ができると嬉しい、だからやる!みたいな。ただそれをしばらくやっているとツアーに出たくなって体がウズウズしてくる。お客さんの前でプレイする興奮を味わいたくなるんですね。逆も同じで、ツアーが続くと「そろそろスタジオでゆっくり曲作りたいなー」と思うようになってくる。この繰り返しでずっと来ています。あとは音楽そのものへの興味としては、やはりDJとしての常に新しい音楽をチェックするという習性がインスピレーションを絶やさないことに繋がっていると思います。よく「このアーティストはこんな面白いことをやっている、オレも頑張んなきゃ!」という気持ちになりますね。

「 最近ヴァイナル・オンリーのオールドスクール・テクノ・セットみたいなものをリクエストされることも増えてきたし、自分でも機会があればすり減ったレコードを持って行ってプレイしたりしています。」

――みなさん、どうやってケンイシイさんと「コラボ」なさっているんでしょう?
KI) 基本的には、実際に会って話しをしてケミストリーを感じたアーティストと、自然に「一緒に曲でも作ろうか?」となる感じが多いですね。やっぱりまず人間的な波長が合うというのが大事。もちろんそれ以前に、私が相手の音楽を好きであり認めている、というのが前提ですが。

――今までに一番印象的だったコラボって何ですか?
KI) 同じエレクトロニックジャンルのアーティストとコラボすると、結構予想つくというか分かりやすいんですけど、予想しないことが起きるのはやっぱり生楽器の人とか?そういう意味だと、ボーカリストが相手の時も、自分で慣れていない分野なので難しかったりします。

自分が一番「お!」ってなったのは、何年か前、ジャズ界で有名なサックスプレーヤー菊地成孔さんとセッションした時。やっぱりこれがプロだな、って思いました。こっちが思ってることを、これやりましょう、あれもやりましょうってポンポンとアイデアを出してきて、で、さっと帰って行かれました。自分はプレーヤーじゃないし、音楽好きが高じて何となくスタートして、こういう機械があるから音楽作れる、ってタイプの人間だけれど、いわゆるミュージシャンとしての本来の強さっていうのはこういう事なんだなっていうのを一番感じました。

――ケンさんにとってレコードとはどういうものですか?
KI) 音楽が載った黒くて薄い円盤状のもの。しかもちょうどいい大きさのジャケットが付いていてビジュアルの楽しさもあるもの。自分に音楽に興味をもたせてくれたきっかけ。

――ケンさんが購入した人生初のレコードをお聞かせください。どういう経緯で買われたのですか?
KI) '80年頃に出たYMOのベスト盤。小学生の時、友達のお兄ちゃんに初めて聴かせてもらって衝撃を受け、すぐに小遣いを握り締めて町のレコード屋さんに買いに行きました。

――仕事以外で、 ご自身のために最近購入されたレコードは?
KI) John Cage – Early Electronic And Tape Music [ Sub Rosa ]

――今現在、音楽制作の際、レコードを頻繁に使われますか?
KI) サンプリングではもう使わないですね。'90年代はよく使ってました。

――今のレコード復活ブームをどう思われますか?ご自分に何か影響がありますか?
KI) 特にDJとしての部分で言うと、世界的に数年前から若い世代のDJがレコードでプレイするのを良く見るようになったんですが、ソフトウェア中心でプレイするのと違って技術がいるので、お客さんから見ても本物感やクールさが増しますよね。現在自分の普段のDJではデジタル中心でレコードはアクセントとして使う程度なんですが、最近ヴァイナル・オンリーのオールドスクール・テクノ・セットみたいなものをリクエストされることも増えてきたし、自分でも機会があればすり減ったレコードを持って行ってプレイしたりしています。


Photo by Rob Walbers

――最近のレコード人気に伴い、デジタル版に加えLPで作品を発表するアーティストも増えているようですが、これについてケンさんはどう思われますか?現在のテクノ界では「アルバム」というフォーマットは有効的でしょうか?
KI) その音楽が好きだという場合、単に何回も聴ければいいだけでなく、ジャケットや盤が含まれたパッケージ=「モノ」として愛着も持つことができると思うんですよね。ボクも昔買った好きなレコードは何十年もとってあります。現在テクノを含むいわゆるDJミュージックでは、一曲単位で聴いたり買ったりしているリスナーやDJがほとんどですが、やはり発信する側のアーティストは必ずしも「現場で使える」曲ばかり作りたいわけでもなかったり、自分の中のいろいろな音楽性を感じて欲しいと思っていたりするので、「自分はこういうアーティストなんだ」という部分を表現するためには間違いなくアルバムは有効だと思います。それはテクノであっても同じことで。デジタル時代になってしまった以上、好きな曲だけ一曲単位で買うというスタイルは続くとは思いますが、アーティストの自我や向上心がある限り、商業的な効果とは別のものとしてアルバムは存在し続けるし、それがレコードでリリースされればファンの愛着をさらに勝ち取ることができるんじゃないかと思います。

後編 : 一番大切で思い入れのあるレコードを紹介して頂きました

ケンイシイ

ケンイシイ
アーティスト、DJ、プロデューサー、リミキサーとして幅広く活動し、1年の半分近い時間をヨーロッパ、アジア、北/南アメリカ、オセアニア等、海外でのDJで過ごす。‘93年、ベルギーのレーベル「R&S」からデビュー。イギリス音楽誌「NME」のテクノチャートでNo.1を獲得、’96年には「JellyTones」からのシングル「Extra」のビデオクリップ(映画「AKIRA」の作画監督/森本晃司監督作品)が、イギリスの “MTV DANCE VIDEO OF THE YEAR” を受賞。’98年、長野オリンピックのインターナショナル版テーマソングを作曲・プロデュースし、世界70カ国以上でオンエア。2000年アメリカのニュース週刊誌「Newsweek」で表紙を飾る。’04年、スペイン・イビサ島で開催のダンス・ミュージック界最高峰 “DJ AWARDS” で BEST TECHNO DJ を受賞し、名実共に世界一を獲得。’05年には「愛・地球博」で日本政府が主催する瀬戸日本館の音楽を担当。一昨年は NINTENDO SWITCH Presentation に出演。全世界配信され、数百万人の人達がDJセットを目の当たりにした。更にはベルギーで行われている世界最高峰のビッグフェスティバル「Tomorrowland」に出演も果たす。今年は13年振りとなるオリジナルアルバムをリリースするなど様々なプロジェクトを予定している。
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