妄想企画 ジャズレコードに潜む愛すべきスタンプたち (第5回)

WRITER
大塚広子

普通なら素通りしてしまうようなイラストやロゴ。大真面目に聴くようなジャズ盤に限って、そんな部分にニヤッとすること、実は結構あります。知っている人しか分からない、こんなニッチなスタンプあったらいいな。という、妄想企画。内容も存在感も太鼓判な、愛すべきレコードをご紹介していきます。

前回は、ヘタウマの手描きジャケ、しかもジャズミュージシャンの直筆なんかも登場しましたが…、今回はスタンプとしてインパクトのあるものや、個人的に推したい魅力のイラストを探してみました。

Tohru Aizawa Quartet / Tachibana 

このアルバムのアートワークは前橋市のジャズ喫茶「木馬」のオーナー、根岸さんによってデザインされたもの。ザ・家紋!インパクトがすごいですね。この作品は、5〜10年くらい前にはすでに和ジャズの珍盤として噂されてきた作品です。その波も落ち着いたかなと思っていたら、今年3月にイギリスのBBEから 「Deep Modern Jazz From Japan 1969-1984」と銘打ったコンピレーションが発売、そこにこの作品が収録されています。しかも、海外のサイトでボリュームたっぷりの記事が掲載されていてビックリでした。

それはこんな内容です。
“ 橘郁二郎という裕福な日本のビジネスマンが、奇妙なアイデアを持っていました。彼はジャズレコードを作って、これをbusiness card=名刺として使用したかったのです”

群馬県沼田出身の橘氏は、赤谷湖ドライブインのオーナーでジャズの大ファン。地元のジャズクラブやバーに頻繁に出入りして、地元で育った才能を常にキャッチしていたようです。そして東京や近隣のジャズスポットにも足を運んで、チャールズ・トリバーや、マル・ウォルドロンの来日ライブも同じような感覚でチェックしていたそうですね。

前橋の医科学校で行われた音楽祭で、当時東京から医学を学ぶために移ってきた相澤徹のピアノに魅了されたサックス奏者&ドラマーの森山兄弟は、彼を誘い大学生バンド、相澤徹カルテットを結成。地元の「木馬」を中心にレギュラーライブを行うなかで橘氏の目に止まり、1975年3月、本作のレコーディングが行われました。でも名刺としてレコードはうまく機能せず、生産された150〜200枚のうち、ほとんどが捨てられたようなのです。

しかし、そんな作品が、時が経って世界中に広まっていると思うと、なんともロマンチックですね。ひとりのビジネスマンの熱量だけでレコードにした小さな地方都市の大学生の曲、だったのですから。

橘の花 に続き、こちらは洋風の花のデザインが素敵なこちら。
Tシャツにできそうなおしゃれなスタンプです。

Les Walker / Thoughts (Music For Acoustic Piano)

1977年作のソロピアノで、哀愁感も力強さも感じさせる内容です。このジャケットは、ツタンカーメン・グラフィックスという、なんだかイケてる感じのグラフィック集団が手がけているのですが、このレーベル、どれもジャケットが怪しくて魅力的。もちろん内容もインディペンデントな雰囲気があってかっこいいジャズです。このレーベルは、ドラマー、スティーブ・リードが、立ち上げたMustevic Sound。1980年まで4枚の作品がリリースされています。
スティーブ・リードといえば、晩年エレクトロ・シーンのフォーテットとの共演も精力的でしたが、病に苦しみながら2010年この世を去りました。そんな現状から、ジャイルス・ピーターソンが発起人となり、同じように病気で苦しむミュージシャンをサポートする目的で「スティーヴ・リード基金」がつくられました。現在のイギリスのシーンは、こういったサポートでどんどん活性化していて、若い才能あるミュージシャンもたくさん生まれています。

インパクトある表ジャケットのスタンプが続いたところで、
謎のイラストを紹介しましょう・・。






Charles Cha Cha Shaw / Kingdom Come

裏面にひっそりと描かれたイラスト。マイナー系のジャズ盤の裏面には、かなり謎めいたスタンプがあることが多く、探してみると結構面白い…。

このレーベルも、すでにレアグルーヴ・コレクターにはおなじみですね。
スミソニアン学術協会とアメリカ国営スミソニアン博物館の傘下に置かれた非営利レコード・レーベルとして知られるフォークウェイズからのリリースです。

本作は、2010年に、KINDRED SPIRITSよりリイシューされるほど人気!内容は、ワウの効いたトランペットが印象的なトリッピーな雰囲気を醸し出すジャズファンクです。でもディレイなどの様々な音処理をがんばっているのに、レコーディングの質は荒削りでスモーキー…というインディ感がなんだかグっときます。

1976年には、同じくフォークウェイズからファーストアルバムもリリースされていて、2004年にレーベル公認でリイシューされたお墨付き作品。こちらはもっとスピリチュアル度が高くコルトレーン的世界観が炸裂しています。

音の「資料化、保存、そして普及」を通して文化的多様性を伝えるレーベルによって、ミュージシャンの世界観が裏面にも生き生きと描かれていますね。

あなたの棚にも、ジャケットの裏面に怪しげなスタンプが潜んでいるかも!?
ぜひ探してみてください。

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)
ジャズをメインにDJ歴約20年。アナログレコードにこだわったレアグルーヴ、和ジャズの音源発掘から、現代ジャズまで繋ぎ、ワン&オンリーな“JAZZのGROOVE”を起こすDJ。徹底したレコードの音源追求と、繊細かつ大胆なプレイで全国的な現場の支持を得て、ニューヨーク、スペインの招聘、東京JAZZ、2度のFUJI ROCK FESTIVAL、Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN等出演。クラブシーンのみならず老舗ジャズ喫茶やライヴハウスで、評論家やミュージシャンとのコラボレーションを積極的に行い、柔軟なセンスで音楽の楽しみ方を提示している。DJ活動の他、メディアでの執筆、選曲監修、伊勢丹新宿店など企業音楽プロデュースや、新世代ミュージシャンを取り上げた自身のレーベルKey of LIfe+を主宰。プロデュース・ユニット(RM jazz legacy)のディレクション、リリース活動なども行う。
HP: http://djotsuka.com

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