レコードを盛り上げる影の立役者、プレス工場オーナーたちの現在地

WRITER
ジェイ・コウガミ

アナログレコードのプレス工場が今、注目を集めている。

数々の名作をこれまで輩出してきた音楽都市の一つ、アメリカ・シカゴでは、約20年ぶりとなるプレス工場「スマッシュド・プラスチック」が11月にオープンした。


「レコード・ストア・デイ」の影響を受け、2010年代に入りアナログレコードの需要が高まる一方で、プレス工場や機材不足がより深刻化してきた。世界有数のアナログ大国であるアメリカでさえ、プレス工場は20を超える数しか存在していない。

工場は大量のオーダーを処理しつつ、出荷の締切りを守るため、稼働率を上げなければならない。アナログを作りたいインディーズアーティストやレーベルは、発注してからアナログ盤を手にするまで数ヶ月待たされることは、大きな問題となっている。

1990年代に最後のプレス工場が閉鎖されて以降、初めてシカゴにオープンした「スマッシュド・プラスチック」は、地元シカゴで非営利運営されるコミュニティラジオ局「CHIRP」のファウンダーでラジオDJのアンディ・ウェバーとジョン・ロンバード、インディーズレーベル「ステーショナリー・ハート」オーナーのスティーブ・ポルトニックが中心となって始まった。

彼らは工場をオープンするために、カナダでプレスマシンを新規に製造する会社「Viryl Technologies」から、24時間稼働可能な最新鋭のプレスマシン「WarmTone」を20万ドルで購入した。

https://www.viryltech.com/warmtone/

彼らが購入したWarmToneは、30秒以内でLPを1枚プレスできるスピードが特徴だ。約8時間の稼働で900-1100枚のレコードがプレスできる。

さらにこのプレスマシンは、Virylが開発した蒸気ボイラーを使わない世界初のプレスマシンである。

また彼らが見つけた「スマッシュド・プラスチック」の工場用敷地は、元々はハモンドオルガンの製造工場だったということも音楽心をそそられる。

アメリカでは今、こうしたプレス工場が次々とオープンしている。

デトロイトでは、元「ホワイト・ストライプス」で、ロックアーティストのジャック・ホワイトが手がける「サードマン・プレッシング」が2017年に稼働を始めた。また市内では、1965年から家族経営で続く「アーチャー・レコード・プレッシング」も稼働中だ。

カンザス州サリーナには、2011年から「クオリティ・レコード・プレッシング」が運営しており、クライアントにはジミ・ヘンドリックスのカタログ管理団体などを抱えて製造を続けている。

テキサス州オースティンには、小規模な注文から受け付ける「ゴールド・ラッシュ・ヴァイナル」がオープンした。


そして、インディーズバンドR.E.M.やB-52’sを生んだジョージア州アセンズでは、「キンダーコア・ヴァイナル」が2017年に立ち上がった。

運営するのは、インディーズレーベルの「キンダーコア・レコード」。レーベルの社長ライアン・ルイスや、レコーディング・エンジニアのビル・フォーテンベリーたちは、レコード好きな個人投資家たちから約100万ドル(1億円)の資金調達を実現して、工場をオープンした。

レコードブームの将来を不安視する地元自治体を説得し、資金を集めるまで、彼らは約2年を費やした。「キンダーコア・ヴァイナル」のオーナーたちは、通常のレコード盤よりも品質の良い製造を売りにした丁寧なレコード作りを徹底して行い、オーダー数を着実に伸ばしている。プレス工場は運営者である彼らに加えて、地元コミュニティのボランティアやインターンによって支えられている。

世界的な人気が続くレコード文化の裏側で、日夜可動するプレス工場が注目されることは限られるだろう。だからといって、レコードプレッシングに引き寄せられる人たちの熱量は止まらない。ネットやデジタルテクノロジーでは実現不可能な、不思議な魅力がレコードプレッシングにはある。

ソース
Chicago gets its first vinyl-pressing plant in decades | Chicago Reader
https://www.chicagoreader.com/chicago/smashed-plastic-vinyl-pressing-plant-record-chirp-viryl-technologies/Content?oid=62708778

Solving The Vinyl Comeback's Big Problem, One Antique Machine At A Time : The Record : NPR
https://www.npr.org/sections/therecord/2015/04/17/400364697/solving-the-vinyl-comebacks-big-problem-one-antique-machine-at-a-time

Spin me right ’round: Kindercore Vinyl celebrates one year of local record manufacturing | redandblack.com
https://www.redandblack.com/culture/spin-me-right-round-kindercore-vinyl-celebrates-one-year-of/article_50f590ae-dd62-11e8-bed7-4b9c9fd25f78.html

Athens' Kindercore Finds Second Life In Vinyl | 90.1 FM WABE
https://www.wabe.org/athens-kindercore-finds-second-life-vinyl/

なぜ今、アナログレコードのプレス工場が注目されるのか? オースティンの「ゴールド・ラッシュ・ヴァイナル」 – 中古レコード専門 ドーナツマガジン by リバイナル
https://donutsmagazine.com/column/jay-kogami003/

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)
世界の音楽テクノロジーやビジネス、音楽業界のトレンドに特化した取材・執筆・リサーチ活動を行う音楽ビジネスメディア「All Digital Music」編集長を務める。海外の音楽カンファレンスを現地で取材するなど、グローバルな視点からクリエイティブとビジネスを横断した取材を国内外で数多く行っている。これまでWIRED.jp、Real Sound、オリコンなどオンラインメディアや経済メディアでアーティストや経営者、起業家のインタビューや業界動向の寄稿記事を手がける他、サービスや市場データに関するコンサルティングや講演も行う。

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