日本人が経営したNYのレコードショップWeekend Recordsと永友慎の物語【第3話】

WRITER
REVINYL編集部

★バックナンバー
第1話はこちら
第2話はこちら

今からおよそ20年前。一人の日本人がニューヨークはブルックリン・ウィリアムズバーグでレコードショップWeekend Recordsをオープンさせた。DJシャドウ、カット・ケミスト、ケニー・ドープなど、一流のDJたちが来店。みんなに愛されるも、3年で閉店。しかし、そのころの話は今も語り継がれ、彼の話に音楽ファンは目を輝かせる。

 その日本人の名前は永友慎さん。この連載は、彼の証言で綴った、Weekend Recordsと永友慎さんの物語である。

「日本に戻ることになったんですけど、ニューヨークの部屋はまだ借りてたんです。すぐには無理だとしても戻ろうと思ってたから。それくらいニューヨークでのレコードビジネスが上手くいってました。」

 取れるはずのビザが取れなくなり、着の身着のまま日本に帰ることになった永友さん。そして彼は、下北沢でひよこレコードを始めることなる。

ひよこレコードとWeekend Records(東京)のオープンと苦悩

――ニューヨークに戻ることはなく、下北沢で2005年にひよこレコードをオープンするんですよね。
「帰国して住む場所を探さないといけませんでした。仕事も就いてないから、なかなか部屋も借りれず。でも、友達の友達が下北でシェアハウスをやってて、そこに住むことができました。それまで、ほとんど下北に行ったことがなかったから、どんな街かも知らなかったんですけどね。」

――なぜ、下北沢にひよこレコードをオープンしたんですか?
「友達に“超お得物件があるから、ニューヨークでやってたようなレコ屋でもやってみれば?”って言われて、じゃあやってみようかと。本当はその友達が借りるはずだったんすでけど、条件面が合わなかったみたいで。」

――銭湯の裏にあって古いアパートの一室でしたね。ドキドキして入った思い出があります。
「昔はああいう店構えでもお客さんが来てくれたんですよ。」

――ひよこレコードの名前の由来は何ですか?
「レコ屋を始める人って、大概どこかのレコ屋で働いて経験を積んでから独立する人が多いと思います。ぼくもアメリカでレコードに関わる仕事をしたけど、日本でレコ屋をやるのは素人、初心者なわけで。ひよっこだったから、ひよこレコードと付けたんです。」

――上手いですね!
「もうひとつ小鳥レコードという候補があったんです。じつは、ニューヨークでWeekend RecordsをやるときにWeekend Recordsにしようか小鳥レコードにしようかで悩んだんですね。アメリカで日本語のかわいらしい名前もいいなと思って。けっきょくWeekend Recordsにするんですけど、チボ・マットの美保さんにその話をしたら“小鳥のほうが良かったかも”って言われて。『ステレオタイプA』のレコードにサインしてもらったんだけど、“小鳥レコードさんへ”って書かれてるのがあるなぁ。日本で小鳥レコードにしなかった理由は、ぼくがレコ屋をオープンするときにLittle Birdって名前のレコ屋があることを知って。それで名前が被っちゃうなと思ったんで、ひよこレコードにしたんです。」

――小鳥レコードもかわいいですね。ひよこレコードのイラストのひよこは、永友さんオリジナルですか? あれもかわいいです。
「当時のガールフレンドが描いたもので…深くは聞かないでください(泣)。」

――そうだったんですね…。ひよこレコードといったらセオ・パリッシュ・プレイのコーナーが特徴的でしたが、ほかにもそういったコーナーはありましたか?
「DJハーヴィー・プレイのコーナーもありましたよ。あと、ヒヨコズミックっていうジャンルのコーナーも人気でしたね。クラブCosmicでかかっていた音楽をまとめたコーナー。コズミックって、すごく乱暴に言うとCosmicでダニエル・バルデリがかけていた音楽に傾向があるからそう呼ばれています。ラリー・レヴァンのガラージと同じですね。コズミックというジャンルをDJに広めたのは、ひよこレコードだと言ってもらえることもあるんですよ。自分で言ってないですよ、人が言ってくれてたんですよ(笑)。」


話題にあがったセオ・パリッシュ・プレイのコーナー。ここだけ、カタカナで表記してるのには、ある理由…。その真実はコチラの記事に! 写真はUpstairs Records & Barのもの。


ひよこレコードのショップバッグに描かれたひよことEddie Cのサイン。(Upstairs Records & Barのインスタグラムより)

――お店の場所的にも隠れ家的存在だったかと思います。広まるのには、時間がかかったのではないですか?
「Weekend Recordsのネームバリューがあったのとメディアも興味を持ってくれたんで助かりました。それこそ、ひよこレコードがオープンするときに、ライターの磯部涼さんが『Quick Japan』で1ページ記事を書いてくれたんです。あと、シェアハウスにたまたま2MUCH CREWの1人が住んでて、彼らがひよこレコードの存在を広めてくれました。オープンしてすぐではないですけど、JET SETさんでもチャートを書かせてもらったり(JET SETさん、もう一度書きたいです!)。そうだ、レコ屋をやっててすげぇ嬉しかった思い出があるんですよ!」

――何ですか?
「学生時代にアイドルって呼んで追っかけをしてた女の子がいたんですけど、その子が『Quick Japan』の記事を見てお祝いの手紙を送ってくれたんですよ。さらには、お店にも来てくれた! あんなにニューヨークが好きだったのに、このときばかりは、日本でお店をやっててよかったって思いましたね(笑)。」

――順調な滑り出しじゃなですか(笑)。
「全然そうでもないんですよ。オープンして半年後くらいからずっと苦しい思いもしてきました。理由はいろいろあったんですけど…。ひとつは、僕はレコ屋を仕事としてやってるのに、“毎日遊んでる”と馬鹿にされたり。今でも言われることもあるんですけどね。本当にいろいろあり過ぎて……。いろいろなストレスがたまって、それをお酒でごまかすしかなかったんです。一時期、朝起きて寝るまでの間に取ってる水分にアルコールが入っていないことがなかった。いわゆるアル中になってたんですね。今はお酒を飲まなくなってそうとう経ちますけどね。」

――そうだったんですね……、
「ひよこレコードを閉めた理由は、ビジネスとして先細りを感じたから。やっとこさ食べれるくらいは稼げていたけど、買い付けに行ける機会も減ってくるだろうし、続けていても先細りするだけなら早めにと思って。このころには、すでに音楽バーとか、ほかのことも考えていました。まさに今の形態なんですけど。」

――でもまた同じ場所でWeekend Recordsをオープンされますよね?
「はい。物件を管理してた不動産屋のおばちゃんに“戻って来て”って言われて。ぼくの後に借りた人とトラブルがあったみたい。家賃もけっこう安くしてもらえたからやれるかなと思ったし、しばらく模索していた間にレコードに関わる仕事以外はできないと痛感したので。でもやっぱりやっていけなかったという。」

最終話に続く

永友慎

永友慎
宮崎県出身。47歳。下北沢にあるUpstairs Records & Bar店主。2000年代初頭にニューヨークはブルックリンのウィリアムズバーグでレコードショップWeekend Recordsをオープン。同店は、DJシャドウ、カット・ケミスト、ケニー・ドープなど、一流のDJたちが訪れるレコードショップとして話題になる。日本に帰国後は、下北沢でひよこレコード、Weekend Recordsを展開。現在にいたる。
https://www.instagram.com/upstairsrecordsandbar/

取材・文:REVINYL編集部
写真:則常 智宏

世界中のレコードを、その手の中に
  • Google Playでアプリをダウンロード
  • App Storeからアプリをダウンロード

関連記事


新着記事

すべての記事をdig!