バックグラウンド・ザ・ヴァイナル 02

WRITER
SWING-O

“Who Is This Bitch, Anyway?” by Marlena Shaw 1975

SOUL PIANIST/SOUL PRODUCERであり、SOUL DJでもあるわたくしSWING-Oによる「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」第二回はこの名盤紹介と参りましょう。

軽く「名盤」と言っちゃいましたが、これまた何というか、今や微妙な表現ですよね。例えば今音楽に興味のある中高生に「まずこの名盤を聴け」と言う際に「名盤」とされるものは一体世の中にいかほどあるんでしょうか?The Beatles? Marvin Gaye? Miles Davis? A Tribe Called Quest? Milton Nascimento? Led Zeppelin? Nirvana? はっぴいえんど???とにかくキリがなくなってしまった現状を鑑みるに、俺が昨今思っているのは「名盤」というワード自体が、ある程度の歳をめされた人たちのためだけの言葉になりつつあるのではないか?ということです。そもそも1曲単位でしか聴かなくなりつつある時代ですからね。アルバムを通して聴くなんて時間をお持ちでない中高生がほとんどな現状でしょうからね。そもそも「名盤」というワードを彼らは必要としていないでしょう。

とは言え、「名盤」という類の表現はこれからもアルバムという表現方法が残っていく限りにおいて、そしてレコードが生き延びていく限りにおいては存命していくことは間違いないと俺は思ってます。その表現方法の魅力をキャッチできた人たちの間でのみ共有される概念として生き延びていく言葉「名盤」。このコラムにたどり着いているあなたはその、共有できる村人の一員ですよね?笑

さて各所で名盤中の名盤と言われることの多いこのアルバム。括りで言うならばジャズシンガーの括りになるMarlena Shawの、名門ジャズレーベルBlue Noteからの3作目(ライブ盤を入れると4作目)、若干ピンボケさせたような、アフリカの女王のようなモノクロのジャケット。40代以上のSOUL~JAZZ好きならば必ず目に耳にしたことのある作品でしょう。これが日本で特に名盤とされている証拠が、2009年から2016年にかけてこのアルバム再演来日ツアーを毎年のようにやっていて毎回満員になっていたという事実でしょう。自分も行きました。昨今のアルバム丸ごと再演ツアーブームの先駆けの一つですね。

このアルバム内容がいかに名盤か?というのは検索すればいろんな方がいろんなBLOGなどでも紹介されてますので、ここでは何と省いちゃいます(笑)。というのも、このアルバムはこれから先、名盤という評価で無くなってしまうタイプの名盤なのでは?」と思っているからなのです。

例えば象徴的な楽曲がA-4”Feel Like Making Love”ですね。これは俺の世代(現在48です)のミュージシャンは必ず通ったバージョンでして、中にはこのMarlena Shawのバージョンをオリジナルと勘違いしている人もいるくらいです。何せベースのChuck RaineyやギターのDavid T.Walkerなどの演奏が「超名演・名グルーヴ」とされてますからね。後半にかけて転調して、テンポも上がって、グルーヴもはねてくるところなんて確かに気持ちいいです。

“Feel Like Making Love” Marlena Shaw

ただその、ミュージシャンの中での評価はD’angelo”Voo Doo”(2000年)の登場とともに一変します。それまではセッションで”Feel Like Making Love”をやる時は必ずMarlena Shawバージョンをベーシックにやっていたのが、このアルバムに収録されたD’angeloバージョンに取って代わり、かつ未だに継続しています。

“Feel Like Making Love” D’angelo

このD’angeloバージョンは、上記Marlena Shawバージョンと聴き比べるとお分かりのように、演奏的には特に大したことはしてません。むしろ「音質」そして「グルーヴ」に重きを置いたアレンジのあり方です。そう、現代は、少なくとも2018年現在は音程的な演奏表現よりも「音質表現」「グルーヴ表現」の時代です。音程的に複雑なものは今メインストリームにはあまりありません。菊地成孔さんが「文明の幼児化」と著書『アフロディズニー』などで表現されてましたが、俺もそう思います。そんな「シンプル」「子供でもわかる」ものがメインストリームの軸となっているのが現代です。

そんな「文明の幼児化」が進んだ現代に、このアルバムの魅力を伝えることを考えるとすごく難しさを感じるんですよね。例えばこのアルバムで俺が好きなのは
*冒頭の3分もある長〜い寸劇からの、街を歩き出すところからの”Street Walking Woman”の格好よさ。そしてこの曲のグルーヴチェンジの格好よさ
*A-2 “You Taught Me How To Speak In Love”はサザンオールスターズ「いとしのエリー」の元ネタとされている
*クラシカルなインタルードからの、湖のほとりで聞いているかのようなエンディング曲”Rose Marie”

とかですかね。曲としてはB-3”Loving You Was Like A Party”も好きですけどね。この曲を同じく好きなアパレル友人がTシャツにしてたのを買っちゃいましたし(笑)

そしてこのアルバムの伝えにくさは、ラウンジ以外でDJでかけれる曲がないってこともありますね。むしろ他のアルバムの方がDJユース向きな曲ありますから。”Woman Of The Ghetto”(1969)とかね。

そんな「伝えにくさ」満載の「名盤とされるアルバム」”Who Is This Bitch, Anyway?” リアルタイムでもあまり売れなかったようで、この次のアルバムから彼女も他のアーティスト同様、ディスコ化に突き進みます。そんな狭間だからこそ、ミュージシャンものびのびとジャムってる感じが収められているし、いろんなコンセプト実験も入れてみることが可能だったんでしょうね。「そこが魅力的」と思える人は数十年後にどれくらいいるんだろう?そんなことを想像しながら聴くのも一つの「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」と言えるのではないでしょうか。

SWING-O

SWING-O
SOUL PIANIST / SOUL PRODUCER / SOUL DJ。1969年加古川生まれ。黒い現場にこの男あり。SOUL、HIP HOP、CLUB JAZZ、BLUESを縦横無尽に横断するそのスタイルで、日本に確かな痕跡を残し続けるピアニスト、プロデューサー。これまでに関わったアルバムは150枚以上。今年30周年を迎えるファンクバンドFLYING KIDSのメンバーになったことも発表されたばかり。例えば2016~18年に絡んでいるアーティストは堂本剛、Rhymester、AKLO、Doberman Infinity、Crystal Kay、加藤ミリヤ、元ちとせ、近藤房之助などなど。積極的にイベントも開催、恵比寿BATICAにて今年で10年目になるMY FAVORITE SOULを開催中と多方面でSOULな音楽発信を続けている。 http://swing-o.info/

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