サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド (Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band) ビートルズ

WRITER
Tsutomu Noda

『サージェント・ペパーズ〜』は5枚持ってるよ

しばらくは予想通りのメールが何通か来た。当時のジョージ・マーティンとジェフ・エメリックによるモノラル録音がいかに優れていたかよくわかるとか、そういう感想だ。そしてそれから数ヶ月後、その友人は、いま『サージェント・ペパーズ〜』を買うかどうか迷っているというメールをよこしてきた。ぼくは最高の名盤なんだし、買ってソンはないと思うぜという返事をした。俺なんか、そのアルバム5枚持ってるよ。UKモノ盤、UKステレオ盤、USモノ盤、USステレオ盤、そして日本盤。証拠写真も送ってやった。すると数日後、その友人からついに買ってしまったというメールが届いた。UKモノ盤、どうやら1stプレスらしい。盤のコンディションはどうなの?とぼくは訊いた。多少のチリノイズは入るけど、どの曲も問題なく聴けているよと彼は言った。

ぼくが所有しているUKモノ盤は、90年代初頭にロンドンの中古レコード店で買った1枚で、A面の最後から2曲目の“シーズ・リーヴィング・ホーム”のみ音が割れていることが、日本に帰って家でそのレコードを聴いたときに初めてわかった。そのときぼくが受けたショックはそれなりのものだった。まだ円高の時代だったので、いまと違って若者は海外旅行をしやすかった。当時ぼくは頻繁にロンドンを訪れては、とにかくレコードを買いまくっていた。いま都内のレコード店でレコードを買いまくっている外国人旅行者と同じである。

当時は円高で現地価格が安かったとはいえ、たくさんのレコードが欲しいから、自分のなかに中古の上限は50ポンド、できれば30ポンド以下という目安を設けていた。だからというか、『サージェント・ペパーズ〜』を買ったときも、じつは2枚あったうちの安かったほうを選んでしまったのである。そしてケチったばかりに“シーズ・リーヴィング・ホーム”の音が割れていた、というわけだ。

もっとも、“シーズ・リーヴィング・ホーム”は好き嫌いがはっきり分かれる曲で、ぼくははっきり言って嫌い派である。甘ったるく感傷的な曲調は最後まで聴くのがかったるくなるくらいで、オーケストレーションもくどいし、だったらこの曲の音が割れていても、次の“ミスター・カイト”に針を飛ばせばいいだけの話じゃないか。しかし、心のどこかで、俺の持っている『サージェント・ペパーズ〜』は欠陥品だという劣等感があった。UKモノ盤で聴くとジョンのコーラスがなおいっそう大きな音量で聴けるとか、そういう文章を読んでしまったりするとなおさらその心の穴は膨らんでくる。そして、そういう心の穴を抱えたまま、たまたま入ったレコード店で『サージェント・ペパーズ〜』が安い値段で売られていたりすると、ついつい買ってしまうのだ。それが5枚という結果に繋がっている。

だったら、すべての『サージェント・ペパーズ〜』を売り払って、完璧な1枚をゲットしようぜという話もあるのだが、正直なところ、自分のなかでそこまで強烈にビートルズを蒐集しようという気持ちはない。もっとほかに聴きたいレコードはあるしね。が、友人がほぼ完璧な状態の1枚を手に入れたという話を聴いてからは、うらやましくて、自分のなかでまた再燃してしまった。まずはその資金作りのために要らないレコードを売ろう。これって、もはや音楽性とかそういうこととは別の回路が働いている話なので、我ながら自分にうんざりする。しかし、レコードにはこんな風にひとを狂わせる魔力があることだけは疑いようがない。それが中古だろうと新譜だろうと、レコードを買ったときって、やはりどうしようもなく嬉しいものなのだ。

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野田努
1963年静岡市生まれ。著書に『ブラック・マシン・ミュージック』、『ジャンク・ファンク・パンク』、『ロッカーズノークラッカーズ』、『もしもパンクがなかったら』。石野卓球との共著に『テクノボン』、三田格との共著に『TECHNO definitive 1973-2013』などがある。現在はP-VINE/ele-king booksにて単行本を編集。

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