このまま消えてしまうのだけはあまりにも悲しい録音のこと〜BAR BOSSA店主、林伸次〜

WRITER
林伸次

BAR BOSSAは、渋谷の喧騒を離れた裏道にあり、大人のための静かなお店。ワインを中心に手料理のおつまみや季節のチーズなどを取り揃え、BGMは店名から分かる通り、ボサノヴァが流れる。店主の林伸次氏は、CakesやNoteなどで連載を持ち、フォロワー数20,000人以上の人気文筆家でもあります。過去にはインターネットでレコードを販売する「ボッサ・レコード」というサイトも運営し、レコードに関わる知識は非常に豊富。さあ、4回目となる本記事、是非ご覧ください。

1990年代にCD再発化の波というのがありました。あのとき、すごく入手困難なアルバムがCD化されて陽の目を浴びたり、再評価ムーブメントというのがあったり、音楽ファンを充分楽しませてくれました。

そのとき、たくさんの「未発表テイク」が発掘されて、そのアルバムがCD化される時に、「ボーナストラック」としてたくさん収録されたのは音楽ファンを驚かせましたよね。「こんな音源があったんだ」とか「未収録テイクの方がどう聴いても良い演奏なのに、どうしてこっちをボツにしたんだろう」とか、色んな音楽の楽しみ方が出来ました。

そんな流れもあってか、誰かの自宅でなんとなく録音されたテープが見つかって、「プライベート音源」としてCD化されたり、ライブ会場で誰かが録音していたテープが見つかり「幻のセッション」なんて感じのCDが出ることもありました。

今回は、「もっと探せば、この辺りのボサノヴァの録音、あるんじゃないかな」がテーマです(マニアックでしたらすいません。レコードのサイトなので、そういうのも良いかなと思いまして…)。

セルジオ・メンデスが、ブラジル’66で『マシュケナダ』で大ヒットする前に、セルジオ・メンデスブラジル’65という名前で活動していたのはご存じかと思います。

この時期、1965年、セルジオ・メンデスは2枚アルバムを出しています。

1枚はライブアルバムで、『In Person At El Matador!』。



もう1枚はスタジオ録音で、『Brasil'65 Wanda de Sah』。



これ、聴いた方はみんな気がつくと思うのですが、どう考えても「すごくたくさん録音した中から、何曲かを選んでアルバムにしている」んです。

ライブアルバムの方は普通に考えて、エル・マタドールで何日かにわたって録音したはずだから、違う録音、違う曲、たくさんあるはずです。もしその日、1日の録音だったとしても、他のテイクはたくさんあるはずです。

スタジオ録音の方も、聴いた方はわかるかと思うのですが、「セルジオ・メンデスのピアノが中心の録音」とか「ワンダのヴォーカルが中心の録音」とか「ホジーニャのギターが中心の録音」といった感じで、ヴァラエティ豊かにいろんな録音を試しているんですね。これはどう考えても「違うテイク」がたくさんあるはずです。

さらに、このセルジオ・メンデス&ブラジル’65はこういうシングルを出しているのはご存じでしょうか。


※こちらのレコードは川嶋繁良さんにお借りしました。川嶋さん、ありがとうございます。

これ、マルコス・ヴァーリがヴォーカルとギターで参加しているんです。そしてかなり「マルコス・ヴァーリ色が強い内容」でソフトロック色が濃く出ています。ビートルズ曲やってますしね。

想像するに、セルジオ・メンデス、この当時、色んなスタイル、色んな編成を試していたんだと思います。結局、その試みは色んな経緯があり、ブラジル66の大ヒットに繋がるのですが、その直前にセルジオ・メンデスが色々と悩んでいるのが、このブラジル65の時期のおもしろさでもあります。

そういうのを今、この21世紀に、全部「未発表テイク」を並べて、聴き比べてっていうのが出来たら最高だと思いませんか?

おそらく、キャピトルとアトランティックの倉庫を探せば色んな音源が出てくるはずです。このまま忘れ去られる前に、是非、陽の目を浴びさせてあげられないでしょうか。

アトランティック絡みといえば、ジョアン・ジルベルトのアトランティック盤の『Este seu olhar』です。



これ、ジョアンの3枚目のオデオン盤のアメリカ盤なのですが、アメリカ盤の方には1曲、テイクが違うものが入っているんです。バックのピアノはアントニオ・カルロス・ジョビンで、もう「奇跡の録音」と思うくらい美しい演奏なんです。

そしてこの録音を聴いた人はみんな感じると思うのですが、ジョアンの次のアルバム『ゲッツ・ジルベルト』を彷彿させます。違う言い方をすれば、「ゲッツジルベルトのスタンゲッツなし」です。

これ、想像するにジョアンとジョビンはこの時代、こういう演奏を好んでやっていて、いくつか録音が残っているのではと思うんです。それが1曲たまたまアメリカ盤で採用されたのではと思います。

だから、ブラジルのEMIの倉庫か、アメリカのアトランティックの倉庫を探せば、絶対にこの奇跡の録音に似たテイク、他にもあるはずなんです。誰か探してくれないでしょうか。

僕、以前、「ボッサ・レコード」というサイトでブラジルから中古レコードを輸入して、販売していたんですね。

そこでやっぱり人気があって売れるのはジョアン・ジルベルトとジョアン・ドナートなんです。この二人はとにかく世界中にマニアがいて、みんな血眼でレコードを探しているんです。

この二人、もちろんボサノヴァ前夜に一緒に演奏していたのは有名ですが、実は『ゲッツ/ジルベルト』の後で、イタリアで一緒に演奏しているんです。

その当時、ジョアンは世界中で注目されていたわけですから、どう考えても誰かがライブを録音しているはずなんです。

その録音テープがもしみつかったら、世紀の発見です。これ、インターネットで募集をかけたりすると、たぶんみつかると思うんです。

これもいつか陽の目を浴びさせてあげたいんですよねえ。

以上、「世の中に埋もれてしまって、このまま消えてしまうのだけはあまりにも悲しい録音のこと」でした。

BAR BOSSA

BAR BOSSA
東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル 1F
TEL. 03-5458-4185
営業時間 / 月~土 18:00~24:00
定休日 / 日、祝

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