Maze 『Live In New Orleans』をご紹介/コーチェラでビヨンセがカヴァーした「Before I Let Go」

WRITER
林 剛

2018年4月に〈コーチェラ・フェスティヴァル〉で行われたビヨンセのライヴ、通称“ビーチェラ”のドキュメンタリー『Homecoming : A Film By Beyonce』がNetflixで配信されて話題を集めている。ニューオーリンズ音楽/カルチャーを呑み込み、マーチング・バンドを従えて歌い踊る豪快なパフォーマンスのインパクトも凄いが、個人的に興奮したのは、その実況サウンドトラック『Homecoming : The Live Album』にボーナス収録されたメイズfeat.フランキー・ビヴァリー“Before I Let Go”(81年)のカヴァーだ。DJジュビリーのニューオーリンズ・バウンス名曲“Get Ready,Ready”のビートやキャミオ“Candy”のフレーズを組み込んだ、テイ・キースらの技が光るリミックス的なカヴァーで、イントロには「ウォウォーオーォ〜!」というお約束の合唱も採用。このビヨンセ版“Before I Let Go”に合わせて踊る#BeforeILetGoChallengeなるダンス・チャレンジも始まっている。

ブラック・コミュニティで絶対的・圧倒的な人気を誇りながら、グラミーのようなアワードとは功労賞などを除いて無縁だったメイズ。そのリード・シンガーを務めるフランキー・ビヴァリーは、今回自分たちの曲がビヨンセにカヴァーされたことが「人生のハイライト」とまで話している。かつてメイズのファンだったという故マイルス・デイヴィスが“The Maze”という曲を録音したことがあるが、ビヨンセにカヴァーされたことはマイルスによるオマージュを凌ぐ勲章だったのだろう。

そんな“Before I Let Go”をスタジオ録音の新曲として披露したのが、81年に発表したメイズ初のライヴ・アルバム『Live In New Orleans』(LP2枚組)である。ライヴが行われたのは80年11月、ニューオーリンズのセンガー・シアターにて。目抜き通りのカナル・ストリートに面し、フレンチクオーターとトレメ地区の境目あたりに建つ歴史ある劇場だ。

何故ニューオーリンズだったのか。その理由をフランキーは以前、メイズの初期のアルバムがルイジアナ州で好セールスを上げたからだと話してくれたが、本ライヴ盤でも披露される“Feel That You’re Feelin’”を含む79年作『Inspiration』をルイジアナ州ボガルーサのStudio In The Countryで録音した際、南部の人々のサザン・ホスピタリティに触れたことも彼らをかの地へ向かわせたようだ。そんな体験をもとに作った“Southern Girl”もニューオーリンズ(の女性)について歌った曲だった。それを彼らはセンガー・シアターで披露し、地元の観客から歓声を浴びることになる。こうしてメイズは出身地のフィラデルフィアや活動拠点の西海岸よりもニューオーリンズの街や現地ファンとの絆を深めていく。同地で行われている全米最大のR&Bフェス〈エッセンス・ミュージック・フェスティヴァル〉で95年から2009年までの15年間大トリを務めたのも、そんな友好関係の賜物だ。

8人のメンバーで臨んだこのライヴは、フランキーがカッティングでギターを鳴らしながら歌い出す“You”からシンプルで芯のあるグルーヴでシルキーなソウル・ワールドへ誘い込む。特にパーカッションはメイズのグルーヴのキモ。ライヴではイントロを延々と引っ張る“Joy And Pain”のリズム・ボックスも有名だが、母体グループのバトラーズ時代からフランキーと歩んできたコア・メンバーのマッキンリー“バグ”ウィリアムス(2011年に他界)とロナルド“ローム”ロウリーはふたりともパーカッショニスト兼バック・ヴォーカルで、リズムをキープするふたりのプレイもステージの熱を上昇させる。そういえば、鍵盤とギターを弾くフランキーも、マーヴィン・ゲイ(ロウ・ソウルからメイズへの改名を提案した彼らのメンター)の“Got To Give It Up”(77年)に参加した際に、ミルク瓶をスプーンで叩いてカウベルのような音を鳴らしていたことがある。

当時グループに正式加入したばかりのフィリップ・ウーがシンセサイザーで暴れまくっているのも印象深い。後に久保田利伸などのバックを支えることになるウーは、メイズ加入前にロイ・エアーズ・ユビキティの鍵盤奏者として活躍していたチャイニーズ・アメリカン。ここではフェンダー・ローズとシンセサイザーを巧みに操り、この頃使い始めたオーバーハイムのシンセを叩くように弾いている。“Changing Times”でのシンセ・ソロの何と凄まじいことか。

そんなライヴをパッケージしたアルバムがメイズの代表作となったのは、ライヴ力の高さに加えて、スタジオ録音の新曲として用意したうちのひとつ“Before I Let Go”がエレクトリック・スライドというダンスとともにブラック・コミュニティで聴き(踊り)継がれてきたから。夢中になっていた女の子との関係がこじれるも、自分が去るまでに最善を尽くそうとする。後に〈Gaining Though Losing〉と謳うメイズらしい、痛みを知ることで芽生える慈愛の心をシンプルに描いた歌だ。ビヨンセのカヴァーも『Homecoming : The Live Album』でボーナス扱いだったが、それはメイズの本盤に倣ったのではないか?とは深読みしすぎだろうか。

87年に出されたCDではアナログのオリジナルLPから3トラックがオミットされていた。DVDも抜粋版だ。つまり曲数はアナログが一番多い。それゆえ、ミント(美品)表記のLPを見つけたら、その都度買うことにしている。メイズはスタジオ録音のオリジナル・アルバムを93年以降出していないが、ライヴ活動は現在も続行中。今年で25周年を迎える〈エッセンス・フェスティヴァル〉では盛大なトリビュートが行われる予定だ。まさに〈Live In New Orleans〉。エレクトリック・スライドを踊るブラック・ピープルたちの姿が今から目に浮かぶ。

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林 剛

林 剛
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。雑誌版の『bmr』や『Waxpoetics Japan』などでのライター/取材活動を経て、現在は『bounce』『レコード・コレクターズ』を含め様々なメディアに寄稿。モータウンやフィリー・ソウルなどから現行のR&Bやネオ・ソウルまで、これまで手掛けたライナーノーツは1000枚近く。近年は、ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』、2010年代のR&Bを総括した『新R&B教本』を共同で監修/執筆。

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