Blue Magic『Blue Magic』をご紹介/ブルー・マジックの思い出

WRITER
林 剛

フィラデルフィア産スウィート・ソウルの名盤。だが、僕の中でこのブルー・マジックの74年作(アトコ原盤)はNYハーレムの景色とともに記憶されている。個人的な思い出話になってしまうが、よろしければお付き合いいただきたい。

 大学生だった93年、冬休みを利用してアメリカ南部の音楽都市を探訪するひとり旅に出かけた。初めての海外。でも、南部に入る前に、まずは文化や人種の坩堝と言われるNYに行こうと。最初に外国の地を踏むならNYだと以前から何となく決めていたのだ。“黒人音楽の殿堂”と謳われるアポロ・シアターにも行ってみたい。当時20歳そこそこの若造なので、考えることはとにかくベタだ。

 NYに着いた日の夜、当時はまだあまり乗らない方がよいとされていた地下鉄(今でも決して安全だというわけではない)に一駅だけ乗ってみようと思ってトークンを買った。ホテル最寄りの59丁目(コロンバス・サークル)から72丁目まで行って引き返すつもりで。ホームに入ってきたのは「A」という電車。この時僕は各駅停車の他に急行があることを知らなかった。Aトレインは加速したまま72丁目を通過し、86丁目、96丁目、110丁目…と飛ばし続け、一向に止まる気配がない。車内にアジア系は自分だけ。どこに連れていかれるのだろう? 事情を知っていればデューク・エリントンの「A列車で行こう」でも脳内再生しながら嬉々とした表情を浮かべていたのかもしれないが、とにかく早く降りて引き返したい…と焦りまくっていたところ、125丁目でストップ。行きたかったハーレムだ。が、周囲の様子や時間帯のことを考えて地上には出ず、反対側のホームから今度はDトレインで59丁目に戻った。もちろんこの時、“You’re The One For Me”(81年)を脳内再生する余裕はなかった。

 初海外のNY初日、期せずして連れていかれたハーレム。運命のようなものを感じて、翌日の昼、今度は市営バスで125丁目に向かった。降車したのは、マルコムXとキング牧師の名前を冠した通り(レノックス・アヴェニューと125thストリート)が交差する場所。渡米数日前に日本公開されたスパイク・リー監督の映画『マルコムX』(92年)の終盤で一瞬映った標識がある! 

映画を観た数日後にこの場所に立っている自分に軽く酔いながら横断歩道の信号待ちをしていたら、ジージャンを着たお兄さんがバリバリに音割れした赤いラジカセを肩に背負って自分の横に立った。この時、スピーカーから大音量で流れていたのが、ブルー・マジックの“Look Me Up”だったのだ。93年に74年の音楽か…。若いお兄さんなのにずいぶん古い音楽を聴いてるんだなと思ったが、今だと例えば2019年にディアンジェロの『Voodoo』(2000年)を聴いているようなもので、そう考えれば当時はまだそれほど遠くない過去の音楽として親しんでいたのだろう。

ちなみにその時、向かい側でたむろする少年たちがラジカセでかけていたのはパブリック・エネミーの“Fight The Power”(89年)。出来すぎた話だが、スパイク・リー映画のワンシーンに紛れ込んだような気分で横断歩道を渡ったことは言うまでもない。とにかく、NYのハーレムでMFSBの流麗でダンサブルなサウンドとセオドア“テッド”ミルズの天を突き破るようなファルセットが音の割れた赤いラジカセから流れてきた時の光景は、四半世紀を経た今でも鮮明に覚えている。

 ブルー・マジックのレコードを初めて買ったのは89年の『From Out Of The Blue』。デフ・ジャム傘下のR&Bレーベル=OBR(Original Black Recordings)から復活を謳ってリリースされたアルバムで、アリソン・ウィリアムスとのデュエット“We’re Gonna Make It”も話題を呼んだ一作だ。その後、90年に日本で初CD化された時に手にしたのが、アトコ原盤となるこのデビュー・アルバム『Blue Magic』(74年)だった。

ギャンブル&ハフのフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ以外から登場したフィリー・ソウルといえば、スタイリスティックスやデルフォニックス、スピナーズあたりが思い浮かぶが、その中でもブルー・マジックの本作は、ハーレムでの体験を別にしても特段の思い入れがある。同じ74年に出されたローリング・ストーンズの『It's Only Rock'n Roll』に正面から向き合ったのも、その頃のブルー・マジックがバック・コーラスで参加しているという理由からだった。また、後にレーベルとしてフランキー・スミス(2019年3月に他界)の“Double Dutch Bus”(80年)などを送り出すWMOT(We Men Of Talent)というプロダクションを知ったのも、このアルバムを手にした時だったと思う。

Blue Magic『Blue Magic』をご紹介/ブルー・マジックの思い出(後編)

林 剛

林 剛
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。雑誌版の『bmr』や『Waxpoetics Japan』などでのライター/取材活動を経て、現在は『bounce』『レコード・コレクターズ』を含め様々なメディアに寄稿。モータウンやフィリー・ソウルなどから現行のR&Bやネオ・ソウルまで、これまで手掛けたライナーノーツは1000枚近く。近年は、ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』、2010年代のR&Bを総括した『新R&B教本』を共同で監修/執筆。

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