なぜ中国でレコード人気が復活したのか? レコ屋やレーベルから見えた実態

WRITER
ジェイ・コウガミ

image:https://unsplash.com/photos/eO6zkItMLzg

6月、フランスの音楽イベントを取材で訪問した。その会場で、中国のレコードプレス工場の経営者と知り合い、話を聞く機会を得た。

プレス工場を運営するのは、中国で最も古いレーベルであるチャイナ・レコード・コーポレーション(CRC、中国唱片总公司)。2015年に上海でプレス工場を再オープンした。最後に中国でレコードがプレスされたのは1996年。それ以降、22年も中国ではレコードを生産する場所が国内に存在していなかった。

中国でも、世界各国と同様に毎年4月、レコード・ストア・デイで中国人アーティストやレーベルの限定盤や復刻盤のリリースを行ってくるなど、2010年代半ばから上海や北京、広州を中心に、コアな音楽ファンや若者、DJたちによって国内でアナログ人気が復活している。

CRCでは、プレス工場を復活させるため、ヨーロッパを中心に海外から自動プレスマシンを輸入。製造の需要や問い合わせも、年々増加しているという。

また中国・広州ではCDやDVDの製造工場であるYongTongが、2015年にレコードプレス工場を新たにオープンさせた。YongTongは自社でプレスマシンを開発するところから始め、大規模な製造ラインを構築し、一日数百枚単位で製造し始めている。クライアントも中国のレーベルのカタログから、インディーズレーベルのリリースを取り扱う。また海外のレーベルからの受注も増えている。

CRCによれば、中国でのアナログ人気復活はコレクターにとって喜ばしい出来事であるだけでなく、中国内で活動するインディーズアーティストやDIYアーティストたちからも期待値が高く、レコードをプレスする需要も徐々に高まっているという。

さらにCRCではレコード再生プロジェクトを通じて、自社が保有する6万以上のカタログからレコードを再プレスして、過去の名作を復刻させ中国の音楽文化を未来へ保存することを目指している。

アナログ人気は、別の角度からもさらに広がりを見せている。2018年には、プレス作業を学べるエンジニア向けの施設ヴァイナル・レコード・ワークショップが上海でオープン。レコードを製造するためのマシンの操作や運営を次世代に教えようという取り組みが始まった。

Image: https://unsplash.com/photos/MnOPyE-I1RU

中国で始まったレコード人気復活は、レコードショップ人気にもプラスの影響を与えている。

上海のレコードショップ、デイリー・ヴァイナルは、ストアでもあり、レコーディングスタジオやラウンジも兼ね備え、さらにAirbnbスタイルのシェアハウスとしても使うことができる。ショップ内には中国や日本のリリースが並び、ヒップホップやファンク、ソウルなど多岐に渡るジャンルがセレクトされている。

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デイリー・ヴァイナルでは、DJイベントやライブも運営しており、上海でのイベントにローカルDJや、日本や韓国からのゲストアーティストも招聘している。実店舗やオンラインストア、イベントを通じて、音楽好きからコアなファンまでが集まれるハブの役割を担っているストアの一つだ。

上海で最も有名なレコードストアはアップタウン・レコードかもしれない。2011年から運営を始め、オールドスクールのファンクやヒップホップ、ロック、中国ポップまで、レアな音源が多数揃う。国内のコレクターだけでなく、海外からのディガーやレコード好きなアーティストも足を運ぶストアだ。

アップタウン・レコードは特に、インディペンデントアーティストやインディーズレーベルの作品のキュレーションに注力する特色があり、地元アーティストのリリースを取り扱うだけでなく、インストア・イベントを開催したり、リリースパーティーも主催する。

レコードストアとは別に、輸入ビールやお酒をレコードと一緒に楽しめる、バースタイルの店舗「アップタウン・レコード&ビール」の運営も始めた。本家に比べてレコードのセレクションは小規模だが、音楽を気楽に楽しみたい場所としては最適だ。ちなみにデイリー・ヴァイナルもアップタウン・レコードも、2019年のレコード・ストア・デイに参加した上海のストアだ。

Image: https://genjingrecords.bandcamp.com/album/split-7-3

レコードストアの運営形態も様々だが、中国のレーベルの運用形式も型破りで個性的なものが目立つ。北京のGenjing Records(根茎唱片)は、ヴァイナル・オンリーのインディーズレーベル。2010年代初頭から、中国発のアーティストの作品をLPや7インチ、12インチでリリースしてきた歴史を持ち、DIY音楽カルチャーの系譜を継いでいる。リリースはメールオーダーや、地元のレコードストアで販売しており、近年はBandcampでも作品を買うことができる。

中国最大のインディーズレーベル、モダン・スカイもレコードに力を注いでいる。モダン・スカイは1997年から運営を続けている老舗のレーベルだが、近年では中国での人気フェスの運営で名前を聴いた人もいるかもしれない。彼らは、毎年北京で開催されるStrawberry Festivalのオーガナイザーであり、日本人アーティストも出演する国際的なフェスに成長させている。

モダン・スカイの場合、運営範囲を中国に限定せず、国際的にレーベルの存在感を広げている。すでにUSとUKでのレーベル運営も展開しており、現地のインディペンデントアーティストを発掘し、作品をヴァイナルで発表するリリース形態を行ってきた。またニューヨークやロサンゼルスでもモダン・スカイ名義でフェスを主催して、中国人アーティストの海外進出にも寄与するといった、ユニークな取り組みで実績を残してきた。

日本からは中々見えてこない中国の音楽事情。ストリーミングサービスをとっても日本の視聴形態とは異なり、少々現状が見えづらい部分があることは否定できない。

それゆえに、中国でレコード人気に注目が集まり始めたのは、音楽視聴や若者の消費行動を知るバロメーターとして、または音楽とリアルに繋がる手法として、今まで見えなかった中国の音楽カルチャーを知る機会になっていくのではないだろうか。その意味で、中国のレーベルの多くがBandcampを利用してレコードを販売しているのは非常に興味深い。ネットやストリーミングがいくら存在感を示しても、海外のレコード事情を見たり聴いたりする機会は、意外と未だに少ない。だがレコードが音楽ファンとアーティスト、インディーズレーベルをつなぐ重要なプラットフォームになっていることは万国共通のようだ。

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)
世界の音楽テクノロジーやビジネス、音楽業界のトレンドに特化した取材・執筆・リサーチ活動を行う音楽ビジネスメディア「All Digital Music」編集長を務める。海外の音楽カンファレンスを現地で取材するなど、グローバルな視点からクリエイティブとビジネスを横断した取材を国内外で数多く行っている。これまでWIRED.jp、Real Sound、オリコンなどオンラインメディアや経済メディアでアーティストや経営者、起業家のインタビューや業界動向の寄稿記事を手がける他、サービスや市場データに関するコンサルティングや講演も行う。

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