吉岡正晴のヴァイナル・サーチン第一回 〜ウォント・リスト上位を彩る山下達郎作品

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吉岡正晴

「サンソン」。

 毎週日曜日午後2時。東京FM系列全国ネットで放送されている『山下達郎のサンデイ・ソングブック』。ファンはみなこの番組のことを親しみを込めて「サンソン」と呼ぶ。基本はオールディーズの音楽番組ということで、1950年代から最近は1990年代の邦楽洋楽の作品がかかる。

 僕もほぼ毎週聴いているが、この番組のすごいところは、ここでかかる音源、レコードやCDをすべて達郎さんが、自宅でリマスターしてからそのデータを局にもってきて、かけている、という点だ。それゆえに、レコードやCDを自宅のステレオなどで聞いているときよりも、はるかにいい音で聞くことができるのだ。自宅のステレオより、ラジオから流れてくる曲の音の方がいいというのは、世界広しといえども、この番組くらいのものだろう。

 自分が擦り切れるほど聞いたレコード、CD、なじんだ楽曲が、この『サンデイ・ソングブック』から流れてくると、全く違う音で聞こえてきてびっくりすることがある。

 もちろん、自宅のレコードやCD再生装置とラジオではそもそも音自体が違うのは当然なのだが、達郎さんリマスタリングの音はラジオから流れてきてもその違いがわかる。

 同じ楽曲でも、オリジナルのLP、シングル盤とCD化されたもので音が変わる。また同じCDでも、発売年月によってリマスタリングが施されたものとそうでないもので、また音が変わってくる。そういう元の音源が複数あるものに関しては、それらの中で一番音がいいものを選んでリマスターしている。

 つまり、それほど音・音質にこだわりをもっているということの表れなのだ。

 レコード・コレクター。

 そして、これも多くの方はご存じだろうが、達郎さんは日本有数のレコード、CDコレクターだ。自宅のレコード倉庫(部外者は誰も見たことがない)はきちんとアーティストのアルファベット順に整理され、コンピレーション・アルバムなどは、コンピューター(エクセルなど)で楽曲名・アーティスト名が管理されているという。

 ただツアーなどが続き、買ったレコードやCDがどんどんたまってしまうと、整理が追い付かないこともあるらしい。また、毎週のラジオ番組で少なくとも10曲程度は使うので、そうして使ったレコード、CDをすぐに必ず元のところに戻すということを強く自身に課していると番組の中などでも語っている。

 そうした細かいところへのこだわりは、もちろん自身の音楽作品へも微に入り細に入り反映している。あらゆるところで、こだわりがあるので、大げさにいえばできあがった作品は匠職人の国宝級のものとなる。

 一方で、1970年代から活躍している達郎さんのレコードは昨今の外国人の人たちから人気を集めている日本で言う「シティー・ポップ」の流れの中でも人気作品が多い。

 そして多くの人は、そのアナログ盤ヴァイナルを求めようとする。アナログ盤のいわゆる「ウォント・リスト」(欲しいものリスト)で、達郎さんの作品群は『スペイシー』(1977年)を筆頭に、『ライド・オン・タイム』(1980年)、『フォー・ユー』(1982年)、『イッツ・ア・ポッピン・タイム』(1978年)とベスト10に4枚も入っているのだ。

 この筆頭になっている『スペイシー』に収録されている「素敵な午後は」は、シカゴ・ソウルのシンガー、ジーン・チャンドラーのような作品を作ろうと書いた作品だという。そのアレンジは、シカゴ・ソウルの多くのアレンジをしているトム・トム・84が施すホーン、ストリングス・アレンジを彷彿とさせる。

 そして、もう一曲ここに収録されている「ダンサー」は、2013年5月、大阪のフェスティヴァル・ホールが再建されその杮落しに登場したときに歌われ強い印象を受けたので、そのときの感想を僕のブログから引用してみたい。(ちなみに同曲はその後、『山下達郎パフォーマンス2015~2016』(シーズン6)でも歌われている)

 サブ・カルチャー。

 達郎さんのMCは大意。
 「普段政治の話はしないが、自分たちのような仕事は世の中が平和で余裕がなければ成り立たない。そのためには平和で、ある程度余裕がある生活ができることを願っている。自分は政治的には安保闘争に挫折した世代。朝鮮籍の一年先輩がいたが1970年代初頭に北朝鮮に渡るというので上野駅に見送りに行った。それ以来40年以上彼がどうしているか、生きているかどうかもわからない。会いたいとは思っているが、その彼について書いた曲が『ダンサー(Dancer)』だ」と解説してからこれを歌った。

 そう言われてから歌詞に耳を傾けると、確かにそうしたメッセージが聞き取れるが、それまでは普通に踊れる感じの曲なのでそんな重い思い入れがある曲だとは夢にも思わなかった。新発見。
(2013年5月6日付け・ソウル・サーチン・ブログ)

 達郎さん本人は、しばしば、「自分の立ち位置はサブカル(サブ・カルチャー、カウンター・カルチャー。メインストリーム=主流に対する傍流。反主流の意味)だから」と言う。多くのラヴソングや、情景描写の作品と一味違うこの「サブカル」然としたこの「ダンサー」はそんな発言を裏付ける一曲でもある。

 昔サブカルと言われたものが、いまでは堂々たるメインストリームだ。時代の流れの中で変わらぬ確固たるものへの評価が変わる。

吉岡正晴
音楽ジャーナリスト/DJ。ソウル、ブラック、ダンス・ミュージックを得意とする。ソウル・ミュージックの情報サイト、『ソウル・サーチン』ウェブ https://ameblo.jp/soulsearchin/と同名イヴェントを運営。1975年以来、レコード、CDなどに添付されるライナーノーツは1,300枚以上執筆。その他、雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどの番組出演も。著作に『ソウル・サーチン』、翻訳書に『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』、『マーヴィン・ゲイ物語~引き裂かれたソウル』、『レイ・チャールズ物語』、『モータウンわが愛と夢』など。毎月第一木曜ミュージックバード制作全国のコミュニティーFM、インターネットなどで放送中の『ザ・ナイト』内「ナイト・サーチン」生放送中。毎月第3水曜日、新宿カブキラウンジで毎回おもしろい音楽業界のゲストを招いてソウル・バーでの雑談のようなものを聞かせるトーク&DJ「ソウル・サーチン・ラウンジ」主催中。詳細は、https://ameblo.jp/soulsearchin/
また日々の最新情報発信は、ツイッター、https://twitter.com/soulsearcher216

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