ニューヨーク・クラブ伝説 ~パラダイス・ガラージ体験記~

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鷲見和男

ガラージがオープンした1970年代後半は世界的にディスコブーム全盛期だったのですが、アメリカのディスコでゲイ・コミュニティが広がる事を快く思わない一部の白人社会はディスコ文化へのヘイト運動を起こしました。しかし、1980年代に入るとニューウェーブとディスコが融合したポスト・ディスコ(「ディスコ後」の意味)から様々なジャンルが派生します。アメリカのシカゴではフランキー・ナックルスらディスコDJ達が安価な日本製の打ち込み機材を使用して、新しいダンスミュージックであるハウスを発明します。シカゴで生まれたハウスですが、フランキーと旧知の仲であったラリー・レバンがNYのガラージでハウスを積極的にプレイした事が世界的なハウスブームのきっかけとなったのは間違いありません。

■Frankie Knuckles「Baby Wants To Ride」(1987/TRAX Records/TX150)

ガラージで実際に聴いたハウスの中で最も強烈に記憶している曲です。当時のハウスとしてはかなり早いBPM130というテンポですが、ガラージの常連達は軽やかなフットワークでダンスしていました。曲の終盤で男性ボーカルの喘ぎ声がフロアに充満するとゲイのダンサー達は恍惚の表情に・・・。

■Adonis「Do It Properly」(1987/London Records/LONX 136)

ガラージ・クラシックスにはリッチな予算でオーケストラをフィーチャーしたような曲も多かったので、ガラージでハウスがプレイされるとややチープな印象もあったと思われますが、それを吹き飛ばす勢いでDavid Morales、Todd Terry、Masters At WorkというNYの人気DJ達が遊び倒して作ったような痛快なハウス・ヒット曲メドレーです。

■Manuel Göttsching『E2-E4』(1984/Inteam GmbH/ID 20.004)

ドイツのプログレ・アーティストによるミニマル・テクノ不朽の名作なのですが、LP両面で1曲という構成で普通のディスコには全く無縁のレコードです。普段はオープン直後の早い時間帯にプレイされていたそうなのですが、この夜は普段ならピークに入る時間帯に突然このレコードがプレイされ、当然ながらフロアは一気に誰もいなくなってしまいます。しかし、薄暗いフロアに一人だけ黒人青年が白いバレリーナ風の衣装で舞っており、なんとも幻想的なシーンを目撃しました。この夜のラリーはダンスが出来ないヘビーな曲ばかりプレイしていたのですが、後の伝記本によるとオーナーからガラージの閉店がラリーに告げられた日であったそうです。

■MFSB「Love Is The Message」(198?/T.D. Records, Inc./T.D.-804)

最後は「ラリーのテーマ」と呼ばれ、恐らくガラージで最もプレイされたと思われるレコードです。オリジナルはフィラデルフィアのソウルグループMFSBの曲ですが、ラリーがプレイしていたのはNYのあるDJによってエディットされた2つのバージョンです。これらは非公式の12”しかなかったのですがNYや日本のレコード店でも割と普通に売っていました。大らかな時代でしたね。

鷲見和男

鷲見和男
1980年代から1990年代の輸入レコード・バイヤー経験を経て、2000年代は音楽配信サービスに従事。1987年に初めて渡ったニューヨークで本場のクラブシーンに衝撃を受ける。帰国後はフリーペーパーやクラブ音楽専門誌で多数のレビュー、インタビューを担当。渋谷、青山のクラブやDJバーで音楽パーティを開催し、DJも担当。得意なプレイ・スタイルは、1980年代のポスト・ディスコやニューウェーブと2010年代のニュー・ディスコやインディーズ・ダンスのミックス。

世界中のレコードを、その手の中に
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