なぜ今、アナログレコードのプレス工場が注目されるのか? オースティンの「ゴールド・ラッシュ・ヴァイナル」

WRITER
ジェイ・コウガミ

 

世界的に大賑わいのアナログレコード・シーン。この勢いを象徴するものと云えば、他のお店では見かけないようなレアなセレクションから、新旧オールジャンルの幅広い作品を紹介するレコードショップと、そこに足を運ぶアナログ・レコードのマニアやファン、そして新作LPや限定7インチを作り始めたアーティストだろう。

レコードストアを中心としたここ数年の人気の高まりで、注目が集まる中、もう一つ静かにこのシーンを支援している存在がある。それはレコードプレス工場だ。

日本では、唯一無二の存在である東洋化成。そして昨年にはソニーミュージックが工場にプレス機を導入して自主生産に挑む。

文化の活性化とレコードの供給を満たすためには、さらなるプレス工場たちの存在が重要になってくる。そして、いま世界では、新たにプレス工場を作っている音楽愛好家たちにも視線が注がれ始めている。

「ゴールド・ラッシュ・ヴァイナル」もそんな工場の一つ。アメリカのテキサス州にある「ライブ音楽の街」として知られる都市、オースティンで今年2月から稼働が始まった。

New labels for our test presses.

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ゴールド・ラッシュ・ヴァイナルでは、2台のマシンが稼働中で、将来はさらに4台を追加する予定だ。ここでは、年間180万枚の製造に対応できる。まだ、製造実績は小さいが、すでに地元のアーティストたちのリリースを手がけている。シェイキー・グレイブスといった個性派のアメリカ人アーティストやオースティンのインディーズバンドの作品がすでにアナログ化された。

ゴールド・ラッシュのようなプレス工場が注目を浴びている理由とは、一体何だろう? それはアナログの人気復活で新譜や復刻盤を待ち焦がれるファンに対して、製造が追いつかず商品を適時に届けられないという、需要と供給のアンバランスだ。現在のアメリカにあるプレス工場では、昨今のアナログ人気で需要が高まった結果、製造に2〜6ヶ月を要してしまう。反対に、ゴールド・ラッシュは製造完了までの時間がわずか4週間で済むという。

プレス工場のオーナーは、女性起業家のキャレン・ケラハー。バンドマネージャーの経験を持ち、起業前はGoogleで音楽ストリーミングサービスの仕事をしていた異色の音楽好きだ。元々は、サンフランシスコかアトランタ、ブルックリンで工場立ち上げを考えていた彼女は、多様なアーティストが暮らし、大勢のバンドがツアーで小さなライブハウスに訪れるオースティンの雰囲気に惹かれたという。そして、彼女はまたテキサス州とオースティンの街が、アーティストに優しい街づくりをめざしていることも工場を作ることに繋がった。

New live album from The Hussy on the presses this week. #smokeshow

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約800平方メートルの工場にアーティストやバンドが来れば、プレスマシンから出来上がったばかりの盤を聴くことができる。リクエストに応じて、カラー盤のプレスも可能だ。

ケラハーとゴールド・ラッシュがユニークな点は他にもある。例えば、工場の設計にあたって彼女はコカコーラの製造工場や大規模な病院の設計に携わった建築のエンジニアやコンサルタントを雇っていること。工場で使うWarmToneプレスマシン用に、コンプレッサーとボイラーに改良を加え、通常1時間半近くかけて温まるところ、わずか3分まで短縮させたことだ。

また、こうしたブティック式のプレス工場は、音楽シーンにおいてローカルのアーティストやレーベルがこれまで直面してきた問題の解決に向けて動き出している。それは、アナログのプレスの発注にかかる最低枚数が多すぎるという問題だ。

少数の盤を手早くプレスできる工場を探しているレーベルやアーティストが増えている今、ゴールド・ラッシュはあえて注文の最低枚数を定めないスタンスを取っている。少ない枚数のアナログが作れることで、ライブ会場やサイトで売ったり、地元のレコードショップやDJに渡すこともできるなど、可能性が広がる。アナログを作りたい人にとっては朗報としか言いようがない。

「今までコストの問題でアナログレコードを作れなかったローカルのバンドを手助けしたい。これまでのアナログ産業は、大物アーティストを優先してきた一方で、新人アーティストには厳しい製造条件ばかりを作ってきた背景があります」そうケラハーは述べている。

聴きたい曲がSpotifyやApple Musicでいつでも聴ける時代になった今こそ、欲しい時にアナログレコードを手に入れる方法そのものを変えることは、非常に大きな意味がある。新しいアーティストが現れて、素晴らしい作品を出した時、音楽がアナログレコードで存在することで、一つの潜在的な選択肢として音楽の楽しみが増える。街のレコードショップやDJが新譜を紹介する、、ファンやコレクターが好きなアーティストやバンドのアナログを買いに行く、こうした需要が高まっていく時代の中で、「身近」になるアナログレコードのプレス工場の存在が重要になってくる。

ゴールド・ラッシュ・ヴァイナルはオンラインでも注文を受け付けている。気になった方は連絡してみてほしい。

https://www.goldrushvinyl.com/

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)

ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、「All Digital Music」編集長)
世界の音楽テクノロジーやビジネス、音楽業界のトレンドに特化した取材・執筆・リサーチ活動を行う音楽ビジネスメディア「All Digital Music」編集長を務める。海外の音楽カンファレンスを現地で取材するなど、グローバルな視点からクリエイティブとビジネスを横断した取材を国内外で数多く行っている。これまでWIRED.jp、Real Sound、オリコンなどオンラインメディアや経済メディアでアーティストや経営者、起業家のインタビューや業界動向の寄稿記事を手がける他、サービスや市場データに関するコンサルティングや講演も行う。

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