サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド (Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band) ビートルズ

WRITER
Tsutomu Noda


ぼくの友人で、最近になってアナログ盤に目覚めた男がいる。彼は昨年、たまたま知り合いから古い英国製のスピーカーとターンテーブルを譲り受けたことをきっかけにステレオにはまってしまい、長年音楽業界で働いていながらも50を過ぎて初めてアナログ盤に取り憑かれてしまったのである。おめでとうございますというか、ご愁傷様というか、ぼくも数十年前に同じ経験をしている。80年代の英国製のスピーカーを良い値で手に入れてから、もともと好きだったアナログ盤への偏愛がさらに高まってしまった。そのころはしばらく家からでなくなり、部屋でずっとレコードを聴いている生活が続いた。やがてオリジナル盤を集めたくなったし、結婚してからはレコードを買ってくるところを妻にばれないようにしなければならなくなった。discogsで買ったレコードが直接家に届くことがないよう郵便局留めにしなければならなくなった。

レコードに憑かれた人間にとって、discogsとpaypalほどの悪魔はいない。深夜、酒を飲みながらdiscogsを見ていると、ついついうっかり買ってしまっているのだ。これは世界中のレコード愛好者が経験していることだろうけれど、ひどいときは買った記憶も曖昧で、起きてメールを見て初めて「あ、俺、買ってしまったんだ」ということがわかったりする。で、その金額を見てぞっとするわけだが、ぼくのような貧困者にとっては家計をダイレクトに直撃する大惨事にもなりかねないので、ぼくはもう10年ほど前にdiscogsとpaypalをおのれに固く禁じる決意をした。しかしそれでも暇があるとヤフオクで欲しいレコードを探してしまうわけで、レコードはもう増やすまいと数年前に何箱も売り払ったものの、また少しずつ増えていくという、誰かこの悪夢から覚まして欲しいと切に願う次第なのだ。

――ビートルズをアナログ盤で聴くといいよ

さて、アナログ盤に目覚めてしまった先述した友人には、まずは手始めにビートルズをアナログ盤で聴くといいよと教えてあげた。なぜビートルズなのかというと、これはアナログ盤で聴いたときに、そのプレスした国や年代の違いがわかりやすいからで、とくにUKモノで盤で聴いたときの感動がたまらない。そのとき世間では何が流行ってようが関係なく、ビートルズってこんなにやかましいバンドだったんだということをいちいち確認しては悦にいる。それに……、ぼくはその友人にこう付け加えた。英国製のスピーカーで、英国が生んだ最高のロック・バンドのひとつであるビートルズのUK盤を聴くというのは贅沢の極だぜ、と。すると友人はその話を真に受けて、さっそくビートルズを揃えはじめたのだった。

後編 : 『サージェント・ペパーズ〜』は5枚持ってるよ

野田努
1963年静岡市生まれ。著書に『ブラック・マシン・ミュージック』、『ジャンク・ファンク・パンク』、『ロッカーズノークラッカーズ』、『もしもパンクがなかったら』。石野卓球との共著に『テクノボン』、三田格との共著に『TECHNO definitive 1973-2013』などがある。現在はP-VINE/ele-king booksにて単行本を編集。

世界中のレコードを、その手の中に
  • Google Playでアプリをダウンロード
  • App Storeからアプリをダウンロード

関連記事


新着記事

すべての記事をdig!