プラスチック製ストローが廃止され、我々のレコード(ポリ塩化ビニル)は消えて行くのか?

WRITER
ジェイ・コウガミ


日本では2018年に、アナログレコードの売上、出荷枚数共に前年を上回った。2018年に生産された新譜レコードの規模をお伝えすると、売上額は20億8000万円で108%増、出荷枚数は112万枚と105%増を記録し、国内では18年ぶりとなる20億円越えを達成するほど人気と需要が高まっている。

CDの売上低迷に反して、レコード人気はすでに10年近く続いている。レコード人気の背景はさまざまだが、フィジカルメディア形式で音楽を楽しむリスナーや、コレクション感覚で好きなレコードを集めるファンの需要を満たしてくれるのがこのメディアの良さ。またレコードは昨今の音楽ストリーミングの時代において、インディーズアーティストやレーベルがコアファンに向けて音楽を販売する形式としても貴重なビジネスとして貢献してきた。さらに大手レコード会社も近年、ミレニアル世代やZ世代といった若者層に対するマーケティングとしてレコード販売に取り組み始めている。

今年4月に毎年恒例となった「レコード・ストア・デイ」が世界各地で開催された。アメリカでは、レコードの売上枚数は1週間で82万7000枚に達した。これはレコード・ストア・デイ開催期間で過去最高記録だった。

こうした人気には表れていないのが、中古レコードの売上や直販だ。音楽業界が発表しているレコード出荷枚数や売上額には、中古市場の取引や、アーティストやレーベルがライブ会場で手売りするレコードの数字は含まれていない。つまりそれらの売上を全て加算すれば、レコード売上総額は巨大な数字になるはずで、取引される枚数も桁外れになるだろう。

しかしこれらのレコード人気が過熱するなか、問題が浮上している。それは、レコード製造の環境への悪影響だ。

現在主流となって販売されるレコード(ヴァイナル)では原材料にポリ塩化ビニル(PVC)が使われている。1940年代以降から用いられ、音質や耐久性に優れるとされるPVCで製造されるレコードは丈夫で軽く(しかし熱には弱い)ため、レコード製造の標準となっている。

だが、PVCを用いたレコード製造は見直される時期に来ている。

ヨーロッパでは今、プラスチック製品のゴミ対策や流通禁止に向けて動き出している。欧州連合(EU)は今年、使い捨てプラスチックの使用禁止法案を正式に承認した。ヨーロッパ各国では2021年の施行を前にプラスチック利用の見直しに関する規制が始まる。音楽フェスやイベントでのプラスチック製ストローを廃止する動きも、このEUの法案に則っている。

さらに2030年までにEU圏内で使用されるプラスチック製の製品や部品全てを、リユースまたはリサイクル可能な素材へ変更するという環境問題の改善を目指した戦略が進んでいるのだ。その規制の対象となる素材にPVCも含まれている。

PVCの利用だけでは済まない。多くの工場では現在も最新のプレス機を導入できずに、旧式や中古の蒸気ボイラー式マシンを使う工場が未だに多い。レコード製造向上で用いられる冷却水も廃水処理が必要だ。さらに、レコードジャケットに用いられる紙やインクも、美しいアートワークやオリジナルなカバーアートと引き換えに、多くの場合は環境に負荷をあたえてきた。配送で使われる段ボールやビニール製のシュリンクラップも含めば、レコードを製造したり購入することが、社会環境や人体の健康への悪影響につながりかねないというサステナビリティの問題と直結している。

このような社会問題、環境問題に対して、レコードを作るアーティストやレーベル、プレス工場は何ができるのだろうか?

Image: https://jaydag.bandcamp.com/album/significant-changes

2019年3月、カナダ人のDJでプロデューサーのジェイダ・Gは、デビューアルバム『Significant Changes』をカーボンニュートラルな素材で製造したレコードパッケージでリリースした。同作品は環境に配慮した製造プロセスを目指し、PVCの利用や、レコードのジャケットに用いるインクなどを減らして作られている。ジェイダ・Gはアーティスト活動と並行して、大学で環境毒性学の研究で修士を取得している。カーボンニュートラルなパッケージを使う背景には、炭素排出量を減らすことが目的としてあり、同レコードの売上が環境活動の資金として使われることになっている。

Image: https://thirdmanstore.com/boarding-house-reach

ロックミュージシャンで、自身もレコードプレス工場を運営するジャック・ホワイトは、デトロイトで経営するプレス工場Third Man Plantにおいて、水をリサイクルして再利用するプレス機を導入している。使用されるのは、環境に優しいNewbilt製の蒸気ボイラー式プレス機だ。


Image: https://www.youtube.com/watch?v=r1lGSSw0Y4g

オランダでレコード製造を手がけるSymcomは、プレス工場数社やテクノロジー企業と連携して、環境に優しい製造プロセスと原材料で作る「グリーン・ヴァイナル・レコード」を提供する。彼らは蒸気ボイラーを使わず、プラスチックを直接金型に押し当てて固化させる射出成形式の製造方法を利用している。この方法ではプレス機の動力を60%軽減でき、スタンパーなどの部品の劣化も減らすことができる。レコードとなる原材料には耐久性ある素材を用い、PVCや塩素の使用を減らそうとしている。

レコードを買ったり、コレクションすることが、音楽を手元に置いて楽しみたいという人の需要を満たしている現状に注目が当たる反面、レコード1枚から生まれる環境への負荷という側面は目に見えにくく、関心も埋もれがちだ。

とは言え、レコード人気が増えればプレス工場の作業も拡大していくという需要と供給の問題が大きく残る。レコード文化を維持することは大切だが、次の時代にどのようなレコード文化を維持していくかという新たな挑戦も解決していかなければならない。そして、レコードを買う消費者も、レコード製造についてより深く考えなければいけない時期にきていると言える。

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)
世界の音楽テクノロジーやビジネス、音楽業界のトレンドに特化した取材・執筆・リサーチ活動を行う音楽ビジネスメディア「All Digital Music」編集長を務める。海外の音楽カンファレンスを現地で取材するなど、グローバルな視点からクリエイティブとビジネスを横断した取材を国内外で数多く行っている。これまでWIRED.jp、Real Sound、オリコンなどオンラインメディアや経済メディアでアーティストや経営者、起業家のインタビューや業界動向の寄稿記事を手がける他、サービスや市場データに関するコンサルティングや講演も行う。

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