たった1枚だけ、何かボサノヴァのアルバムをオススメしてください 〜ゲッツ/ジルベルト 〜BAR BOSSA店主、林伸次〜

WRITER
林伸次

BAR BOSSAは、渋谷の喧騒を離れた裏道にあり、大人のための静かなお店。ワインを中心に手料理のおつまみや季節のチーズなどを取り揃え、BGMは店名から分かる通り、ボサノヴァが流れる。店主の林伸次氏は、CakesやNoteなどで連載を持ち、フォロワー数20,000人以上の人気文筆家でもあります。過去にはインターネットでレコードを販売する「ボッサ・レコード」というサイトも運営し、レコードに関わる知識は非常に豊富。さあ、7回目となる本記事、是非ご覧ください。

僕は、「ボサノヴァのかかるバー」を21年間、経営してきたのですが、「たった1枚だけ、何かボサノヴァのアルバムをオススメしてください」と言われることがたまにありまして、そんなとき、必ず自信を持って勧めるのがこのアルバム、『ゲッツ/ジルベルト』です。

もしあなたがこのアルバムを聴いたことがなければ、今すぐにでも聴いてみてください。あまりにも有名すぎて聴かず嫌いの人もいるかも知れませんし、ジョアン・ジルベルトの大ファンにとってみれば、スタン・ゲッツがうるさすぎという人もいるかも知れません。

でもやっぱりこのアルバムはアメリカのジャズとブラジルのボサノヴァがぶつかって生まれた奇跡的なアルバムです。こんなアルバム、一枚しか存在しないのも納得です。それでは、どうしてこんなアルバムが生まれることになったのか、考えていきましょう。

まずジョアン・ジルベルトが1959年にファースト・アルバムを発表します。ジョアンのギターと歌と、バックはアントニオ・カルロス・ジョビンのピアノとジョビンがアレンジのオーケストラです。

このスタイルのまま、1960年にセカンド、1961年にサード、計3枚、ジョアン・ジルベルトはアルバムを発表しています。

そして、ジョアンとジョビンはアメリカに渡り、先にアントニオ・カルロス・ジョビンが『ザ・コンポーザー・オブ・デザフィナード』というタイトルのアルバムでデビューしてしまいます。このアルバムはジョビンのピアノとクラウス・オガーマンのアレンジのオーケストラです。

要するに「ジョアンとジョビンがブラジルで作ってきたアルバムの、ジョアン抜き」なんです。

このアルバムが先に発表された理由は、色々とあるかとは思いますが、「作曲家ジョビンの知名度」が元々、アメリカであったのと、「ポルトガル語で歌うアルバム」より、「インストルメンタルのアルバム」の方が、アメリカでは受けやすいと判断したのだと、勝手に想像します。

そして、いよいよボサノヴァの二人の創始者「ジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンのアルバム」がアメリカで制作されるというアイディアがもちろん出てきたはずです。

普通に考えると、ブラジル時代の延長線上で制作しますよね。ジョアンのギターと歌と、ジョビンのピアノ、そしてクラウス・オガーマンのオーケストラというのが順当なアルバムではないでしょうか。でも、そんなアルバムは作られませんでした。

僕はそれが常々、疑問で、こう考えていました。「これはスタン・ゲッツ側からのアルバムなんだ」。

ではスタン・ゲッツの方から考えてみましょう。

1962年、ブラジルから「ボサノヴァ」を持ち帰ってきたギターリストのチャーリー・バードと、スタン・ゲッツは『ジャズ・サンバ』というアルバムを発表します。これは大成功しました。アメリカに「ボサノヴァ」という音楽を知らしめたアルバムです。しかし、このアルバムはチャーリー・バードのリズム感が「ブラジル本物のリズム」ではないんです。

スタン・ゲッツもそこが気になったのでしょうか、映画『黒いオルフェ』で既に有名なブラジル人ギターリストのルイス・ボンファと『ジャズ・サンバ・アンコール!』というアルバムを1963年に発表します。そのアルバムにはボンファの奥様、マリア・トレードも声で参加していて、後の「ボサノヴァのイメージ」にぴったりです。

僕は、この延長線上で、スタン・ゲッツが「じゃあ次は、ジョアンとジョビンとアルバムを作っちゃおうかな」って判断したんだとずっと思ってたんですね。まあゲッツが判断したのではなくて、プロデューサーのクリード・テイラーが、そういう「ゲッツの3枚目」って考えていたんだと思ったんです。まあジャケットも前の2枚と似ているから、そんな感じでしょう。

でも、ジョアン・ジルベルトの3枚目のアメリカ版『ボス・オブ・ボサノヴァ』のブラジル未発表テイク『エスチ・オリャール』を聞いて、この考えが変わりました。

ジョアンとジョビンは『ゲッツ/ジルベルト』以前に、「ボサノヴァってオーケストラなしのシンプルなアレンジの方が良いんじゃない」っていうアイディアに達していたようなんです。

だから、スタン・ゲッツとの共演で、「無理矢理、ゲッツのジャズ・ワールドに合わせた」というのではなく、自然とジョアンとジョビンの「新しいボサノヴァ世界」にスタン・ゲッツが参加したっていう形にまとまったんだろう、というのが僕の「説」です。

そうなんです。このアルバムはジャケット・ワークも含め、「スタン・ゲッツのボサノヴァ3部作の3枚目」という作り方がされているとみなさん信じていると思うのですが、実はジョアンとジョビンの「新しい時代」にスタン・ゲッツが上手く参加したというのが答えではと思っています。

まあでも、このアルバムに「アストラッドを参加させよう」って思いついたのは素晴らしいですね。その辺りは色んな説があって「謎」ですが、この謎は謎のままで良いような気がします。

BAR BOSSA

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