妄想企画 ジャズレコードに潜む愛すべきスタンプたち (第2回)

WRITER
大塚広子

普通なら素通りしてしまうような小さなイラストやロゴ。大真面目に聴くようなジャズ盤に限って、そんな部分にニヤッとすること、実は結構あります。知っている人だけしか分からない、こんなニッチなスタンプあったらいいな。という、勝手に妄想スタンプ。作品内容も太鼓判の愛すべきレコードを、前回に引き続きご紹介していきます。

前回は、ネコ、クマなどの、いわゆる人気スタンプの鉄板=カワイイ動物モノも紹介しましたが、もう少しマジ路線のスタンプも発見しました。

虎です!

レーベル名は「KIVA」。なんとも直球でワイルド…。このレーベルは、ELEC Recordsのサブレーベル。活動していたのは、1973年くらいから約2、3年間で、ジャズやスポークン・ワード(というとカッコイイですが、いわゆる「演説」)など、本流に逸れてしまったジャンルを扱っていたようです。アビー・リンカーンの日本でのライヴ・レコーディングを皮切りにスタートしていて、和モノ系レコードとしても取り上げられている、野坂昭如 『不浄理の唄』のLPもここからリリースされていますね。

杉本喜代志クインテット / ライブ 六本木MINGOS MUSICO

これは、ジャズギタリスト、杉本喜代志の初のライヴ作品(‘73)です。ファーストアルバム『Country Dream』、セカンドアルバム『Babylonia Wind』は和ジャズの世界では名盤で、私もこの2作に惚れ込み、彼の世界をもっと知りたくてこの作品に行き着きました。スタンダードもオリジナルナンバーもバラエティ豊かに演奏されていて、氏のブログでも書かれているように、最も敬愛するグラント・グリーンのナンバー「Green Street」の熱演が楽しめます。過去作でも、ウェス・モンゴメリーを窺わせるフレージングもあり、彼は当時の日本において、こういった黒人ギタリストのニュアンスを表現できる数少ない存在だったのではないか思います。というのも、70年代初期に彼が参加した作品には、石川晶のグループなど、アフロアメリカン的要素を組み込んだ作品も多く、彼のギターによって完成度が格段に上がっているように感じます。ジャズファンクのグルーヴあり、フリーフォームな前衛的作品もあり…、例えばこちらの作品群も、杉本氏が参加した作品です。

TerumasaHino Meets Reggie Workman / A Part



Terumasa Hino Quintet / Love Nature

1970年、設立されたばかりのキャニオン・レコード(現ポニーキャニオン)は、1年の間に一気に4枚、日野皓正のリーダー作品をリリースしていますが、これらはあっという間に市場から消えてしまいました。すでに時の有名人となっていた日野氏が、レコード会社の様々なオーダーから逃れるように自らの音楽を追求した作品で、どれも存在感が圧倒的にインディペンデント。プロデユーサー=日野皓正であるこの4枚は、Love Records というサブレーベルからリリースされました。ジャケットの隅にあるこのマーク、とても素敵!

レジー・ワークマンを迎え、日野元彦、市川秀男、植松孝夫、今村裕司、杉本喜代志といった日本トップメンバーが顔を揃える『A part』、そして、ゲイリー・バーツや初期ウェザー・リポートのドラマー、エリック・クラバットなど、海外勢を集めた『Love Nature』2つセットで聴くのがおすすめです。

レーベルの手押しスタンプの感じも、とってもクール!マーケットには属さない、演奏者の音楽愛がにじみ出るレコードは、レコードの質感含めて格別です。

LOVEスタンプの次は、こちらもどうでしょう!?

ジャズ好きな方なら、アケタのこのマークの存在を知らない人はいないでしょう! 前回も紹介した『Animal’s Garden』で解説している“天才アケタ”こと、明田川荘之のレーベルで、彼はピアニストであり、音楽家である父親から引き継いだオカリナ会社の社長でもあります。1974年に開店したライヴハウス“アケタの店”も毎日営業中で、存在感は今も昔も変わらず。私も昔からアケタのLPをいろいろ買ってみましたが、紆余曲折を経て、最終的に手元に残っているレコードがこれです。

河野康弘トリオ+1 / Peace

ジャケット写真の美しさと、この手書き帯ライナーの質感の対比が素晴らしいですね。明田川氏の個性的な文体は、ジャズの小難しさとは裏腹に、多くの人をクスっとさせる笑いがあり、それがちょっぴり皮肉っぽくも感じられて魅力的です。そして、書き手の思いが伝わる温かな筆感は、生演奏というジャズの魅力をいっそう引き立ててくれるもの。

1983年のファーストアルバムで、タイトル曲「Peace」は、ホレス・シルヴァー『Blowin’ the Blues Away』(‘59)のオリジナル曲ではなく、歌詞を加えてヴォーカル・ナンバーにした、ダグ&ジーン・カーンのヴァージョン(Black Jazzレーベル『Infant Eyes』(‘71)収録)をモチーフにしているのがポイントです。翌年にリリースしたライヴ盤『Roma In The Rain』も、新主流派時代のボビー・ハッチャーソンの雰囲気を匂わせる秀逸な作品。現在の河野氏は、ジャケット右手の真美夫人とともに、世界を舞台に平和と環境保護をテーマに活動しており、子供たちとのコンサート企画、講演会など積極的に展開しています。

最後にスタンプにしては大きすぎますが、ジャケット右に気になるバイク…。

Roy Porter Sound Machine / Jessica

1940年代のビパップ期からチャーリー・パーカーの録音の多くに参加しているドラマー、ロイ・ポーターのファーストアルバムで、言わずもがなのレアグルーヴの名盤。このジャケットの質感は、いかにもプライベート盤といった奇妙な佇まい。写真を切りぬいて貼りつけました、と言わんばかりにバイクがドラムの上を飛んでますから…(笑)。発色が異様に良い黄色のジャケットに浮かぶ、摩訶不思議なバイクの存在。このバイクこそ、Jessicaの裏アイコン。それを物語る曲が、ロイが息子のダリル君に捧げた、B1「Drums For Daryl」です。
当時14歳のダリル君はモトクロスにハマっており、すでに2つのトロフィーをもっていたそうで…。そんな彼お得意のエンジン音と父のドラムソロ、そして謎のシンセ音も入ったアブストラクトな親子セッションが繰り広げられています。
そうです、ジャケットのバイクは愛息、ダリル君でありました。当時シングルカットされたのは、フロアライクなタイトル曲でなく、なぜかこの「Drums For Daryl」。(しかもA面、B面も、ひたすらこのセッションが続きます)個人の思いが強すぎて、ちゃんと売れたか心配になりますが(笑)、そんなことはともかく、ミュージシャンの愛あふれる一面は、こんなジャケットにも反映されています。

皆さんのレコードにも、そっと潜んでいる愛すべき一部分…。ぜひ探してみてください。

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)
ジャズをメインにDJ歴約20年。アナログレコードにこだわったレアグルーヴ、和ジャズの音源発掘から、現代ジャズまで繋ぎ、ワン&オンリーな“JAZZのGROOVE”を起こすDJ。徹底したレコードの音源追求と、繊細かつ大胆なプレイで全国的な現場の支持を得て、ニューヨーク、スペインの招聘、東京JAZZ、2度のFUJI ROCK FESTIVAL、Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN等出演。クラブシーンのみならず老舗ジャズ喫茶やライヴハウスで、評論家やミュージシャンとのコラボレーションを積極的に行い、柔軟なセンスで音楽の楽しみ方を提示している。DJ活動の他、メディアでの執筆、選曲監修、伊勢丹新宿店など企業音楽プロデュースや、新世代ミュージシャンを取り上げた自身のレーベルKey of LIfe+を主宰。プロデュース・ユニット(RM jazz legacy)のディレクション、リリース活動なども行う。
HP: http://djotsuka.com

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