亀渕友香 “Touch Me, Yuka” 元祖和製シティポップの魅力 〜 バックグラウンド・ザ・ヴァイナル 03

WRITER
SWING-O

“Touch Me, Yuka” by 亀渕友香 1974

亀渕友香の元祖和製シティポップ名盤

 SOUL PIANIST/SOUL PRODUCERであり、SOUL DJでもあるわたくしSWING-Oによる「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」第三回はこの元祖和製シティポップと言われるこの盤を紹介しましょう。

 こういう切り口はなんですが、ガタイのいい女性というのは、よくよく見ると音楽史の重要なところにいらっしゃったりするもんです。アメリカのゴスペル~ソウル系は言わずもがな、アフリカ音楽などでも多いわけですが、日本ではどうでしょうか?最近でこそガタイのいい女性タレントなどが沢山目に付くようになりましたが、そもそも表に立つ人としての受け皿は日本では最近まであまりなかったように思います(「今いくよくるよ」の「くるよ」くらい??笑)。そんな中、実は音楽界には一定の影響力を及ぼしてきた系譜があるんです。その最初の代表と言っていいでしょう、それが今回紹介する方、亀渕友香です(残念ながら昨年秋に亡くなられてます/敬称は略させていただきます)。

 彼女はウィキペディアなどによると、ニッポン放送名物DJ、亀渕昭信の実妹であり、ジャズシンガーの叔母などを持つ人で、1944年生まれ、小学校の時にマヘリアジャクソン出演映画「真夏の夜のジャズ」(1960年)を見て彼女の歌声に衝撃を受け、涙を流す、とあります。計算すると「小学校の時に見た」というのは少し合いませんが(出生があってれば16歳ですから)、ま、そこはいいとしましょう。何せ若い頃に衝撃を受けたのがゴスペルだったということです。

 彼女の最初のキャリアは1968年、R&Bグループ「リッキー&960ポンド」です。のちにペドロ&カプリシャスに加入する前野曜子(この時は西丘有里と名乗ってました)と共に参加していて、960ポンドとはまさにメンバーの体重の合計だったようで、「大きいことはいいことだ、中身が充実してて濃くて重いってことだから」なんて書かれてたりもしました。この時から前野曜子のいかにも歌謡なコブシの効いた歌い方とは違って、亀渕友香はまっすぐなある種ポップな歌い方をしていました。当時ヒットした「ワッハッハ」なんかはポップソウル歌謡ないい曲です。……てとこでYouTubeのリンクを貼ろうと思ったら……ここら辺の音楽は削除されてるのかYouTubeには見当たらないですね、iTunesにもありません……。この「ネット上に情報があまり転がってない」点がレコードディガーにとっての和物の魅力かもしれないですが。

 ちなみにリッキー&960ポンドをやめてペドロ&カプリシャスにしばし加入していた前野曜子は、1976年に再びリッキー&960ポンドに復帰して、和製ディスコ名演「Lipstick」などを残してたりします。

亀渕友香のソロアルバムに参加する日本音楽シーンの大物達

 さて1973年頃まででリッキー&960ポンドの活動が一段落した亀渕友香は、どういう経緯かはわかりませんがポリドールからこのソロアルバムを発売します。きっと彼女の声のファンがいたんでしょうね。制作も1973年制作とは思えない、つまりのちの日本の音楽シーンを彩る人たちが大挙参加しているんです。

矢野誠(のちに矢野顕子と結婚~離婚する、その矢野です)
編曲 A-4, 5 B-1, 5, 6:このアルバムのキーマンですね

松本隆(はっぴいえんど解散直後)
A5 作詞

シュガーベイブ山下達郎&大貫妙子(結成直後、リリース前)
A-4, B-1コーラス参加

井上陽水 A-6作曲
(この頃すでに「氷の世界」でブレイクしていましたが)

他、作家として来生たかお&えつこ姉弟とか林哲司とかも参加してます
いずれもまだ無名な頃なはずです

中でも曲としては
A-1 割にいい日だったわ
A-4 ひとりぼっちのトランプ
A-5 砂糖菓子の街
B-1 眠れないわ
B-6 Willy Don’t You Cry
などはすでに洗練された、歌謡性を脱した都会的なポップスとなっていて、まさにシティポップの萌芽が聞ける作品に仕上がってます。Bobby Caldwellよりも先に、ブレイクはるか前のBoz Scaggsと共鳴したかのようなアダルトオリエンテッドな仕上がりの曲が多数なんです。

一曲だけYouTubeで見つけたのでリンクを貼っておきます

亀渕友香「ひとりぼっちのトランプ」

(当時まだ)無名だけど野心はたっぷり持っている人が集まると、こういうことが起きるんでしょうね。時代を先取りしすぎてしまって、結果全くもって売れなかったようですが、作品としてこうして残っていることにもう少し注目してもいい気はしますけどね。こんな面白い内容なのにも関わらず、未だにちゃんと評価されていない(シュガーベイブなどと比べると特に)理由は、う~~ん、申し訳ないけどこのアートワークのせいですかね……。

亀渕友香は半端ないよ!

 そんな彼女はしばし音楽キャリアを休み、アメリカで結婚生活を送ったのちに日本に復帰します。実はそこからの方がミュージシャン界隈では有名です。あらゆる現場で売れっ子コーラスになったこと、ゴスペルクワイヤーを持っていること、優れたボーカルトレーナーであること、などとして本当に数多くの日本のシンガーを育て、関わって来られました。和田アキ子から久保田利伸からMISIAまで。そんなコーラスでサポートしている映像や、晩年のゴスペル映像&作品などはYouTubeやiTunesなどでも数多く出てきます。俺も金子マリさんと何度か関わらせてもらった時に何度か彼女の名前は聞きました。「亀渕友香は半端ないよ!」となんどもマリさんが言っていたのを思い出しますね。

 そんな亀渕友香から始まる「ガタイのいい女性ボーカル」系譜は現在に至るまで続いてますね。通称「恐山」と呼ばれたHome Grownと共に活動していた「ガタイのいいコーラス隊」などは90~00年代に大活躍してましたし、ロッテンハッツ~ヒックスヴィルの真城めぐみは、現在進行形で素晴らしいキャリアを積み重ね続けてます。ガタイはいいかもしれないが腕とセンスがある人は、表の芸能史にはあまり残ってないかもしれませんが、しっかりと日本音楽史に爪痕を残している、そんな角度からのバックグラウンド・ザ・ヴァイナルでした。

P.S.:このアルバムはiTunesでは買える&試聴できるようですが、どういう訳か一曲目「割といい日だったわ」がありませんし、各曲のアーティスト名が作家名になっちゃってたり、ひどいアップロードのされ方ですね……。CDも10年前に発売されたきり、未だ再発の様子もありませんね。勿体無い限りです。気になる方はレコードで頑張って探してみてくださいませ。

SWING-O

SWING-O
SOUL PIANIST / SOUL PRODUCER / SOUL DJ。1969年加古川生まれ。黒い現場にこの男あり。SOUL、HIP HOP、CLUB JAZZ、BLUESを縦横無尽に横断するそのスタイルで、日本に確かな痕跡を残し続けるピアニスト、プロデューサー。これまでに関わったアルバムは150枚以上。今年30周年を迎えるファンクバンドFLYING KIDSのメンバーになったことも発表されたばかり。例えば2016~18年に絡んでいるアーティストは堂本剛、Rhymester、AKLO、Doberman Infinity、Crystal Kay、加藤ミリヤ、元ちとせ、近藤房之助などなど。積極的にイベントも開催、恵比寿BATICAにて今年で10年目になるMY FAVORITE SOULを開催中と多方面でSOULな音楽発信を続けている。
http://swing-o.info/

世界中のレコードを、その手の中に
  • Google Playでアプリをダウンロード
  • App Storeからアプリをダウンロード

関連記事


新着記事

すべての記事をdig!