Blue Magic『Blue Magic』をご紹介/ブルー・マジックの思い出

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林 剛

 件の“Look Me Up”はアルバムの2曲目に登場する。プロデュースの中核となるノーマン・ハリスがアラン・フェルダーと共作したフィリー・ダンサー。このアルバムといえば、R&Bチャート1位となった“Sideshow”や“What’s Come Over Me”、またメイン・イングリーディエントやロニー・ダイソンのヴァージョンでも知られる“Just Don’t Want To Be Lonely”といったスウィートなスロウ・バラードの評価が高い。だが、自分が好んで聴いていたのは、“Sideshow”よりも先にシングル・ヒット(73年R&Bチャート36位)した“Look Me Up”だった。

アルバムにはこれと同路線の“Welcome To The Club”や“Answer To My Prayer”もあるが、やはり“Look Me Up”が個人的には一番だ。アール・ヤングらしいドラムのフィルインで始まるイントロからカッコよく、軽快に曲を運ぶラリー・ワシントンのコンガ、高みに立ったように鳴り響くホーン、メロディアスで流麗なストリングス、そしてテッド・ミルズのファルセット・リードと、それぞれが強烈に主張し合いながら一体となってたたみかける。アレンジはヴィンセント・モンタナ。サルソウル・オーケストラに鞍替えする直前のMFSBにはとてつもない勢いと華やかさがあった。6分近くに及ぶアルバム・ヴァージョンでは、後半でMFSBメンバーたちのソロ回しが味わえるのもよい。

 リリックを含めて勇気を与えてくれるような“Look Me Up”。ビクビクしながら訪れた初めてのハーレムだったが、路上でカセットを売っているおばちゃんに話しかけるほどの余裕もかましながらアポロ・シアターに向かえたのは、魔法をかけるようにパワーを与えてくれたこの曲のおかげではないかと思っている。

それから8年後、フリーの音楽ジャーナリストとして活動を始めていた自分はフィラデルフィアに足を運び、このアルバムが録音されたシグマ・サウンド・スタジオでエンジニアのジョー・ターシャに話を聞く機会にも恵まれた。だが、現地で関係者からどんな良い話が聞けても、本作に関してはハーレムで“Look Me Up”を聴いた時の興奮に勝るものはない。ブルー・マジックのデビュー・アルバムは自分にとってハーレムの思い出。あれ以来、NYを訪れた際は125丁目のあの交差点に立つことにしている。

 ブルー・マジックというグループ名の由来に関しては諸説あるが、いまひとつはっきりしていない。奇しくも彼らがデビューした70年代前半、NYハーレムを根城とした麻薬ディーラーのフランク・ルーカスが“ブルー・マジック”という高純度のヘロインを売りさばいていたことを知る人もいるだろう。

2007年の映画『アメリカン・ギャングスター』で実在の人物として描かれたこの悪党は先日5月30日に88歳で亡くなったが、ジェイ・Z“Blue Magic”(2007年)のインスパイア源にもなった同映画の公開時に、このフィリーのグループを思い浮かべた人は少なくないはずだ。ただ、自分としては初めての渡米で体験した出来事にかけて、ビギナーズラック的な意味で“青春のマジック”“青い魔法”と解釈させてもらっている。

そして帰国後、記憶が正しければ同じ年に来日した彼らのライヴを青山かどこかのライヴ・ハウスで観たが、“Just Don’t Want To Be Lonely”を歌い出した時、最前列にいた僕はマイクを向けられてコーラスの部分を歌った。ブルー・マジックには本当に青い思い出しか残っていない。

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林 剛

林 剛
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。雑誌版の『bmr』や『Waxpoetics Japan』などでのライター/取材活動を経て、現在は『bounce』『レコード・コレクターズ』を含め様々なメディアに寄稿。モータウンやフィリー・ソウルなどから現行のR&Bやネオ・ソウルまで、これまで手掛けたライナーノーツは1000枚近く。近年は、ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』、2010年代のR&Bを総括した『新R&B教本』を共同で監修/執筆。

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