日本人が経営したNYのレコードショップWeekend Recordsと永友慎の物語【最終話】

WRITER
REVINYL編集部

 今からおよそ20年前。一人の日本人がニューヨークはブルックリン・ウィリアムズバーグでレコードショップWeekend Recordsをオープンさせた。DJシャドウ、カット・ケミスト、ケニー・ドープなど、一流のDJたちが来店。みんなに愛されるも、3年で閉店。しかし、そのころの話は今も語り継がれ、彼の話に音楽ファンは目を輝かせる。

 その日本人の名前は永友慎さん。この連載は、彼の証言で綴った、Weekend Recordsと永友慎さんの物語。そしていよいよ最終話、現在のUpstairs Records & Barになる。

 取材当日、お客さんも交え1時間ほど飲み物を飲みながらカウンターで談笑。彼女はイギリスからの留学生。モデルのようなスタイルで美人だった。そんな彼女とたまたま一緒にお店に入ったものだから、永友さんも「仕込みですか?」と驚いていた。そして彼女が帰ってから、いよいよ本題を聞いていく。

店内にあるレコード、1枚1枚に思い出がある。

「バーをやっててよかったなと思いますよ。レコ屋だけだと、こういったことってないですからね。」

――さっきまでレコードを見ていた人と会話がはずんで、そのままカウンターで飲んでいってくれるってないですよね。
「こういうことがあるとフェイス・トゥ・フェイスでレコードを売って、会話もしてという楽しいニューヨーク時代を思い出します。でも今は、いかにレコードを販売するビジネスでお金儲けをしなくていいかを模索中。だからバーをどうにかしたいと思ってるんですよ。イベントを入れたり。」


彼女はたまたまUpstairs Records & Barに入ったとのこと。ジャズが好きと言うので、永友さんがレコード棚から好みに合いそうなジャズをセレクトして聴かせていた。

――Upstairs Records & Barも下北沢ですが、この場所になった理由は…?
「この場所はもともとロック・バーだったんです。ぼくが“ミュージックバーをやってみたい”とロック・バーのオーナーに言っていたのを覚えててくれて、お店がなくなるときに、“お店をやらない?”って声をかけてくれたのが理由ですね。居抜きだったので、ぼくが揃えたものって商品のレコードとミラーボールだけであとは、もともとあったのも。スピーカーもレコード棚もありました。灰皿もグラスも前のお店のもの。照明も変えてないから、電球が切れたときに、この電球がどこに売ってるのかわかんなくて(笑)。」

――名前の由来は?
「2階にあったからですね。Weekend Recordsの名前を付けたときと同じ感じで。」

――ここにあるレコードの中には、ニューヨークで売っていたものもありますか?
「もちろん、もちろん!その前からあるレコードもありますよ。僕が20歳くらいのころから持っていたレコードも。」

――思い出があるレコードもあるわけですよね?
「1枚1枚ありますよ。このお店だけで1万くらいの思い出があります。ぼくは、車の免許も持ってないから、買い付けで現場まで行くのにどれだけ苦労したか…。アメリカ人に“あんなところ一人で行ったのか?”って言われたりもしました。そういうところって、クレジットカードが使えなからキャッシュをたんまり持って行ってたし。ほんとに命がけでした。車の免許がない買い付け師(レコード・ディーラー)って当時ほかにいなかったと思いますよ。だからみんなに不思議がられていました。基本的に公共交通機関で行ける範囲で、コレクションを引っ張ってきていたから。うちにある商品はほんとうにいいと思っています。どこにも負けないつもりです。インターネットがない時代、情報がない時代に、このレコードたちを見つけるのってどれだけ大変なことだったか…。今は、だいたいのレコードの情報がインターネット上にあるんですよね。若い人にしてみれば、iPhoneのなかに存在してて、もはや所有している感覚に近いのかな。ドラえもんの世界みたいですね。」

――たしかに四次元ポケットかも。ちなみに思い出のレコードを、商品とはいえ売ることに抵抗はないですか?
「仕事なんでないです、というしかありませんね。」

――ディーラーとしての腕を磨くためにしたことは何でしょうか?
「四六時中、音楽を聞いていることでしょう。つねにポータブルプレイヤーを持って聞いてましたから。2リットルのペットボトルとラップに包んだサンドウィッチだけ持って、蛍光灯しかない地下の倉庫で朝9時から夜7時まで。一歩も外に出ないとか普通にありましたもん。」

――最近は海外へ買い付けに行ったりしますか?
「最近マレーシアに行きましたよ。行く前は絶対レコードは買わないと誓ったプライベート旅行だったんですが、現地の友人に誘われるがまま古銭屋に行って3日間で50枚くらい買いました。結局ぼくは、レコードしか取り柄がないんだなって少し悲しくなりましたけど。」

――現地の音楽を買ったんですか?
「そうですよ。唯一知っていた情報で、マレーシア、シンガポールのレコードって歌手がいてバッグバンドもいて、クレジットも必ず表記されてるんです。スタイラーズという有名なバックバンドがいるんですけど、彼らがやっていたら、DJで使える曲が多いっていう情報だけでした。実際に買ってみたら、たまたま全部アタリ。試しにほかのバンドを買ってみたら全部ハズレ。だから以降はスタイラーズしか買いませんでした。最終日にはマレーシアでDJしましたからね。現地で買ったレコードだけで。」

――すごい!
「レコードは買ったけどプレイヤーがなかったから、知り合いの小箱で開店前に聞かせてもらってたんです。そしたらそこのオーナーが“いいレコードばっかり持ってるね、DJやってよ”って言ってくれて。クアラルンプールにPSっていうDJチームがあるんですけど、メンバーに入れてもらいました。ぼく、19人目のメンバーで、日本人初みたいです(笑)。」

Upstairs Records & Barと自身のこれから

――日本ではレコードをチェックしていますか?
「もちろん! 今でも知らないレコードを新譜旧譜問わずと毎日チェックしていますよ。レコ屋もほぼ毎日行きます。知らないレコードがあったら、かたっぱしから聴いてます。レコードは、今も好きで好きでたまらない。レコ屋に行って新入荷のコーナーに知らないレコードがたくさん並んでると、すげぇ興奮しますもん。」

――どういう視点で見てるんですか?
「単純に、このアーティストでこんなレコード出してたんだとか、好きなレーベルで知らないレコードだったり、年代的にもバックのミュージシャン的にも絶対好みの音なのに見たことがないとか。それらが並んでると、興奮しますよ!」

――とくにオススメしたいレコードショップはありますか?
「学芸大にあるサテライトレコード。個人店でとくにオススメしたいレコ屋はあそこだな。サテライトは変なのがあるんですよ。変なのっていうのは、どこにも情報がないもの。ディーラーからしたら何これ?って試聴したくなるもの。おまけにオーナーが全ジャンル的にメチャクチャ音楽に詳しいです。」

――最近のオススメのレコードは何ですか?
「2018年のベストディスクのひとつに入るやつがありますよ。アディクションってアーティストの『Swing Ting』っていうEP。スケボーをやってる若い女の子が聞いてそうなR&Bですね。あと、chelmicoもいいですね。ラップのやり方、声もかっこいい。ファンなんですよ、お店に来てくれないかなぁ。ぼく、レコードで聴く音楽が好きなんですよね。ライブでもCDでも配信でもなくて、レコードで聴く音楽が好きなんです。」

――将来の展望はありますか?
「レコ屋以外でレコードの魅力を伝えていきたいですね。それこそ、このお店をもっと盛り上げて、ぼくはオーナーになりたい。このお店でDJをしていたい。ぼくはみんなが思ってるよりもDJが大好きなんですよ。それこそ、厚かましくもぼくをフェラ・クティで例えるなら、Upstairs Records & Barはシュラインってところでしょうか。」

――あの…、カラーペンを出されて何をしようとしてるんですか?
「手書きでフライヤーを描こうかなと思ってペンを買ってみたんですよ。来週ある自分のバースデーパーティーのフライヤーを(笑)。」

★バックナンバー
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永友慎

永友慎
宮崎県出身。47歳。下北沢にあるUpstairs Records & Bar店主。2000年代初頭にニューヨークはブルックリンのウィリアムズバーグでレコードショップWeekend Recordsをオープン。同店は、DJシャドウ、カット・ケミスト、ケニー・ドープなど、一流のDJたちが訪れるレコードショップとして話題になる。日本に帰国後は、下北沢でひよこレコード、Weekend Recordsを展開。現在にいたる。
https://www.instagram.com/upstairsrecordsandbar/

取材・文:REVINYL編集部
写真:則常 智宏

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