Bill Withers 『 Bill Withers’ Greatest Hits』をご紹介

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林 剛

Bill Bill Withers / Bill Withers’ Greatest Hits(81年)

 ベスト・アルバム。グレイテスト・ヒッツ。レコード・マニアからは“邪道”だと避けられがちな商品だ。もっとも、新曲や未発表曲、シングル・オンリーの曲などを収録した付加価値のあるものなら話は別だが、既発のヒットだけを並べたベストは、よほどそのアーティストの熱心なファンでない限り食指が動かない、という人が多い。ストリーミング・サーヴィスで好きな曲を選んで聴くような時代には、もはやベスト盤という存在自体が意味のないものになりつつあるのかもしれないが。
 今回は、そんなベスト・アルバムをあえてとり上げてみる。81年に米コロムビアからリリースされ、日本盤も発売されたビル・ウィザーズの『Bill Withers' Greatest Hits』。個人的にはビル・ウィザーズ入門になった一枚であり、同時にベスト盤というものを(しばらく)軽んじるようになった一枚でもある。入手したのは80年代後半。このベストでほぼ初めてビルの音楽に接したので、当時の自分にとってはどれも新曲だったわけだが、今思えばヒット曲を並べただけの代物でもあった。しかも、生活雑貨のカタログみたいなジャケットからはビル・ウィザーズというシンガーがどんな人物なのか伝わってこない。実はコロムビアからのベスト盤としては、前年にサセックス時代とコロムビア時代のヒット(全10曲)からなる『The Best Of Bill Withers』というタイトルのものが出ていて、こちらのジャケットにはビルの顔(バストアップ)が大きく写っていた。そのベスト・アルバムの3曲を差し替え、曲順を変更したのが、この『Bill Withers' Greatest Hits』となる。

 差し替えて収録されたのは、ラリー・ナッシュとの共同プロデュースでポール・ライザーが管弦アレンジを手掛けたロマンティックな再会の歌“Hello Like Before”(75年)、ビルがゲスト・ヴォーカリストとして参加したグローヴァー・ワシントンJr.との“Just The Two Of Us”(80年:エレクトラ原盤)、クルセイダーズとの“Soul Shadows”(80年:MCA原盤)の計3曲。ビルのオリジナル・アルバムには未収録だった他レーベルでの客演曲(特に“Just The Two Of Us”)が収められたことで、当時は購買意欲を掻き立てるベスト盤だったのかもしれない。実際に比較的早い段階でCD化され、ベストセラーとなった。

 ビルを初期から知るファンにとっては味気ないと感じられたであろう小洒落たアルバム・ジャケットは、おそらく一曲目に登場する“Just The Two Of Us”のイメージに沿ったものと思われる。ラルフ・マクドナルド、ウィリアム・ソルターとの共作で、「クリスタルの恋人たち」という邦題が付けられた同曲は元祖スムース・ジャズとでも言うべきフュージョン・ソウル。ビルといえば、ウエストヴァージニア州スラブフォークという炭鉱の町の出身で、飛行機の修理工などを経て歌手になったシンガー/ソングライター。“Just The Two Of Us”にてメロウで洗練された音に包まれて歌う彼は、ギターを抱えて無骨な声でフォーキーなソウルを歌う初期のイメージとはかけ離れていた。結果的にこうした音楽的な洗練が彼を芸能活動から遠ざける一因にもなったのだが、この曲のヒットがビルの音楽人生におけるハイライトのひとつであったこともまた事実である。

 個人的にも、耳あたりの良い“Just The Two Of Us”からスタートするこのベスト盤のおかげで、フォーキーな“Ain’t No Sunshine”やグルーヴ感のある“Use Me”、ブラックストリートの曲で引用された“Grandma’s Hands”、クラブ・ヌーヴォーのカヴァーでも大ヒットした“Lean On Me”といった70年代前半のサセックス時代の曲にすんなり入っていくことができた。また、スキップ・スカボロウと共作した“Lovely Day”をはじめとするコロムビア移籍後(75年以降)のモダンでメロウな曲は、素朴すぎず、洗練されすぎずといった感じで、自分の感覚と相性が良かった。“Hello Like Before”や、その流れを汲む“I Want To Spend The Night”は、従来のフォーキーなソウルをボッサ・タッチにして洗練を加えたような傑作で、最も好きなビルの曲を問われたらこの2曲のうちどちらかを挙げると思う。昨年、ホセ・ジェイムズとアンソニー・デイヴィッドがほぼ同じタイミングでビルの名曲をカヴァーしたトリビュート・アルバムを出したが、特に“Hello Like Before”をアルバムのタイトルに冠し、“I Want To Spend The Night”もカヴァーしていたアンソニー・デイヴィッドにはいたく共感したものだ。

Bill Withers 『 Bill Withers’ Greatest Hits』をご紹介(後編)

林 剛

林 剛
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。雑誌版の『bmr』や『Waxpoetics Japan』などでのライター/取材活動を経て、現在は『bounce』『レコード・コレクターズ』を含め様々なメディアに寄稿。モータウンやフィリー・ソウルなどから現行のR&Bやネオ・ソウルまで、これまで手掛けたライナーノーツは1000枚近く。近年は、ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』、2010年代のR&Bを総括した『新R&B教本』を共同で監修/執筆。

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