妄想企画 ジャズレコードに潜む愛すべきスタンプたち (第4回)

WRITER
大塚広子

普通なら素通りしてしまうようなイラストやロゴ。大真面目に聴くようなジャズ盤に限って、そんな部分にニヤッとすること、実は結構あります。知っている人しか分からない、こんなニッチなスタンプあったらいいな。という、妄想企画。内容も存在感も太鼓判な、愛すべきレコードをご紹介していきます。

前回の第3回目は、子供が描いた絵や、謎のヘタウマ感でジャケットの怪しい魅力を引き出したイラストを紹介しましたが、この手の手描きジャケ、探すとどんどん出てきますね…。記事を書き終えてから、あ!これも。

Jack DeJohnette / Time & Space

前回もジャズ・サックス奏者、クリフォード・ジョーダンの娘がイラストで登場したし、きっとこれも、子供の絵じゃない?と裏ジャケを見ると…。

「Cover art & design : Jack DeJohnette 」

まさかのご本人!ジャズドラマーのジャック・デジョネットの1973年作です。
彼は、今も中堅メンバーたちと現代ジャズ・シーンをリードする存在で現役感抜群。ECMレーベルなどからのリリースも盛んです。

解説をたどると、「カヴァーの稚拙な絵は、ジャックの3歳になる娘が描いたのではなく、その父親が描いたものです。庭に池がある彼のスイート・ホームを描いたとのこと」と、しっかり解説されていました(笑)。

この作品は、ジャックとベーシストのデイヴ・ホランド2人による多重録音セッション。スタン・ゲッツ・カルテットの一員として、1973年に来日した彼らが、そのスケジュールの合間をぬって、真夜中にレコーディングしたという内容です。ジャックは、レコーディング場所のイイノホールに、コンガ、ドラムセット、エレクトリック・ピアノ、ヤマハ・コンボ・オルガン、マリンバなどをずらっと並べて、デイヴのノリに乗ったベースに合わせてどんどん音を重ねていった模様。マラカスやクラベスを交えたラテン・テイストの楽曲も目立ちます。当時、スタン・ゲッツのバンドでも彼らは頻繁にカリプソを演奏し、ゲッツの新しい魅力作りに一役買っていたようですね。

しかし、このイラスト、見れば見るほど気になるポイントがたくさん。

右上のメトロノームらしきアイテム…左上の時計の謎の文字盤…宇宙船…。

ミュージシャンの頭の中を具現化した摩訶不思議なアイコンたちは、ぜひスタンプにしたいところ。ジャックは、この作品をリリースするにあたって「僕の音楽には説明なんかいらないよ。ジャケットのイラストも自分で描くつもりさ!」と語っていたようです。

もしかすると、同じような志向を持つジャズミュージシャンは珍しくないのでは…と思い、今回は、ミュージシャン本人が手がけたジャケットを探してみることにしました。

Togashi Masahiko Quartet / We Now Create

2007年に惜しまれながら世を去ったジャズパーカッショニスト、富樫雅彦は、自身の絵画を作品に投影しています。1969年の初期代表作が、この作品。音楽もジャケットも、アブストラクトな表現に長けていますね。

彼はその後、下半身付随になりますが、独自のドラムセットを使用して不屈の精神で復活を果たします。そして生涯、自身の絵画や写真を作品に提供し続けています。年月とともに、絵画のモチーフは次第に人物や風景といった具象的な内容になり、筆のタッチも変わっていきます。そして、ジャズの活動を休止した晩年の5年間は、作曲と絵画制作に専念していました。

ちなみにこちらは、富樫氏作の1995年のCDジャケット。

こちらはスタンプよりも、フィギュア化が良さそうでしょうか…。深いです。

この流れで、日本のジャズミュージシャンの作品を、もう一つ。

清水靖晃 / 案山子 Yasuaki Shimizu / Kakashi

去年、ついに数量限定でアナログ再発されてしまいました。和製ニューウェイヴの名作!猫ちゃんジャケですね。(わたしの娘も大好き!)

サックス奏者/プロデューサーの清水靖晃が1982年に発表したソロ名義での6作目。当時は、ブライアン・イーノや、フィリップ・グラスと並んで紹介された産物のようですが、トロピカルでダビー、エクスペリメンタルでミニマル…そして、日本の土着的要素も組み込まれたオリジナルな内容が、レフト・フィールドなクラブ・シーンでも話題になっていました。

清水氏の筆によるイラストと、歌詞カードの“ザ・和風”な縦書きデザインといい、存在感抜群の一枚です。

現在も多方面でずば抜けた才能とキャリアを発揮する清水氏ですが、ご本人作のアートが見られるレコードはこの盤だけのようです。もっと見てみたい気がしますね。



最後に…こんないわくつきのレコードもありました。

1972年録音の ファンク&ソウル/レアグルーヴ・クラシックス!
Sir Joe Quarterman & Free Soul

稚拙ジャケといったら、まずこの絵を思い出す人も多いかもしれません。このイラストも、サー・ジョー・クォーターマンさんご本人が描いたもの。

この逸話は、2014年に彼の初来日公演を実現させた、オーサカ=モノレールの中田亮氏が、自身のブログで紹介しています。
http://osakamonaurail.com/nakata/2014/11/post-105.html

「こういうジャケットにして欲しい、とレコード会社にアイデアを伝えるために描いてみせたら、なんとそのまま使われてしまったというエピソード。(I Got) So Much Trouble In My Mindの歌詞どおりに、サー・ジョーたちの頭の中にいろんな「トラブル」がある、というイラストです。(中略)レコード会社であるGSFも宣伝費をかけてプロモーションする気はなかったのです。なにせジャケットデザインを、本人の落書きで済ましてしまう(本人の承諾もなく)くらいですからねえ」

サー・ジョーさんは、作曲編曲とヴォーカルだけでなく、トランペットも担当していますね。ワシントンDCの地元ジャズグループで腕を上げ、その経験からオリジナルなファンク・ミュージックを目指し、このグループを結成したようです。

自ら進んで絵筆をとるアーティストもいれば、こんななオチがついたジャケットもある…。
あなたの棚にも、様々な思いが込められたジャケットが眠っているはず!?
ぜひ探してみてください。

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)
ジャズをメインにDJ歴約20年。アナログレコードにこだわったレアグルーヴ、和ジャズの音源発掘から、現代ジャズまで繋ぎ、ワン&オンリーな“JAZZのGROOVE”を起こすDJ。徹底したレコードの音源追求と、繊細かつ大胆なプレイで全国的な現場の支持を得て、ニューヨーク、スペインの招聘、東京JAZZ、2度のFUJI ROCK FESTIVAL、Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN等出演。クラブシーンのみならず老舗ジャズ喫茶やライヴハウスで、評論家やミュージシャンとのコラボレーションを積極的に行い、柔軟なセンスで音楽の楽しみ方を提示している。DJ活動の他、メディアでの執筆、選曲監修、伊勢丹新宿店など企業音楽プロデュースや、新世代ミュージシャンを取り上げた自身のレーベルKey of LIfe+を主宰。プロデュース・ユニット(RM jazz legacy)のディレクション、リリース活動なども行う。
HP: http://djotsuka.com

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