軽く「名盤」と言っちゃいましたが、これまた何というか、今や微妙な表現ですよね。例えば今音楽に興味のある中高生に「まずこの名盤を聴け」と言う際に「名盤」とされるものは一体世の中にいかほどあるんでしょうか?The Beatles? Marvin Gaye? Miles Davis? A Tribe Called Quest? Milton Nascimento? Led Zeppelin? Nirvana? はっぴいえんど???とにかくキリがなくなってしまった現状を鑑みるに、俺が昨今思っているのは「名盤」というワード自体が、ある程度の歳をめされた人たちのためだけの言葉になりつつあるのではないか?ということです。そもそも1曲単位でしか聴かなくなりつつある時代ですからね。アルバムを通して聴くなんて時間をお持ちでない中高生がほとんどな現状でしょうからね。そもそも「名盤」というワードを彼らは必要としていないでしょう。
例えば象徴的な楽曲がA-4 “Feel Like Making Love”ですね。これは俺の世代(現在48です)のミュージシャンは必ず通ったバージョンでして、中にはこのMarlena Shawのバージョンをオリジナルと勘違いしている人もいるくらいです。何せベースのChuck RaineyやギターのDavid T.Walkerなどの演奏が「超名演・名グルーヴ」とされてますからね。後半にかけて転調して、テンポも上がって、グルーヴもはねてくるところなんて確かに気持ちいいです。
“Feel Like Making Love” Marlena Shaw
ただその、ミュージシャンの中での評価はD’angelo”Voo Doo”(2000年)の登場とともに一変します。それまではセッションで”Feel Like Making Love”をやる時は必ずMarlena Shawバージョンをベーシックにやっていたのが、このアルバムに収録されたD’angeloバージョンに取って代わり、かつ未だに継続しています。
そんな「文明の幼児化」が進んだ現代に、このアルバムの魅力を伝えることを考えるとすごく難しさを感じるんですよね。例えばこのアルバムで俺が好きなのは
*冒頭の3分もある長〜い寸劇からの、街を歩き出すところからの”Street Walking Woman”の格好よさ。そしてこの曲のグルーヴチェンジの格好よさ
*A-2 “You Taught Me How To Speak In Love”はサザンオールスターズ「いとしのエリー」の元ネタとされている
*クラシカルなインタルードからの、湖のほとりで聞いているかのようなエンディング曲”Rose Marie”
とかですかね。曲としてはB-3”Loving You Was Like A Party”も好きですけどね。この曲を同じく好きなアパレル友人がTシャツにしてたのを買っちゃいましたし(笑)
そしてこのアルバムの伝えにくさは、ラウンジ以外でDJでかけれる曲がないってこともありますね。むしろ他のアルバムの方がDJユース向きな曲ありますから。”Woman Of The Ghetto”(1969)とかね。
そんな「伝えにくさ」満載の「名盤とされるアルバム」”Who Is This Bitch, Anyway?” リアルタイムでもあまり売れなかったようで、この次のアルバムから彼女も他のアーティスト同様、ディスコ化に突き進みます。そんな狭間だからこそ、ミュージシャンものびのびとジャムってる感じが収められているし、いろんなコンセプト実験も入れてみることが可能だったんでしょうね。「そこが魅力的」と思える人は数十年後にどれくらいいるんだろう?そんなことを想像しながら聴くのも一つの「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」と言えるのではないでしょうか。